第2671号 2006年2月20日


【座談会】

女性医師という生き方
仕事も家庭もあきらめない!

瀧野敏子氏
(NPO法人「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会」代表理事/ラ・クォール本町クリニック院長)
外園千恵氏
(京都府立医科大学講師・眼科学)
<聞き手>
新明裕子氏

(国立がんセンター中央病院・腫瘍内科)


 2004年に厚生労働省が行った調査によると,わが国の総医師数25万6668人のうち,女性医師は16.4%を占める4万2040人。29歳以下の医師に限れば,女性医師の割合は実に35.3%にもなる(「平成16年 医師・歯科医師・薬剤師調査」より)。

 しかし,今後も女性医師の増加が予測されているにもかかわらず,大学や病院での女性医師に対するサポートは,いまだ不十分な状況にある。そこで本座談会では,より女性医師が働きやすい環境をつくるためには何が必要なのか,現状の抱える問題を探った。


■女性医師を取り巻く問題

新明 私は大学を卒業して,単身赴任の形で3年間米国で研修を修めました。その後,夫の待つ日本に帰国してすぐに妊娠,卒後7年目,30歳の春に長女を出産しました。現在第2子を妊娠しながら診療,研究を続けています。このような状況になって痛感したのが,妊娠,出産,授乳に関する生理的な変化,つまり自分が哺乳類であるという驚きと,子育てと仕事の両立の難しさ,情報や相談相手の欠如による孤独感です。今日は医師としての職業と家庭を両立させている2人の先輩方に,お話をうかがいたいと思います。

瀧野 私が「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会(ejnet)」を設立したのは,母が家事・育児のために医師としてのキャリアをあきらめたことを深く後悔していた姿を見て育ったことと,今20歳になる娘が幼い時から母である私との時間を病院に奪われ続けて「医者にだけはなりたくない」と言っていたことなどがきっかけでした。ejnetでは,女性医師の継続就労支援を中心に活動しています。

 働く女性の中でも,女性医師は特に産休を取ることが難しいのです。よく「看護師が産休を取れているのに,なぜ女性医師にはできないのか」と聞かれますが,それは職場のことを考えた時に,産休を取ると他の医師に迷惑がかかると思うからでしょうね。

外園 職場の理解という問題もあると思います。私の知っている女性医師はある大学の助手だったのですが,「前例がないから」と言われて産休を取れず,結局別の大学へ行きました。

新明 2005年に女性の医師国家試験合格者が33%に達しているわけですから,今後こうした状況が一般化してくることを,大学や病院は理解しなければいけませんよね。

外園 前例がなければ,前例のある病院を参考にしてシステムを作るべきです。でも,こうしたことは当事者にはなかなか訴えにくいでしょうね。

瀧野 子どもを産む世代の人たちは,身分的に大学院生や非常勤であったり,労働基準法の狭間になってしまうような人が多いですから。

外園 しっかりした身分の保障もされていないわけですね。このままでは問題がうやむやのまま,次の人がまた「前例がない」と言われてしまいます。

 病院の管理職に女性が少ないことも大きいと思います。出産・育児を経験した人がキーパーソンになれば,システムの整備も進むでしょう。

新明 管理職になる女性医師は少ないですよね。

瀧野 でも,将来的に医師の半数近くが女性医師となってくると,たとえ男性の管理者であっても,女性医師が働きやすい環境を整えないと施設の運営が難しくなると思いますよ。すでに今,そうなりつつあります。

上司と夫の理解が必要

新明 外園先生はお子さんが4人いらっしゃるそうですが「この様子ならもう1人産んでも大丈夫かな」と見極めながら出産されたのですか。

外園 (笑)夫が小児科医で,子ども好きなんです。見極めてきたというより,周囲の迷惑も顧みず今に至ったというところでしょうか。年齢が上の子から16歳,14歳,9歳,0歳なのですが,上の2人がまだ小さい時,私はちょうど新明先生くらいの年齢で,上司は男性ばかりでした。ですから,やむを得ず保育園に迎えに行く時に「主治医としてやるべきことは全部やったので,帰らせてください」と言っても,嫌味を言われたことがあります。ところが,教授が代わったことで,すいぶん変わりました。

