医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評特集


眼科検査法ハンドブック
第4版

小口 芳久,澤 充,大月 洋,湯澤 美都子 編

《評 者》三宅 養三(国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター長)

眼科検査法を網羅
すべての眼科医療従事者に

 目は小さな臓器だが,人体で最高に高度な機能を持ち,その正しい評価には多くの検査が必要である。評価には形態的評価と機能的評価があるが,眼科検査法の進歩はまさに日進月歩の感があり,その正しい使い方によって診断技術の飛躍的な向上が期待できる近況である。

 このたび,小口芳久,澤充,大月洋,湯澤美都子の4人の先生の編集により名著『眼科検査法ハンドブック』の第4版が出版された。この本は多くのその道の専門家によって分担執筆されているが,全体の流れがばたばたしておらず,この4人の先生による十分な手直しがなされた様子がうかがわれる。さらに感心することは,最新の検査法は十分に組み込まれているが,古くから使用されているよい検査法にも十分なスペースを割いて解説がなされていることである。

 すべての検査に言えることだが,患者さんが楽に検査を受けられることが正確な結果に結びつく。この点も配慮して,いかに快適な状態で検査をするかも重要なポイントとしてしばしば文中に登場する。この4名の編者はどの方も自分で臨床検査を過去にいやというほどされた方ばかりであり,このような豊富な経験者の編集はさすがに観点も一味違うと感じ入った次第である。現在一線で使用されている眼科検査法が一冊の本にまとめられ,また非常にわかりやすく解説されている。すべての眼科医,視能訓練士および眼科の医療従事者には必読の書であり,今後10年間にいかにこの分野の進歩はめざましくとも,その内容は十分に耐えられる名著と思う。

B5・頁416 定価23,100円(税5%込)医学書院


慢性腎不全保存期のケア
寛解を目指した慢性腎臓病の治療 第3版

佐中 孜 著

《評 者》酒井 紀(慈恵医大・名誉教授)

慢性腎臓病の問題・治療を正しく理解するために

 本書の著者である佐中孜教授は,腎臓内科医として腎臓病に関する医学全般,特に腎不全の医療に最も精通するきわめて優秀な専門医の一人である。

 今回,上梓された本書は,すでに1992年に『慢性腎不全保存期のケア:透析療法を避けるために』と題して出版された初版本を1997年に改訂し,今回,新たに副題に「寛解を目指した慢性腎臓病の治療」を付け,変遷する慢性腎不全の概念など多くの重要課題を追加した斬新な改訂版(第3版)である。

 現在,わが国では末期腎不全患者が増大し,維持透析患者は25万人を越え,平均年齢も年々高齢化している。その背景には,近年,糖尿病など生活習慣病に由来する腎障害や高齢者の腎障害患者の著しい増加が医学・医療上の大きな問題となり,慢性腎不全に至る腎臓病の対策が問われている。国際的にも,腎機能障害が末期腎不全への危険因子として,生命予後に重大な影響を与えることが注目されるようになり,慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)の概念が提唱されその対策が始まっている。わが国でも日本腎臓学会を中心としたCKDの克服に向けての対応が求められている。

 このような状況のなかで発刊された本書は,正しく時を得た参考書である。著者は十数年前に増え続ける透析患者の対策に,保存期慢性腎不全治療の画期的テキストとして第1版を刊行したが,今回の改訂版では,腎機能障害と診断される時期から慢性腎不全が進展する病期までを的確にとらえて,慢性腎臓病の原因や重症度,悪化要因などをわかりやすく説明し,検査方法や治療目標などを明確に示している。さらに,最近注目される循環器疾患をはじめとしたさまざまな病態の危険因子として慢性腎臓病の重大性を示すとともに,腎保護作用が明らかになってきた薬物療法や食事療法の実際について詳細に記載している。特に,糖尿病性腎症が原因の慢性腎臓病については治療上の注意点を詳しく解説している。また,患者,栄養士,医師とのQ&Aを約40頁にわたって多数取り上げてわかりやすく説明するとともに,多くの低蛋白食献立見本を列挙して日常の食生活の指針を示している。

 このように本書は,慢性腎臓病の克服に向けて,腎不全保存期を中心とした多くの問題点を理解し,集学的治療を幅広く学ぶことができるように企画されている。臨床研修中の医師をはじめ,診療に従事する多くの医師が,近年注目されてきた慢性腎臓病の概念を正しく認識するためにも必須の本として推薦したい良書である。

A5・頁320 定価2,835円(税5%込)医学書院


Sobotta
実習 人体組織学図譜
第5版

藤田 尚男,石村 和敬 訳

《評 者》柴田 洋三郎(九大副学長/大学院教授・形態機能形成学)

