医学界新聞

 

【投稿】

米国における専門医資格更新制度
――医学者であり臨床医であることの認定

岡田 正人(聖路加国際病院・アレルギー膠原病科)


 近年,日本において乱立する専門医制度を整理し,より確立したものとなるように公的機関,および学会による活動が続けられている。米国の専門医制度は過去20年ほどの間に整備が進められ,ある程度確立した制度となっている。今後日本において改革を進めるうえでも米国の制度は参考の1つになると考えられるため,私が経験した専門医更新制度について紹介したい。

米国内科系専門医研修と専門医資格制度

 米国では内科研修が終わるとともに内科専門医試験を受けることが通例であり,このための準備も約半年-1年前から徐々に始めるのが標準となっている。テスト自体はマルチプルチョイス形式の日本の医師国家試験と同じような制度である。米国の研修指定病院における3年間の内科研修で経験する,数千人の入院および外来患者に関してしっかりと理解することにより合格できる,実地に即した問題が中心となっている。

 試験に対する準備としては,米国内科学会(ACP:American College of Physician)から数年ごとに更新されるMKSAP(Medical Knowledge Self Assessment Program,詳細はhttp://www.acponline.org/catalog/mksap/13/)を使用することが最も多く,内科各分野に対して1冊ずつのテキストと数十から100問程度の問題がそれぞれに付いている。数年の改訂の間に最新の知見を補うためアップデートも出版されている。専門医試験を監督施行するのはあくまでABIM(American Board of Internal Medicine)であるが,ACPは研修施設にかかわらず,標準的な知識を修得し専門医試験に臨めるように手助けをしている。

 米国では,この内科専門医試験に合格しないと3年間の研修をした意味がほとんどなくなるため,日本における国家試験と同じような意味合いがある。例としては,内科研修の後に受ける循環器内科,消化器内科などの専門研修を受けても,内科専門医を取得していなければそれらの専門医試験を受けることもできない。しかしながら,試験はあくまで確認のためであり,実際の研修自体がより重要であると考えられている。よって,研修制度には細かな規則によりレクチャー数,ローテーションカリキュラムなどが決められており,研修施設認可取り消しの権限を持つ公的な監視機関(ACGME:The Accreditation Council for Graduate Medical Education)による検査も定期的に行われる。このような研修施設において無事研修が修了したと認められた場合のみ,受験資格が与えられる。一般的に試験問題のレベルはハリソンの問題集などと同等であり,約70%の正答率で合格できるようである。

 内科専門医は10年ごとに更新試験を受ける必要がある。更新試験は初回の認定試験と比べ半分の量で,目的はあくまで専門医レベルの維持であり,そのため十分な準備が受験前に義務化されている。1つは受験前に各60問の6つの問題集をインターネット上で解く制度であり,これにすべて合格することが受験資格の必須条件になっている。これらの問題を通して自分の弱い分野を自覚し勉強を進めていくことになる。私は更新試験前にMayo Clinic Internal Medicine Board Reviewを通読し,ハリソンの問題集,MKSAP updateを終わらせた。

 内科専門医取得後,約半数は一般内科医として臨床診療につき,残りの者は内科専門科の研修に進む。各専門科の研修は通常2-3年となっており,一般内科研修と同様に一定のカリキュラムに沿った研修が義務づけられている。よって,複数の科を研修することは通常認められておらず,共通部分の多い呼吸器科・集中治療科,腫瘍内科・血液内科,アレルギー臨床免疫科・膠原病関節炎(リウマチ)内科の組み合わせのみがそれぞれの共通部分を認め合い同時研修が可能となっている。研修修了後は一般内科と同様に学会とは独立組織である機関により専門医試験が行われる。10年ごとに更新が必要なことも一般内科の専門医と同様である。専門医試験レベルは一般内科専門医試験とは確固とした違いがあり,一般内科研修やガイドラインに精通しているレベルではまったく太刀打ちできない。

アレルギー・臨床免疫科専門医更新試験

 私は数年前に内科専門医更新試験と膠原病関節炎(リウマチ)内科の更新試験,2005年にアレルギー臨床免疫科専門医更新試験を受験した(図)。アレルギー・臨床免疫科専門医試験は,他の内科専門医試験が近い将来導入することになっているいくつかの新しい制度をいち早く昨年から取り入れているので,ここではこちらを中心に紹介する。

