医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


胆道外科における
Cチューブ法ハンドブック

藤村 昌樹 編

《評 者》邉見 公雄(赤穂市民病院長)

Cチューブ法についての優れた臨床ハンドブック

 このたび,医学書院より『胆道外科におけるCチューブ法ハンドブック』が刊行された。症例中心の非常に実践的な書である。DPCやコストパフォーマンス全盛の現在の医療現場にあって,up-to-dateな優れた臨床ハンドブックとなっており,研修医にとっても必携の書となっている。

 編者の藤村昌樹先生はノイエヘレン(Neue Herren)と呼ばれた新米医師以来の畏友であり,奈良県のはずれにある市立病院や京都大学外科研究室とずっと苦楽を共にしてきた仲間である。滋賀医大に移られてからも公私共に助けていただき,学年は私のほうが一年上だが心の中では彼が私の師である。消化管ホルモンの研究では,ガルベストンのThompsonの弟子でもあり優秀な研究者であるのはもちろん,常に患者を中心に考え,自己犠牲とも思える日常生活を送っている臨床外科医である。このような歴史から,私はこのCチューブという方法が考案された過程をよく知る者の1人として,書評を書かせていただくことは身に余る喜びである。

 彼は必要に応じて道具やルールを作る名人でもあった。病院や研究班のグループで山や海へキャンプに行くと,野外料理用の便利な道具を色々と作ったものである。研究室の実験でも同じであった。特に動物実験では犬のギプスやコルセットなども作製し,静脈ルートの保護に役立てたりした。当然,臨床医学,とりわけ外科手術や術後管理にも新しい工夫を次々と採り入れ,保守的な部長や上級医師からは少し白い眼で見られたことも度々であった。

 私たちが勤めていた病院は,胆石を専門とする外科部長が奈良県南部の多数の症例を集めていた。当時,胆管結石の術後はTチューブ造設が定番で,自然脱落による胆汁性腹膜炎などに悩まされていた。また再開腹時には周囲組織との強固な癒着があり,稀には腸閉塞を起こす寸前のこともあった。チューブの性状も当時は,炎症を起こすものほど瘻孔を強固にするのに好都合と考えられていた。そのような経験が内視鏡外科やIVRの発達と相俟って,今回のCチューブ法の出版の底流にあったと確信している。Tチューブでは必要であった長期の入院期間や管理の難雑さ,生活の制限などがこの方法で随分と楽になった。特筆すべきは合併症,特に再開腹がほとんどないという安全性であり,当院でもCチューブ法を初期から採用させていただいている。

 本書の内容は,豊富な症例の術中カラー写真と図解,造影写真で構成されており,読まなくても一目瞭然となっている。また共同執筆者の多くは彼自身が育てた臨床医であり,彼の教育者としての力量もうかがえる一冊である。現に彼の仲間のかなりの数の若手医師をお預かりしたが,心・技・体の揃った医師が多かったことを特記しておきたい。また,若い読者に対しては臨床の現場で自分が疑問を感じたこと,新しく考えたことを実現するためには情熱と実行力,緻密なデータ集積が必要であることを再認識させてくれるよい一冊であると強く感じている。

 少し発刊が遅れた感はあるが,使用している者には総まとめと再考察の一助として,また未だCチューブ法を採用していない方には採用の契機として,ぜひとも一読をお勧めしたい。

B5・頁128 定価6,300円(税5%込)医学書院


医療者のための結核の知識
第2版

四元 秀毅,山岸 文雄 著

《評 者》下方 薫(名大大学院教授・呼吸器内科学)

新検査法も記載した結核対策の第一歩

 結核は今なおきわめて重要な疾患である。世界規模でみて結核の罹患者,発病者,死亡者は膨大な数となっている。日本は先進国と自負しているが,こと結核に関しては他の先進国と比べて罹患率の高さは有数であり,一層の低下に努めなければならない。

 現在,結核菌を排菌している活動性結核患者の多くは高齢者であり,その周囲には結核菌に感染したことがない多くの若い人たちが存在する。集団感染の起こりやすい環境といえよう。しかしながら国民はおろか,医療従事者においても結核は過去の疾患と考えがちである。結核病棟は言うに及ばず,結核病床さえ具備していない教育病院が多い現状では,研修医や若い医師が結核患者にふれる機会はきわめて乏しいと言わざるを得ない。

 今回上梓された『医療者のための結核の知識 第2版』は初版から約5年経過し,最近の進歩を取り入れて改訂されたものである。結核に関する基礎,疫学,臨床の各領域がバランスよく配置されている。2005年4月に結核予防法の大改正があったが,その概要を紹介する意味でも時機を得た書である。