新明 やはり,トップの影響は大きいのですね。

外園 「女性が働きやすい状況をつくるにはどうしたらよいか」と教授から相談していただいたり,男女問わず研究や診療に活用していただき,やる気を持たせていただきました。

 具体的な策としては,医局長となった先輩の女性医師と相談して「妊娠がわかった時点から産後1年までを当直免除とする」ことを医局内規に明記しました。私も活用しましたが,これに救われた後輩も多いです。また学会などを主催する時はチャイルドケアを併設するようにしました。こうした対策を進める中で,子育てをしながら仕事をする女性医師が増え,職場全体のママさん医師に対する見方も変わってきたと思います。

 最初のままだったら,今もこうして大学病院で働いているということは,まずなかったでしょうね。

瀧野 大阪厚生年金病院の清野佳紀院長も「女性医師が働き続けるには,ボスの理解と旦那の理解,その2つに尽きる」とおっしゃっています。夫となる男性についてはどうでしょうか。パートナー選びも大事ですよね。後輩に「パートナーはこういう視点で選べ」ということ,何かありませんか(笑)。

外園 相手の人生を互いに尊重しあえる人でないと続かないでしょうね。人を見る目を養ってほしいと思います。

 また,仕事を辞めてしまった女性医師には,夫の親に反対されるから働けないという人もいます。夫の親が,お嫁さんである自分が子どもを預けて働くことをとても嫌がる場合,そこを押し切るのはなかなか難しいでしょう。

新明 親の世代は体力的にも無理が利かないことも多いのですが,それでも公共福祉に期待できない現状では,両家からの親の力添えは本当に心強いです。感謝しつつ,よい人間関係を作ることも大事ですよね。

外園 よくよく相手の家庭を見たうえで考えないといけませんね(笑)。

瀧野 相手が医師であるかどうかで,大きく変わるのではないかとも思いますが,どうでしょうか。

外園 パートナーが医師でなくても,うまくいっている人はたくさんいらっしゃいますし,むしろ子育てを両立しやすいのかなと思うこともあります。

瀧野 男性は繊細ですから(笑),妻の収入の方が多いとすねちゃったりするんですよね。それから,精神的な面だけでなく,生活の面でもしっかり自立できていることも大事だと思います。

新明 いくら平等にしようとしても,やはり女性側に負担が掛かる子育ては,本当にパートナーを心の底から信頼していないと辛いものだと思います。パートナー選びは最終的には自分の責任で,家庭の共同経営者としての相手の適格性を理性で判断しながらも,根本には自分の気持ちに嘘がない,ゆるぎない愛がなくてはいけません。

外園 家事も育児もできない男性がパートナーだと,子どもを1人抱えているのと同じですからね(笑)。

■医師の勤務状況に対応できる保育所を

瀧野 東京都医師会の調査によりますと,働き続けるうえでいちばん問題になるのは,子どもを誰が見るかということです。私は親に預けることができましたが,それができない人は保育園などに預けるしかありませんよね。

外園 保育園にまったく空きがなくて,預けることができず働けないという地域もあるようです。さらに,医師の場合は収入がよいために,保育園に入園できる優先順位が低くなることもあると聞いたことがあります。

新明 大学病院や研修病院などの若い医師が多いところでは,保育施設が病院内にあればよいのにと思います。

外園 その場合,問題になるのは場所と人と費用ですね。そこまで考えてくれる病院はなかなかないと思います。

新明 さらに悪いことに,子どもを抱えた女性医師に,こうしたことを管理者側に訴えていくエネルギーは残っていません。先生方のような,育児を経験されたうえで今こうして活躍されている方が,ejnetのような組織として大学や病院に働きかけてくださるのは,私たち若い医師にとって,とても心強いです。