組織学の理解を深める良質の図譜

 Sobottaの組織細胞学図譜の日本語第5版『実習 人体組織学図譜』が,刊行された。ドイツ語原著第6版の翻訳版である。旧版と同様,誠に美しいカラー顕微鏡写真や電顕写真の連続であり,ほれぼれ眺め見惚れていると,一見これまでとさほど変わっていないような印象を受ける。しかし,詳細に読み進むと,そのような感を受けるのは,見事なまでの図版の美しさ,精密さと図譜の配置の妙からくる錯覚であり,随所に従来と比較して大きな改編が行われていることに気づかされる。

 今回の原著第6版の特徴として,(1)まず最近の細胞生物学の発展による所見を取り入れたわかりやすいカラー模式図やスキームが各所で加えられ,分子生物学の知見とその展開の場である組織細胞との理解の橋渡しの役割を果たしてくれている。さらに,(2)特異免疫標識法による免疫組織化学標本での細胞識別や,TUNEL法によるアポトーシスやFISH法などに遺伝子発現解析など,分子生物学的解析法の成果も広範に取り入れられている。また新たに今回から,(3)パラフィンに代わりプラスチック切片による解像度の高いカラー染色標本写真がふんだんに用いられ,これは特に組織観察に有用な中等度倍率の所見観察でその効果が大きいようである。

 このように差し替えられたり,新たに追加された図版は,細胞学の部で23図,組織学総論の部で38図,各論で92図,表6枚の合計159箇所にのぼり,実に図譜と表総数の合計約3割余が更新されている。その多くは表紙のプラスチック・カラー染色標本像にみられるように,描画図と見まがうばかりの,極めて鮮明で適切な中等倍率の図譜で占められ,非常に理解を深める内容のものとなっている。

 Sobottaの組織学図譜は従来から英語圏の類書に比べて,ある種のこだわりを持ち味として感じさせる構成と記述であった。今回は肺の図譜と記述が数量的にも整理され,また訳者のお一人,甲状腺の大家である藤田尚男先生に配慮したわけでもあるまいが,内分泌腺のうち特に甲状腺の内容が一新され,より鮮明な図による適切な構成となった。電顕写真では,血球や骨髄が大幅に改変されている。一方で,図の改編にタイトルの表示などが追いついていないような箇所も見受けられる。

 なお以前の版の特徴でもあった,組織鑑別診断のための比較図の項目がなくなっている。これは,冗漫さを避けるため,あるいは巻末に表にまとめてある類似組織の比較鑑別法の記述との不必要な重複を避けたためかもしれない。その結果,新たな図表が加わったにもかかわらず,総ページ数は以前のままで,よりメリハリのきいた構成となっている。

 顕微鏡組織標本の観察理解に図譜がきわめて有効なことは論を待たない。けだし,「先達はあらまほしきものかは」である。このような良質の図譜が実習時における指導やガイドブックとしてだけでなく,組織学・細胞学の理解と学習の基本となろう。一方で,IT時代であり,情報処理技術の飛躍的な進歩の時代である。デジタル情報化による画像処理と情報検索システムや,その伝達技術の導入が通信基盤整備に伴って学術情報の分野でも急速に進展を遂げている。将来はこの伝統的な図譜も情報技術革新をとりいれ,どのような新たな装いに変革するのであろうか,いまから大いに楽しみである。

A4・頁280 定価11,550円(税5%込)医学書院


内科医の薬100
Minimum Requirement 第3版

北原 光夫,上野 文昭 編集

《評 者》大橋 京一(大分大教授・臨床薬理学)

エビデンスに基づき厳選
合理的な薬物治療を

 現在,わが国で市販されている医薬品品目数は1万5000を越えている。しかし,一般の臨床医が日常診療で使用している医薬品の数は60前後であると言われている。また,医薬品の開発が進み,毎年新しい薬が臨床の現場に登場している。このような状況で,必要な薬の選択に苦労する。近年EBMの概念が普及し,エビデンスに基づいた薬物治療が重要視されつつあり,1995年にはWHOが医薬品の適正処方のために『Guide to Good Prescribing』を出版した。この訳が『P-drugマニュアル-WHOのすすめる医薬品適正使用』として医学書院より出版されている。

 P-drugとはパーソナルドラッグの略であり,「自家薬籠中の薬」の意味である。クライテリア(有効性,安全性,適合性,費用)に沿って吟味を行い,自分の処方集に入れる行為を通して,医薬品の評価ができるし,患者への情報提供もスムーズに行えるようになる(わが国のP-drugの情報は「http://p-drug.umin.ac.jp」で得ることができる)。

 合理的な薬物治療とは,的確な診断のもとに必要な薬を必要な量,期間投与する計画を立て,実行し,評価することである。近年医学部の卒前教育における薬物治療教育の重要性が指摘され,従来の診断学に偏重していた反省に立ち,臨床薬理学教育が全国の医学部で行われるようになった。しかし,数年前よりコア・カリキュラムを中心としたカリキュラム編成が行われるようになってきた。コア・カリキュラムの概念は重要であるが,薬物治療に関する内容が乏しく,過去の診断学偏重に逆戻りした感があると思っているのは私一人ではないであろう。