 今後ツベルクリン反応に取って代わるとも考えられている新しい検査法であるQuanti FERON-TB第2世代,結核対策戦略としてのDOTS,入・退院基準に関する新しい考え方などについても記載されており,最新の情報も豊富である。また,さまざまな結核の症例呈示も読者にとって役立つに違いない。特筆されることは,見開きのページの多くで図表が豊富に使用されていることである。視覚に訴えるこうした体裁は物事を理解するうえで重要なことである。こうした点を積極的に取り入れられた四元,山岸両氏の労に敬意を表するものである。

 多くの医療者の手元にあってコンパクトで明快な本書が活用されることを願ってやまない。

B5・頁192 定価3,150円(税5%込)医学書院


動画で学ぶ脳卒中のリハビリテーション
[ハイブリッドCD-ROM付]

園田 茂 編

《評 者》里宇 明元(慶大教授・リハビリテーション医学)

臨床スキルの習得・向上へ強力な味方が登場

 あのFIT(Full-time Integrated Treatment)プログラムという画期的な集中的・高密度リハビリテーションプログラムを提唱・実践し,世界をあっと驚かせた藤田保健衛生大学七栗サナトリウムのグループから,また,挑戦的なプロダクトが世に送り出された。選りすぐられた動画をふんだんに活用して,運動麻痺,歩行障害など日常臨床でよく経験する重要な症状や問題が一目で理解できるように工夫された,新世代の脳卒中リハビリテーションテキストの登場である。失語症や構音障害のパートでは音声も入れられており,まさに五感を総動員して脳卒中リハビリテーションの基本的スキルを「身につける」ためのガイドブックである。

 初学者を対象にしているようであるが,実に多数の「一目でわかる」動画が要を得た解説とともに収録されており,ある程度経験を積んだリハビリテーションスタッフにとっても,「今さら恥ずかしくて人に聞けない」不確かな知識を再確認・整理するうえで大変有用な構成になっている。

 CD-ROMをパソコンに入れ,クリックすると見慣れたWebブラウザが立ち上がり,本文の目次,動画の目次,そして索引という3つのメインメニューが現れる。症状・評価,運動学習,治療の大項目のもとに,脳卒中のリハビリテーションに関する重要なトピックスが体系的に整理されており,本文の目次にしたがって読んでいくと,ネットサーフィンをしているような感覚で基本的な知識を身につけることができる。本文を読みながら「動画」をクリックすると,まさに「動かす」ことが可能であり,瞬時に言わんとすることが理解できる。「百聞は一見にしかず」である。

 ただ,本書の本当の素晴らしさを実感したかったら,本文の目次よりも動画目次を思いつくままにクリックし,ぱっと飛び出す映像をまず目に焼き付けることをお薦めする。実地臨床では,細かいことをあれこれと考える前に,まずしっかりと現象を「見る」,「聞く」ことが出発点になる。自分が「見た」映像を何と表現したらいいのか,また,それが何を意味しているのか知りたくなったら,おもむろに解説の項をクリックして拾い読みすればよい。繰り返し見たり聞いたりしているうちに,いつの間にか多くの患者さんを実際に診たような気分になり,臨床の「腕」があがったような錯覚を覚えるかもしれない。「診る目を養う」うえで,本書は格好の素材を提供してくれるであろう。このように教育的な映像を多数集め,わかりやすく系統的に整理された編集の園田先生をはじめとする七栗のスタッフに心から敬意を表したい。

 ひとつ注文させていただくとすれば,動画を再生したときに本文の該当項目のエッセンスが音声で解説されるようになっていればよりよかったかもしれない。評者のように面倒くさがりの人間にとって,また忙しい臨床家にとって,大きな福音となったであろう。さらに,個々の動画を個別に再生するだけでなく,一連のテーマに関係する画像をあたかも映画をみるようにワンクリックで続けて再生できれば楽しみが増すかもしれない。

 勝手なことを言わせていただいたが,昔からコンピュータには疎い評者がああしたい,こうしたいと無理難題を言うと,翌日にはあざやかに解決してあっと驚かせてくださった園田先生のこと,読者からの建設的なフィードバックがあれば,近い将来,あっと驚くバージョンアップがなされるかもしれない。今から楽しみである。

B5・頁90 定価4,935円(税5%込)医学書院


言語コミュニケーション障害の
新しい視点と介入理論

笹沼 澄子 編集
辰巳 格 編集協力

《評 者》種村 純(川崎医療福祉大教授・感覚矯正学)