瀧野 医師には労働組合がないですしね。ある病院の院長先生は「女性医師が子どもを預けられるように病院内に保育所を作るとなると,看護師さんなどに対してもオープンにしなければならず,規模が大きくなってしまって難しい」とおっしゃっていました。

外園 でも,女性医師特有の事情はあると思うんですよ。看護師さんは普通の保育所に預けることもできますが,女性医師の勤務時間中,ずっと預かってくれるところはなかなかありません。私が預けている保育所は朝7時から夜10時までなので,日によっては朝8時から夜8時まで安心して預けることができますし,急な事情で迎えが遅くなっても対応していただけます。

 看護師さんや病院事務の方も,育児休暇を取られますよね。私は産後,搾乳しようと思った時に部屋がなくて「0歳児を預けながら働くのは,たぶんこの病院では医師だけなんだな」と気づいたんです。

新明 それで,搾乳はどうされたのですか?

外園 外来担当日には昼食をとる時間もないくらいなので,時間の確保が難しいですね。30分はかかりますから。

新明 それが3-4時間ごとですものね。私も母乳で1年間育児をしたいという希望はあったのですが,搾乳する時間が取れなくて断念しました。

 労働基準法では「第67条 生後満1年に達しない生児を育てる女性は,休憩時間のほか,1日2回各々少なくとも30分,その生児を育てるための時間を請求することができる」とありますが,臨床医がこのような権利を主張することは,現場に沿っていない非現実的な欲求かもしれません。

外園 外来患者さん用の授乳室へ行こうと思っても,病院が広いので,そこまで行くだけで7-8分はかかってしまって,無理でした。

 今,ちょうど復帰したばかりの女性医師がいますが,やはり搾乳したいと言うので「場所がないけど頑張りなさい。1時間休んでいいから搾乳しておいで」と言っています。

■女性医師にやさしい病院評価

新明 野口医学研究所のセミナーで,女性医師の立場で留学についてお話ししたことがあるのですが,若い女性医師や女子医学生の皆さんは,とても情報に飢えている印象がありました。

外園 そうでしょうね。女性医師の働きやすさは病院によってかなり違いますから,情報収集は大事だと思います。働きやすい病院に女性医師が集まることで,他の病院も環境を整えるようになっていくかもしれません。

 あとは,子どもを育てながら,しかも自分のやりたい道を歩んでいる先輩を見つけたら,積極的にコンタクトを取ってみることです。ejnetはそうした交流の場としても,大きな力になると思います。

瀧野 ちょうどejnetでは今年,「女性医師にやさしい病院評価」という事業をやろうと考えています。女性医師にやさしい病院を評価して,すでにある「プライバシーマーク」のように,認定マークを差し上げるわけです。

 女性医師にとっては「この病院に就職すれば,仕事と子育てを両立するためのサポートが得られるな」という情報になりますし,逆に病院の中には産婦人科など,女性医師がいなくて困っているところがありますよね。

外園 男女問わずとにかく医師がほしい,という診療科もありますね。

瀧野 そういった病院,診療科にとっては医師を集められるメリットがあるわけです。そうした事業をやろうかと考えています。

新明 素晴らしいことだと思います。実際には,病院のどのようなところを評価するのですか?

瀧野 今,評価項目のブラッシュアップをしているところですが,まず基準になるのは男女を問わず,医師にとって働きやすい環境を作ることが病院の方針として明文化されているか,そしてそのためのシステムがあるかということですね。

外園 女性医師が働きやすい環境は,男性医師にとっても働きやすい環境ですよね。病気で休めるか,当直明けには早く帰れるか,とか。

新明 米国ではJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Health Organization)という医療機能評価機構が,病院が基準に則った研修システムを実施しているかチェックしていますが,日本にはこうしたシステムはないですよね。

瀧野 そして次の基準が,女性医師にとって働きやすい環境か,つまり産休や育休は取れるか,保育所はあるか,そのために病院側がどれだけ努力しているかを評価します。

外園 女性医師の休憩室というのも,なかなかないんですよね。看護師さんには更衣室がありますが,医師は医局で皆一緒で,ロッカーなども医局にあって女性医師用の更衣室はありません。女性だけが休める場所があれば,搾乳室がなくても,そこで搾乳できるのですが。

