医学界新聞

 

【レポート】

日本フットケア学会
ドイツ研修ツアーに参加して

佐手達男(東京警察病院整形外科副医長/日本フットケア学会理事)


日本のフットケア

 「フットケア」という言葉が,日本の医療分野で使用され始めたのは最近である。日本では血管外科・整形外科・内科・皮膚科の狭間にあって,「足の病変」に対する予防や治療が不十分なために,不幸にして切断にいたることがまれではない。海外では靴を常に履くという生活習慣の違いもあり,「足の病変」に対して専門的なアプローチがなされることが多い。日本でもフットケアをチーム医療として取り入れて患者のQOLを向上させ,その結果として医療の効率化を目標とする日本フットケア学会(事務局:名古屋共立病院循環器センター)が2003年秋に設立された。

ドイツ研修ツアーの実際

 日本フットケア学会のドイツ研修ツアーは,海外での先進的なフットケアの実情を調査するために2005年10月10日から16日にかけて開催された。

 朝もやの中をアウトバーンで移動し,徐々に晴れて秋深まる景色がはっきりした頃現地に到着する。全行程天候に恵まれた研修旅行は,毎日このようにして始まった。

 一行は医師・看護師・靴インソール作製業者など,実際に足を診ている17名であった。現地での5日間のうち前半3日は研修と実技を行い,後の2日はカッセルでの「足メッセ」という学会に招待参加をした。

 初日はウルムリハビリテーション病院の見学を行った。1984年に開設された232床の病院で,リハビリテーション主任医師であるライナー・エッカルト先生に案内していただいた。アスレチックジムのような広い(2階建て)訓練室,個室の理学療法室,15m以上の水中訓練室,CPM(持続他動運動装置)専用の部屋などがあった。スペースとその器具の充実度が日本とは比較にならなかった。61歳男性で糖尿病による両側性舟状骨脱臼の方の説明を,患者さんを交えて行った。歩くための特殊なギプスや靴を見せてもらった。午後は,大手靴インソールメーカーのPedcad社で講義と工場の見学を行った。社長のヴァルター氏は今回のツアーの総合的な企画をしてくださった方で,ポトローゲン(足療法士)とシュウマイスターの資格を持った方である。ドイツにおいても,足病変に関して最もケアが必要な人は糖尿病患者であるということであった。足に神経病変が生じている患者は痛みを感じないために,教育と予防の大切さを説いていた。Pedcad社は採型したインソールを,コンピュータ制御で作製する機械を考案しているので,最新鋭の機械もみせてもらった。

 2日目はフットケア用具メーカーのベルヒトルト社での研修だった。ポトローゲンのバウマン氏による道具の一般的な使用法と出席者2名の足(外反母趾と足底の疣贅)を使用しての実演があった。バウマン氏も糖尿病足病変の重要性を述べ,糖尿病専門医とポトローゲンおよび医療用靴を作製する人たちの協力によるチームワークが必要とのことだった。

 3日目はウルムコレーク研修学校で実技を行った。この学校はポトローゲンを養成する公認校の1つである。実際の患者さんに対して,講師の指導を受けながらフットケアをさせていだだいた。爪の切り方ひとつでも,見ただけではなく実際に行ってみなければ上達はしないので,手術に通じるものがあるなと感じた。糖尿病と抗凝固剤を内服している人のカルテは赤色にしてあり,リスクマネジメントでの区別が図られていた。

 後半の2日はカッセルに移動して,「足メッセ」に参加した。これはドイツ最大の足のイベントで,ZFD(ポトローゲンおよびフースフレーガー中央連盟)が主催している。2005年は第11回目でテーマは「後足」であった。約70の展示,新しい薬剤や器械,専門書や研修などの情報提供があった。デモコーナーではフットケアに関する20以上の専門講演と実演があった。私はリウマチ専門医フランク氏の講演を聴くことができた。ドイツ語のために細かいところは不明であったが,疾患への対応の基本は日本と同様であった。この学会ではフットケア用具の販売も行っていたので,同行者の多くが日本で必要な器具を購入していた。

フットケアを担う職種

 ドイツでフットケアを行う職種は大きく3つに分けられ,(1)コスメティックフースフレーゲ(爪を切ったりマニキュアを塗る),(2)フースフレーゲ(一般的な足の手入れ),(3)ポトローゲン(治療行為をしてよい)となる。2002年に(2)と(3)に対しての法律が制定され,糖尿病患者のフットケアは医師の処方箋に従って,ポトローゲンのみが行うことができるそうである。しかし足の手入れとしてのフースフレーゲは,広く一般に浸透しており「20年間自分で足の爪は切ったことない」という方も多いようだ。日本でいえば美容院の感覚であろうか。

 観光時間のほとんどない研修漬けの毎日であったが,ドイツのフットケアの現状を知ることができて,充実した日々であった。各施設のスタッフは私たちを歓待してくれて,友好的であった。今回の経験を生かして,微力ながらも日本の医療施設でのフットケアを向上させることができたらと考えている。

 紙面を借りてドイツでの関係者の皆様と日本での窓口となったフットクリエイトの桜井一男氏と日本フットケア学会西田壽代副理事長に深謝いたします。

第4回日本フットケア学会:3月11日,名古屋国際会議場にて開催(http://footcare.main.jp/