 アレルギー・臨床免疫科は米国の専門医資格の中では特殊であり,米国内科専門医認定機関と米国小児科専門医認定機関の合同によって運営されている(ABAI:The American Board of Allergy and Immunology)。これは同じ研修プログラムに内科専門医および小児科専門医の両方から参加することが可能となっているためであり,すべてのアレルギー臨床免疫分野の疾患に患者の年齢を問わず対応できる専門医を育てることを目的としている。アレルギー疾患が小児から大人に引き続いて起こる数少ない慢性疾患であること,また,アレルギー臨床免疫専門医の定員が非常に限られていること(継続更新可能な資格を持った医師は全米で2000人弱)から,このような制度になっていると考えられる。私が研修したYale大学病院でもアレルギー専門医研修枠は毎年1人であり,小児科出身者と内科出身者を交互に採用することが多かったが,米国の大学病院でも半数はアレルギー専門医研修の認定施設になっていない。

受験資格認定とその準備

 アレルギー・臨床免疫科の専門医の更新試験を2005年10月に受けるためには,同年1月までに必要書類を提出しなければならなかった。必要書類には米国における制限および懲罰履歴のない医師免許の証明書,そして医学的,倫理的臨床能力に関して保証する2つの推薦状が含まれる。

 この推薦状は受験者が診療している病院の内科部長および小児科部長,もしくは同じ地域のアレルギー臨床免疫科専門医からのものが原則となっている。アメリカでは専門医は開業してもオープン制の病院と契約することになっており,そのため外来患者の多くは自分の開業施設において診察するが,必要となった入院患者においては契約をした総合病院で入院管理をする。そのため専門医として診療している場合に提携する大学病院および総合病院のない専門医は存在せず,このような制度が成り立つ。これらの推薦文はいくつかの項目に関し,5段階評価を下すようになっており,最後にコメントを書く欄がある。またそれに加えもう1通正式な推薦の手紙が病院長から必要となる。これらの書類とともに専門医更新試験受験申請書と受験料($2400)の小切手を送付し,承認されると,ようやく更新試験を受けるためのプログラムに入ることが許される。

 まず,2005年の2月には内科専門医更新試験の時と同じように,自主学習用の問題集を解き始めることとなった。これはアレルギー・臨床免疫科の受験者がそれほど多くないことから内科専門医のようにオンライン化されておらず,150問の問題集が送られてきた。3月末までに解答を返送し,正答率が80%に達していない場合には5月までにもう1つの問題集が送られ,この2冊目の問題集でも80%の正答率が得られなかった場合は,その時点で今回の専門医更新試験受験資格を失うため,また新たに更新試験受験に関して翌年申請を始めからやり直すようになる。

 問題のレベルは大変高く,専門医用教科書,学会誌などを見直しながら解くことが普通であり,これをしっかり理解しながら解くことで,ある程度の準備が整うようになっていた。もちろん,代表的な教科書,ここ数年の学会誌,専門医用MKSAPなどを十分勉強することは必須である。

患者・同僚医師からの評価

 次の段階は,他の専門医制度に先駆けて導入された患者,同僚医師からの客観的評価(patient and physician peer assessment)である。受験者自身が自分に関して評価をする評価表1枚,受験者の診療を受けている患者がその医師を評価するための評価表が50枚,そして受験者の同僚の医師が評価するための評価表が30枚含まれている冊子を購入させられた。

 これらの評価表はすべて通し番号が打たれており,受験者は50人の患者および30人の同僚医師に1枚ずつこれを配り,協力する医師はその紙に記入してから規定の電話番号にかけることになっている。規定の電話番号につながると,まずはそれぞれに渡された用紙の通し番号をボタンで登録するように求められ,その後用紙と同じ質問が自動的に流れ,それぞれの評価をプッシュボタンで登録していく。

 同僚医師からの評価項目は倫理,臨床能力,教育面などに関して11項目を9段階で評価するようになっており,またその医師の専門医資格などに関する情報,および専門医機関から折り返し電話をするための電話番号も登録する。自己評価表に関しても同様で,20項目に関して1-9段階の評価を行う。

 患者からの評価は,10項目を5段階で評価をするようになっている(表)。さらに患者自身の健康状態,性別,その医師にかかっている頻度なども登録するようになっており,こちらも専門医機関がコンタクトできるよう,電話番号も登録する。