瀧野 それも項目に入れたほうがよいですね。女性医師だけでなく,医師というのはこれまでそうした職場の問題点について,声をあげていく場がなかったのではないかと思います。

研修中の出産・育児は可能か

外園 今の若い先生は「とにかく認定医や専門医を取るまでは頑張ろう」と,1つの目標にしていますよね。

瀧野 子どもを産んだ際にいちばん困ると聞くのは,認定医,専門医を取るためには,指定の病院である程度の期間,常勤でいなくてはいけないという条件だそうです。

外園 医学部を卒業してすぐめざしたとしても,7-8年はかかりますよね。時期としてその間に出産が入ってくる可能性はすごく高いと思います。

瀧野 ちょうど来月,後輩の33歳の女性医師が出産予定なのですが,彼女は若くして結婚したものの,内視鏡の技術を磨くため,子どもを作らないで必死で研修をしていたんです。本当は,もう少し早く出産したかったと言っていました。

外園 一通りのことができるようになってからと思うと,その年齢になってしまいますよね。

新明 私も医師としてキャリアが落ち着いてから,と仕事に対しては誰にも負けないほどの野心を抱いていたのですが,出産子育ては1人でできるものではないので,いろいろな状況を考え合わせて,妊娠に踏み切りました。

 仕事に対する情熱が消えてしまったわけではないので,自分の思い通りにならない現実を前に圧倒されることもありますが,一方で子育てもとても大事で意味のある営みで,しっかり心を込めてやりたいと思っているんです。

瀧野 米国の女性医師は,どのタイミングで出産をしているんでしょうか。

新明 研修医2年目以降やフェローの時期に出産している人が多いですね。1年目は体力的にもつらいのですが,それを過ぎるとルーティン化して,自分の知識を固めていくような研修になります。

外園 自分の時間が作りやすくなるということですね。

新明 私の留学仲間には夫婦揃って臨床留学し,現地で出産している人たちも何人かいます。もっとも,渡米先で子育ての期間中ずっと一緒の病院または近隣の病院に雇用されるかという問題は非常に難しいのですが。

 そういう視点で考えると,日本でも研修システムの合理化を図れば,勉強と診療と子育てを同じ時期にするのは,十分可能かもしれません。

瀧野 米国でそれができているのは,カリキュラムがよく練られているからでしょうか。日本の研修医というのは,労働力というか,雑用係という面があるでしょう。

新明 米国でも1年目は本当に雑用係ですよ。ただ,2年目以降は1年目の人を監督するような役割で,患者さんが適切にマネジメントされているかどうかを確認するという立場ですね。どんどん雑用は減っていきますし,仕事の効率も上がっていきます。

瀧野 私は淀川キリスト教病院に16年いましたが,16年目でも雑用をしていましたよ(笑)。

外園 子どものいる医師は,できれば夕方には仕事を終えたいという人が多いのですが,そうなると責任ある仕事を任せてもらえず,検査や雑用をさせられることもあるようです。早く帰る代わりに,雑用係あるいは単純な労働力になるということですね。やりがいのあることが仕事を続ける原動力にもなるわけなので,これは上手な女性医師活用法とはいえないですね。でも,医師が事務的な仕事から作業的なことまで行うという,日本の医療システムの問題もあると思います。

■価値観の中でのジレンマ

新明 医療現場における研修医のうつが問題になっていますが,若い女性医師にも,うつが多いそうです。そうしたメンタルの問題についてはいかがでしょうか。

瀧野 医師に限らず,第一線で働く日本の女性には,ダブルスタンダードの価値観の中で苦しんでいる方も多いと聞きます。仕事に生きがいを感じている一方で,「家事や育児は女性の仕事」という文化的に染みついた「日本の女性のあり方」のようなものに,なんとなく罪悪感を感じてしまうんですね。

