医学界新聞

 

糖尿病治療の最新エビデンスが議論に

「第40回糖尿病学の進歩」の話題から


 さる2月17-18日,第40回糖尿病学の進歩(世話人=小泉順二・金沢大病院)が石川県立音楽堂(石川県金沢市)ほかで開催された。「充実した糖尿病生活に向けて――エビデンスをどう活かすか」をテーマに開催された今回は,血糖コントロール,インスリン抵抗性,患者心理など,糖尿病治療に関連するさまざまなエビデンスについて,最新の知見が報告された。


インスリン抵抗性に注目が集まる

 糖尿病には大きく分けて,膵β細胞の不全によるインスリン分泌の低下と,筋肉や肝臓に生じるインスリン抵抗性という2つの機序が考えられている。遺伝的要因に大きく左右される前者に対し,後者では肥満,運動不足などの後天的要因が大きいとされており,近年の日本における糖尿病患者増加の背景にはインスリン抵抗性が大きく関与していると言われている。

 レクチャー「インスリン抵抗性研究の最新知見」では,このような問題意識のもと,それぞれの研究者が最新の知見を発表した。

 浅野知一郎氏(東大)は,カロリー摂取過剰,糖毒性などがインスリン抵抗性を引き起こすメカニズムとして,筋肉・肝臓への直接的な作用と,脂肪組織,消化管,脳などへの影響を介して間接的に筋肉・肝臓に作用するという2つのモデルを提示。実際にはこの2つが複合的に作用していると考えられると述べた。

 脂肪毒性に関しては,島野仁氏(筑波大)が,脂肪酸の合成にかかわる転写因子であるSREBP-1cの増加がインスリンシグナル伝達分子であるIRS-2の発現減少につながるという動物実験データを紹介。また,IRS-2の発現を亢進させる新たな転写因子であるbHLHタンパクTFE3について報告。多面的なインスリンシグナル活性効果が見られるTFE3にはインスリン抵抗性,ひいてはメタボリックシンドロームに対する包括的な治療法につながる可能性があると述べた。

心理アプローチのエビデンス

 糖尿病治療には,患者の自己管理と,それに対する医療者のサポートが欠かせない。レクチャー「患者生活のためのエビデンスをどのように作るか」では,国内における糖尿病患者への心理アプローチの第一人者である石井均氏(天理よろづ相談所病院)が登壇。糖尿病患者の心理面へのアプローチに関するエビデンスを紹介した。

 2001年に報告されたDPP(Diabetes Prevention Program)は,患者の生活習慣に深く介入することによって,コントロール群に比べて実に58%も糖尿病の発症を抑制できることを示した。石井氏はこれが,糖尿病治療における生活習慣介入の有効性を示した有力なエビデンスであることを強調したうえで,実際の臨床で患者の生活習慣を変えていくことの難しさと,根拠ある介入法の必要性を指摘した。

 「変化ステージモデル」「エンパワーメントモデル」などは糖尿病患者の生活介入にしばしば用いられる理論だが,石井氏はこれらのアプローチが患者の心理的負担を軽減するというデータを提示。さらに,心理的負担度の軽減に比例して血糖値などが改善するというDAWNスタディの研究結果を紹介し,医療者との良好な関係や,患者の自律性・心の安定が,患者の良好な自己管理につながることを裏付けるデータだと述べた。

 今回の糖尿病学の進歩では,新しく「チーム医療症例検討会」というセッションが設けられ,2会場でそれぞれ100人余りの参加者を集めたが,こうした動きも,糖尿病治療における医療者-患者関係の意義が再認識されたものと言えるだろう。