最先端の言語治療法が学べる画期的な書

 本書は言語コミュニケーション障害に関する本格的な概説書である。本書の特徴は認知理論に基づくさまざまなモデルに基づいて,言語コミュニケーション障害を位置づけ,さらに脳イメージング研究での成果が結びつけられている。まさに専門家が求める内容となっている。

 各章では最先端のきわめて興味深い話題が次々に紹介されている。言語音レベルの障害では言語音の処理に関する音節配列や調音プログラミングのモデル,音声分析装置の現状,音声聴取のモデルなどが取り上げられている。カテゴリー特異性に関しては,感覚/機能理論,領域特異的仮説,概念-構造仮説などの理論が紹介され,比較されている。動詞/名詞の選択的障害と動詞の障害に対する治療,意味記憶の構造と意味セラピーなど新しい言語治療法が紹介されている。

 音韻機能の障害に関する章は圧巻である。ニューラル・ネットワーク・モデルに損傷を与え,呼称と復唱の成績変化を予測したデータが提示されている。その後に,音韻機能の障害を示す各症候群の報告例と失語症の成績が分析され,各症候群の再検討が行われている。単語の読み書き障害に関する章では,各臨床型について二重経路モデルとトライアングル・モデルからの解釈を対比しており,ここでもシミュレーションと実際にデータとの対応が検討されている。語の文法,すなわち動詞の活用に関する二重システム仮説と単一システム仮説,構文機能の障害,失語症,認知症,右半球損傷,頭部外傷における談話レベルの処理障害,原発性進行性失語,言語機能の回復・修復のメカニズム,作動記憶における中央実行系,スパン,言語性短期記憶と音韻ループと理論的に重要なテーマが並んでいる。

 脳イメージング研究に関する第2部では各種の神経機能画像法,脳イメージング研究による音声言語の処理ネットワーク,漢字・仮名単語の視覚認知,読み書きの機能画像研究,構文処理と運動系列予測学習仮説が取り上げられている。

 日本語でこれだけ水準の高い情報が盛り込まれた書物は今までになく,画期的な出版である。本書によりわが国の言語コミュニケーション障害に関する臨床,教育,研究が確実に進むことであろう。

B5・頁348 定価6,300円(税5%込)医学書院


医学生・研修医のための
画像診断FIRST AID
ベーシック222

山下 康行 編

《評 者》富樫 かおり(京大大学院教授・画像診断学・核医学)

画像診断初学者に贈る充実した入門書

 本著は極めて充実した画像診断入門書であり,よくもこんなに多彩な内容をコンパクトな1冊にまとめたもの,と感嘆する。これだけの網羅的内容を1冊の本とするためには,通常は多施設に散らばる各分野の専門家がおのおのの章を担当するため,内容・スタイルに一貫性を欠くということになりかねない。しかし,本書は熊本大学の症例を,山下康行先生編著にてまとめてあるため,疾患の難易度や内容にばらつきがなく,均質で読みやすい。しかも画像所見は箇条書きで提示されており,非常にわかりやすい。図は本文によく対応した画像が提示され,おのおのの所見の解説も要点のみを押さえており,本文,画像,画像解説の三者の整合性がよいことも理解を容易なものとしている。

 “本書は熊本大学の学生研修医用の教育ファイルに私が加筆したもので,生きた画像である”と編著者が序文に述べているが,本書はまさに,そのとおりの書であろうと思う。通常の研究者は得意なmodalityは1つ,部位も1か所,例えば骨盤MRIだけ,しかもその中で婦人科骨盤MRIは得意だけど男性骨盤はちょっと……というように,狭い領域を守備範囲としている。この中で,山下康行先生は異色,きわめて広い領域,IVR,CT,MRIすべてのmodalityを使いこなすオールラウンドプレーヤーであり,かつ,どの領域においても第一人者である。こういう山下先生が編集された本書であるからこそ,すべての領域の重要な疾患に関して,現在用いられている重要な画像診断方法が網羅され,非常にバランスよく,わかりよい書となっている。

 編著者が序文にも書いておられるとおり,多くの学生は画像診断が苦手のようである。これは画像診断の対象とする範囲・方法があまりにも膨大であることに加え,学生や研修医のためのよい教科書がなかったのも一因であろう。本書は,症例が吟味されているのは言うまでもなく,余分なことはあまり書かれておらず,贅肉をそぎ落とした必要最小限の説明となっているため,学生・研修医などの初学者には,まさに“First Aid”たるべき教科書である。

 本書が学生・研修医にとって画像診断への入門書として役立ち,画像診断を好きになる人が1人でも増えることを願う。

B5・頁332 定価7,140円(税5%込)MEDSi