新明 わかります。私は4人きょうだいで,母は専業主婦でした。こういう保守的な家庭に生まれ育つと,子どもを保育園に預けるということに,とても罪悪感を感じてしまうんですよ。

外園 私も最初の時は子どもに対する後ろめたさがありました。一番かわいくて,親を必要とする時期ですよね。この子の母親は自分しかいない。

 一方で,当時の職場は私が子どもを保育園に迎えにいくことにもよい顔をしなかったわけで,自分を本当に必要としているのかわからなかったし,体力的なこと以上に,精神的につらかったですね。同世代の女性医師同士で励まし合っていました。

 今4人目は0歳ですけれど,なんの迷いもなく保育園に預けられるのは,上の子たちが「特につらくなかったし,嫌な思い出なんてない」と言うからです(笑)。「そんなものなんだ」と気が楽になりました。

新明 実際に預けてみると悪いことばかりではなくて,子どもにとっては毎日新しい刺激と発見があるみたいです。母子2人でいつも一緒という状況よりはむしろよさそうです。

外園 「自分の手で存分に子育てをしたい,でも仕事もしたい」,そんな葛藤の中で,自分はどうしたいのかわからない,という人もいます。そこをどう割り切るかは人によるところでしょうし,周りが強制することではないですね。

瀧野 今悩んでいる若い先生は,周囲のちょっとした理解やサポートがあるだけで,ずいぶん働きやすくなると思います。精神的なバックアップというのは非常に大切です。

60点でも気にしない

新明 女性医師が仕事を辞めてしまう理由として,真面目な人が多いということもあるのではないかと思います。

外園 医学部に入ってくる女性は,何事もきっちり,しっかりやるような人が多いですよね。定期テストをぎりぎり60点ではなくて,ちゃんと努力して80点以上でパスしてきたようなタイプです。でも,そうした人生を歩んできた人でも,子育ての時にはまったく余裕がなくなります。毎日60点ぎりぎりで生活せざるをえないような状況になった時に,精神的にも追い詰められてしまう。

新明 子育てをしていると自分の能力や時間を30%ぐらいしか使えなかったりします。それだけでも自己イメージの崩壊が起きますよね。それに加えて周産期,授乳中はホルモンの関係か,自分でも信じられないくらい頭の回転が鈍くなりますし,体力的にもあとひと頑張り,の部分が難しくなります。でも,子どものためにもエネルギーを残しておかなくてはいけません。

外園 「私は子育てでも80点取りたいんだ」と言っても難しいんですよね。「まあ,いいか」と思えるような人だと,あまりストレスにもならないのですが。

瀧野 女性医師には努力家が多いので,つい「自分がなにもかも頑張ってやればいいんだ」と考えてしまう傾向があるかもしれませんね。

■一枚岩ではない,女性医師

瀧野 ejnetのような活動をしていると,女性医師というのは均一な集団ではないと痛感させられます。私はいつも,このピラミッド(図)を出して説明しているのですが,トップには,まだ少ないですがキャリアに突き進んでいる人がいます。どちらかというと自分が女性であることにあまり関係なく仕事をしてこられて,出産や育児を経験された方はそれほど多くありません。

新明 若い女性医師にとって,そういう先生は,むしろ男性医師よりも相談しにくかったりしますね。

外園 そうでしょうね。今と違って,女性医師個人の努力で問題を解決するしかなかった時代の方は,若い人のいろいろな悩みを聞くと,「甘いことを言ってるんじゃないの」と言いたくなってしまうかもしれません。

瀧野 キャリアをめざす人たちには,能力がありながら女性というだけで昇進の機会が阻まれる,いわゆる「ガラスの天井問題」があります。これについては別の機会にしたいと思います。

 「女性医師の継続就労」という観点で考えた時に,いちばんサポートが必要なのは若い女性医師,特に“ママドクター”だと思っています。女性医師としての自己実現や社会的使命を考える一方で,円満な家庭を持つことも,豊かな人生の目標の1つであると思っている人たちですね。

