医学界新聞

 

がん看護の創造と専門性の進化

第20回日本がん看護学会開催


 さる2月10-11日,第20回日本がん看護学会が北川多惠子会長(国立病院機構九州がんセンター)のもと,福岡国際会議場(福岡県)において開催された。「がん看護の創造と専門性の進化」をメインテーマとした今回は,がん医療の進歩に伴って表面化してきた,ケア上のさまざまな問題に焦点をあてたプログラムが組まれた。本紙では,「創造するがん医療とケアリング」と題されたパネルディスカッションを中心に報告する。


■新たながん看護のあり方が模索される

 近年,病態解明から予防・治療までさまざまな領域で進展が見られるがん医療を背景に,がん看護は新しい枠組みを求められつつある。パネルディスカッション「創造するがん医療とケアリング」(座長=岡光京子氏・広島大,小澤桂子氏・NTT東日本関東病院)では,新たながん看護の取り組みが紹介された。

患者の持つ問題解決能力をサポートする

 高橋都氏(東大)は,「がん患者の幸福な性:ケアの創造に向けて」と題し,がん患者の性にかかわる調査結果と自身の経験を発表。がん医療の現場において,患者から性に関する相談を受けている医療者が30%に過ぎないというデータを示した高橋氏は,「まずはできることから取りかかることが大切」と述べ,がん患者の性への取り組みの重要性を語った。

 性問題に取り組む手がかりとして,氏は「PLISSIT」を紹介。PLISSITとは,許可(Permission),基本的情報の提供(Limited Information),個別的アドバイスの提供(Specific Suggestions),集中的治療(Intensive Therapy)の頭文字をとったもので,患者の要望や状態に合わせた関与のあり方を示したものである。

 高橋氏は最後に,ほとんどのケースで患者は自分で問題を解決する力を持っていることを強調。試行錯誤をおそれず,サポートに取り組んでほしいと述べた。

 三輪富士代氏(九州がんセンター)は,「小児がん患者と家族の力を引き出すケア」をテーマに発表。小児がんの治癒率は年々向上しているが,がん罹患と,その治療に伴う苦痛や児の外観の変化は,成人患者とは異なる意味を患児と家族にもたらす。三輪氏は自施設での調査から,がん罹患時における家族の「この子は大丈夫」という否認や,治療に踏み切った場合の「ただ死ぬのは嫌。できることはすべてやる」といった,死を遠ざけようとする強い思いによって,正確な情報判断ができない親の心境を紹介した。

 このうえで三輪氏は,患者・家族が「決める過程」を助け,「決めたこと」を支えていくことが,がん治療における看護師の役割であるとし,家族ごとに異なる決定を,その都度援助していきたいと述べた。

コミュニケーションがポイント

 続いて登壇した吉田ミナ氏(福岡大病院)は,2002年から福岡大病院に開設された外来化学療法室でのチーム医療実践の経験をもとに,外来化学療法のポイントを整理した。

 外来がん化学療法では,医師,薬剤師,看護師それぞれが,患者に化学療法の説明を行う。この時,それぞれの職種がお互いの役割を理解していなければ,患者に対し,効果的な情報提供が行えないことを強調。そうした相互理解を形成するために,福岡大病院で月に一度行っている「外来化学療法委員会」を紹介した。

 また,患者の立場からは乳がんの早期発見・早期治療を訴える患者団体「ピンクリボン」で活動する三好綾氏(ピンクリボンかごしま事務局長)が登壇,どのような医療者・患者関係が望まれるかについて所見を述べた。三好氏は,ピンクリボン会員の体験談などから,「声かけが必要だった場面」「言ってはいけない言葉」など,看護師・患者関係のポイントを列挙。「最終的には“わかろうとする努力”を継続するしかない」と述べ,発表をまとめた。

■認定看護師同士の交流がカギ

 1997年に発足し,2006年2月現在で1729名の登録数を数える認定看護師制度だが,その活動成果や実態への認知度は,いまだ高いものとはいえない。学会初日の最後のプログラムとして行われた認定看護師交流集会(司会=渡邉眞理氏・神奈川県立がんセンター,遠藤久美氏・静岡県立静岡がんセンター)には,そうした問題意識を持った参加者が詰めかけ,多くの立ち見が出るセッションとなった。

管理者からの肯定的評価が重要

 がん性疼痛看護認定看護師の酒井由香氏(神奈川県立保健福祉大実践教育センター)は,ペインコントロールにおける医師との協働や,認定看護師による外来相談室運営を紹介。認定看護師への期待は大きいが,管理者からの肯定的評価など,バックアップ体制がないとモチベーションを保つことが難しいと,実践継続の課題を述べた。

 ホスピスケア認定看護師の藤本亘史氏(聖隷三方原病院)は,各病棟からのコンサルテーションを中心とした業務を紹介。緩和ケアはいわゆる終末期患者だけを対象とするものではなく,治療期からの継続的なかかわりが求められることを述べたうえで,そのためには病棟横断的にかかわる緩和ケアチームが必要であること,その運営を担うのが認定看護師の役割であることを強調した。

認定看護師同士の交流

 がん化学療法看護認定看護師の中島和子氏(静岡県立静岡がんセンター)も自施設での実践を紹介。また,がん化学療法認定看護師の会であるJCCNG(Japanese Certified Expert Nurse of Cancer Chemotherapy Nursing Group)のブロック会での活動を報告し,情報交換や精神的な支え合いの意味でも,認定看護師相互の交流が大切だとした。

 最後に登壇したWOC(創傷・オストミー・失禁)看護の松原康美氏(北里大東病院)は,WOCの特性を活かして全病棟,全患者をフィールドとして活動を行っている様子を報告。認定看護師は実践家であると同時に,教育的な役割を担うことで,その力をアピールできると強調し,講演をまとめた。