医学界新聞

 

自分を最大限生かすために
―― 海外留学が,本当にやりたいことを教えてくれた

篠崎元(メイヨークリニック・精神科レジデント)


 別の大学を卒業後に医学部に入り直した私は,米国人の英語の先生の前に立つと挨拶もできず,ぎこちない笑顔を情けなく搾り出すのが精一杯でした。2年生になった時,日本人の英語の先生に「語学は25歳までだから,今のうちに頑張りなさいよ!」と言われ,当時すでにその年齢を過ぎていた私は「じゃあ,帰ります」と言いたくなりましたが,その後3年生になって初めて参加した国際医学生連盟(IFMSA)の国際会議での体験は,私を英語に邁進させるのに十分なほど強烈でした。

 山梨医大の仲間と,朝練と称して毎朝NHKラジオ講座で英会話の練習もしました。その後IFMSA-Japanを設立し,交換留学でイスラエルやスウェーデンを訪れ,言葉で苦労しながらも掛け替えのない体験を重ねられました。

 卒業後は海軍病院に勤め,英語で臨床をするという初めての状況に戸惑いましたが,よき仲間に恵まれ,充実した飛躍の1年を過ごすことができました。野口医学研究所の派遣でトーマスジェファーソン大学に短期留学し,精神科の患者さんと英語で会話した時でさえ自信が持てませんでしたが,そうした1つひとつのステップが,私に今,メイヨーでレジデントとして働く幸運を与えてくれたのです。英語は相変わらず下手ですが,私自身,まだまだこれからもレジデンシーを通して貴重な経験を重ねていきたいと思っています。

 2度目の大学生であった私は,医学部生活はまっとうな医師になるために勉強する時間に過ぎないと考えていました。その私がここまでのめり込むほど,海外での経験は衝撃的でした。気づいてみれば米国で精神医療を学んでいるのですから。

 昨今,日本の研修制度も医療制度も大きな変革期を迎えています。その正しい方向を見つけるためにも,自らと異なる世界を見ることには大きな意味があると思います。「百聞は一見にしかず」,医学生の皆さんや研修医の皆さんが,日本から世界へと,積極的に挑戦されることを願っています。機会はいくらでもあります。あとは自分次第です。英語が駄目なら鍛えればよいのです。スポーツも英語も同じこと。やったぶんだけうまくなります。

Sir Winston Churchillの言葉。
To improve is to change; to be perfect is to change often.

 NHKラジオの名番組「やさしいビジネス英語」の講師,杉田敏先生が紹介された言葉ですが,今なお,心に刻み込まれています。日常から抜け出す行動を起こすかどうかを決めるのは,自分自身なのです。

I know you can do it, because we have the power to change!


篠崎元氏
1994年東大理学部卒,96年同大学院修士課程修了。山梨医大在学中,2000年にIFMSA-Japan設立,初代代表。02年同大卒後,03年に在沖縄米海軍病院インターン修了。山梨医大病院勤務を経て,04年7月より現職。