 患者用アンケートの内容(5段階評価)
(1)医師が必要な事項をきちんと説明してくれるか。
(2)医師がしっかり挨拶をし,友好的な態度をとっているか。
(3)医師が威張ったり患者を見下したりしたような態度をとらないか。
(4)医師が患者さんの訴えに耳を貸し,患者さんの訴えを途中で遮ったりしないか。
(5)患者さんを人間として尊重し,病気の症状のみでなく患者さんを全人的な面で治療しているか。
(6)診察する時にも検査をする時にも説明をきちんとするか。
(7)治療に関して選択肢を示し,患者さんが選択しやすいように説明するか。
(8)患者さんが質問しやすいように質問がないかどうか医師のほうから尋ねるか。
(9)患者さんの問題に関して,またこれから起こり得る症状に関しても説明するか。
(10)患者さんにわかりやすい用語で説明しているか。

 受験医師は責任を持ってこれらの用紙を協力の得られる医師および患者に手渡し,用紙を手渡した医師30人のうち10人,また患者50人のうち25人が電話で匿名の評価登録を行った時点で,受験資格が与えられる。9月の末までにすべて終わらないと受験資格を失うため,医師はアンケートが何例登録されたかを電話で確認できるようになっており,協力してくれそうな同僚医師や患者に依頼し続けることになる。私の場合,フランスで診療しているため米国に電話をして登録してくれる患者が集まるか不安であったが,噂を聞いた患者から協力したいという電話を受けることも多く大変助かった。

 患者からは,このような厳しい制度において専門医資格を持っている医師にかかることは大変安心であるという反応を受けた。それぞれの電話における評価は5-7分ほどかかり,もともと同僚や患者と良好な関係がない限り実行不可能な制度となっている。評価を集計したものは参考資料として,受験前に送られてくる。

試験のコンピューター化

 これらがすべて終了して,初めて受験資格が与えられる。試験は全米にあるコンピューター試験会場で行われ,それぞれの受験者が,自分がアクセスしやすい受験会場をオンラインで予約する(http://www.pearsonvue.com/contact/)。試験会場はコンピューターが30台ほど壁に向かって並んでおり,受験者はそれぞれまったく違う試験をオンラインで受ける。持ち物はすべてロッカーに入れることが求められ,署名に加え入退室には指紋の照合も必要であった。

 受験日は10月の第3週の月曜から金曜までのいつでもよく,時間も自由に選択できたため,フランスから最も近い試験会場のボストンで月曜の朝一番に試験を終え帰仏し,週末旅行を兼ねても1日仕事を休むだけで受験できた。更新試験は初回試験の半分の4時間240問で,規定通り基礎免疫学が30%,内科,小児科,皮膚科,耳鼻科,眼科領域のアレルギー疾患全般に関する臨床的な問題が70%となっている。

 このようにアレルギー・臨床免疫科の専門医更新試験は通常のマルチプルチョイス形式テストの限界を十分認識し,その試験を受ける資格を与える前に,専門医師が臨床医として人格および臨床能力に問題ないことを確かめる制度となっている。

専門医資格認定の目的

 これらの経験から,専門医資格において重要視されているのは,

1)専門医試験を受けるまでの研修プログラムの質の管理による受験者の注意深い選定
2)MKSAPなどによる知識の標準化
3)量および質のしっかりした初回受験者のための試験
4)学会などによる生涯教育の充実
5)医師の倫理面,実地臨床能力の評価および確認による専門医の注意深い管理
6)定期的な更新試験

と考えられる。試験自体はあくまで確認のためであり,受験資格を与えるまでの経過が注意深く作られているのである。つまり専門医とは医学的専門知識において非専門医師とは確固としたレベルの差を持つ医学者であり,その専門技量を実地診療の場で発揮できる臨床医であることの認定である。

 専門医資格は単に学会会員であることとは一線を画し,患者に対してある程度の専門性の質を約束する制度であることが期待されている。日本の専門医療は世界的にみても大変レベルが高いことが知られているが,その専門性を身につけた医師を患者が見分けることができるような制度の整理と確立には,研修医制度改革に見られたような公的機関を巻き込んだ抜本的な取り組みが必要かもしれない。


岡田正人氏
1991年より米国のベスイスラエルメディカルセンターにて内科研修。94年よりYale大学病院にて膠原病関節炎内科,アレルギー臨床免疫科研修。97年から仏国の総合病院にて診療および教育に従事。2006年4月より聖路加国際病院アレルギー膠原病科。Yale-Markey's Physician-Scientist Award(96年),米国リウマチ学会Senior Rheumatology Scientist Award(97年)受賞。米国内科,膠原病関節炎内科,アレルギー臨床免疫科専門医。著書『アレルギー総合診療マニュアル(仮題)』が医学書院から発刊予定。