 この乏しいカリキュラムで,薬物治療を教育するためには,ある程度医学教育における必須薬物,すなわちコア・ドラッグを設定する必要性が指摘されている。このコア・ドラッグ,あるいはP-drugリストにおける医薬品選定はなかなか大変な作業である。しかし,この度出版された北原光夫先生,上野文昭先生の編集による『内科医の薬100 第3版』は,数多くの医薬品の中から,エビデンスに基づく薬物治療を基本に100種類の医薬品を選択している。北原,上野両先生は米国で臨床研修を受け,よい臨床研究から得られたエビデンスを重視する診療姿勢を身につけられた方である。この本ではエビデンスのしっかりした薬を厳選し,内科診療の90%以上をカバーできるように配慮している。薬剤毎に作用機序,使用法,薬物動態,薬物相互作用,副作用が記載されており,臨床薬理の専門家でない多忙な臨床医にとって,まさに待ち望んでいた本である。この第3版では第2版からいくつかの薬が入れ替わっているが,新薬は6種類にすぎない。あくまでよりよい薬物治療を追求するには,何もむやみに新薬を追い求めるのではなく,古い薬でもエビデンスのしっかりした薬を使おうとする両先生の姿勢がうかがえる。

 本書は臨床医,臨床研修医が数多くの医薬品から自家薬籠の中に入れるために役立つことはもちろんのことであるが,医学・薬学教育にも役立つものであり,高年次医学生・薬学生にも推薦できる。

B6・頁304 定価3,990円(税5%込)医学書院


外科臨床と病理よりみた
小膵癌アトラス

山口 幸二,田中 雅夫 著

《評 者》今村 正之(京大名誉教授/大阪府済生会野江病院院長)

膵癌診療のすべてを網羅
早期診断・治療のために

 膵癌は難治癌の代表格であり,しかも手術でしか根治を期待できなかった癌の1つである。外科医が多年にわたり,手術法の改良に努めてきたために,膵癌切除術は安全な手術になったが,切除後の生存曲線は芳しくない。化学療法としてgemcitabineが登場して以来,膵癌に対して化学・放射線照射療法の有効であったとする報告が増えつつあるが,長期生存の向上に関してはさらなる新薬の開発が待たれるところである。現状では膵癌の長期生存者を増やすためには,早期診断で小膵癌を見つけて,早期に切除手術するのが本道である。如何にして小膵癌を見つけるか,これが膵癌臨床医の長年の課題である。

 このたび九州大学臨床・腫瘍外科の田中雅夫教授と山口幸二助教授が出版された本アトラスには,さまざまな経過で見つけられた小膵癌患者の興味深い症例の記録が集積されている。

 本アトラスは,膵癌の教科書としても要領よくまとめられており,膵癌診療の現状の知識のすべてが網羅されているといえる。個々の患者の症例報告は診断契機と診断手順,画像所見,手術法が記載され,切除標本と組織診断がきれいな写真とスケッチでわかりやすく提示されている。これだけ多くの小膵癌を予後とともに提示されたのは,同じ九州の福岡大学池田靖洋教授のアトラス『膵管像からみた膵疾患の臨床と病理』(1991年刊,2003年絶版,医学書院)以来のことであろう。

 田中雅夫教授らはIPMT患者において膵臓のIPMTと関係のない部位に小膵癌が発生したことを報告して,国際的にセンセーションを巻き起こしたことで有名である。本書の中でも,それらの症例集積と発癌機序の考察も行い,臨床的注意点にも触れている。IPMTと膵管癌の発癌過程が異なるものか,共通性を持つのか,興味深いところである。将来,IPMTを有する膵臓の症例中には,膵全摘をすることにより膵癌を免れて長期生存しうる患者がいることが示唆されている。膵全摘は,インスリンのコントロールさえすれば,十分寿命を全うできる術式である。適応例はいると考えられる。

 膵臓は膵管細胞から分化し,膵臓のさまざまな細胞ができてくるが,膵癌はどの段階の細胞と類似性があり,どのような細胞と遺伝子を共有しているのかを評者らは研究している。そして,多くの膵癌は領域発生のように見えるが,どのような遺伝子異常が領域的に起こるのか,領域発生の範囲はどのような条件を満たす領域なのかなどについても興味を持っている。

 本書に収められたさまざまな患者の記録が,読者に今後の膵癌研究のテーマを提供していくことを考えると,本書の意義は非常に高いといえよう。現在活躍中の膵臓外科と膵臓内科の医師には,座右の書として置いてほしいし,医局の図書室で若い研修医達に気楽に繙いてほしいアトラスでもある。

 長年の九州大学外科教室膵臓グループの努力に敬意を表し,本書の刊行を心からお慶び申し上げるとともに,本書が多くの読者を持つことを願っている。