 でも,そのためには,このトップの人たちの参画も絶対に必要です。そしてトップとママドクターのちょうど間にいるのが大学院生や研修医の先生たちで,両方を見て「どっちかなぁ」と迷っている。彼女たちにロールモデルを提示することも必要だと思います。

外園 真ん中で迷っている若い人を後押しできる仕組みをつくるのが,私たちの世代の仕事でしょうね。

新明 そう言ってくださると,とてもうれしいです。

子育ても医師のキャリア

新明 最後に,女性医師が困難を乗り越えていく際に,心の指針とすべきことを,先輩であるお二人からアドバイスをいただければと思います。

外園 皆さん医師を辞めようか迷う時,「自分なんか」と自分自身を否定的に見ていることが多いように思います。ですが上司から見た場合,そうした人は,実は気持ちが細やかでよい診療をしていたりすることがあります。ですから,あまり否定的に考えずに自信を持ってほしいと思います。

瀧野 留学するのも論文を書くのもキャリアだけれど,子育ても立派なキャリアなんだと,自己肯定をしてほしいですね。私は子どもができた時に1年半,医師を休んで専業主婦をしていました。それは自分の意思で,今この時期を逃すのはすごく貴重なものを逃すような気がしたからです。自分にとってだけでなく,赤ちゃんにとってもかけがえのない時間をともに過ごそうと思いました。

新明 自己肯定感を高めることと,子育てを義務ではなく特権として喜び,女性としての人生のサイクルを受け容れる,ということですね。実際,出産や子育てを経験すると,人や命に対する感受性というか,医療への姿勢が変わってくると思います。

瀧野 ええ,変わると思います。医師は人,そして命を相手にする職業なので,出産,育児に関する経験はとても役に立ちます。男性医師も「仕事を犠牲に育児に参加する」ではなくて,「この楽しみを奥さんだけに取られてはいけない」と考えてほしいですね。

外園 そこまでの意識を持った男性はまだ少数派だと思いますが,どの科であっても子どもの患者さんを診ることはありますし,何より人間としての幅が広がりますよね。

新明 そうですよ。お医者さんが子育てをするのは,とてもよいことだと思います。

 半数は女性の患者さんに健全な医療を提供するためにも,女性医師には仕事を続けていく責務が社会に対してあるのではないかと思います。そうした責任を含め,女性の若い医学生,研修医の先生方は自分の自己実現の道をもっと真摯に求めてほしいと思います。

 自分の人生の使命感を高めることがその正体かもしれません。私も泣きたい気持ちになることは多いのですが,自分の使命感がそうした時に「辞めないで,一歩一歩進もう」と自分を引き戻しているような気がします。

外園 医師免許は自分だけの力で取れたわけではありません。いろいろな社会的資源が投資され,患者さんも協力してくれて,そのうえで今の自分があるということ,しっかり社会に還元しなければいけないということを,忘れないでほしいと思います。

瀧野 社会的存在としての自分の位置を,常に自分の中で必ずマッピングしておくことが大切ですね。それがself-esteemにもつながるのだと思います。

新明 今悩んでいる若い女性医師にとって,よいメッセージをいただけたと思います。本日はありがとうございました。


瀧野敏子氏
1981年阪市大卒。東女医大などを経て,93年淀川キリスト教病院消化器科医長。その後2004年に開業し,05年にejnetを設立。ejnetの活動として,05年は若手女性医師のニーズアンケートを施行。医療の担い手としての女性医師の継続就労をめざす。講演,執筆多数。

外園千恵氏
1986年京府医大卒。同附属病院研修医,京都市立病院研修医などを経て,95年に京府医大大学院を卒業。99年より同大眼科講師。2002年より2年間,バプテスト眼科クリニック顧問を務める。専門は角膜疾患の治療と研究。3男1女の母。

新明裕子氏
1999年聖マリアンナ医大卒。在学中にECFMGを取得し,2001年より米国コロンビア大学教育病院で内科臨床研修を受けた後,米国内科学会認定医を取得。04年より国立がんセンター中央病院でがん専門修練医研修を開始し,現在にいたる。