医学界新聞

 

学際研究へ「医療の質・安全学会」設立


 「医療の質・安全学会」(発起人代表=自治医大学長・高久史麿氏)が11月26日に設立された。同学会は,医療の質・安全の向上に資する科学的な研究の推進や,国内外における研究成果の交流を目的としている。医療関係者だけでなく,工学・経済・法律など異分野の英知も結集した学際的な研究をめざすのが特徴だ。

 同日,経団連ホール(東京都千代田区)にて開催された設立記念国際シンポジウムは当初予定を上回る670人が参加。学会に対する期待の高さがうかがえた。本紙では,尾身茂氏(WHO西太平洋地域事務局長)による設立記念特別講演に続いて行われたパネル討議のもようを報告する。


 パネル討議「21世紀の医療を創造するために――医療の質・安全における学術研究の意義」では,討議に先立ってDidier Pittet氏(ジュネーブ大)が基調講演を行った。氏はWHOに設立された「World Alliance for Patient Safety」のメンバー。同プロジェクトは,関連省庁や安全の専門家,医療関連団体などが全世界的に集まり患者安全の促進をめざすもので,「医療の質・安全学会」とも今後連携していく予定だ。氏はグローバルな視点から患者安全の課題を提示。中でも,この分野における研究の重要性を強調した。

医療の質・安全に関する科学的エビデンスを示す

 討議は,高久氏と上原鳴夫氏(東北大)を司会に,永井良三氏(東大病院),嶋森好子氏(京大病院),土屋文人氏(東医歯大),三宅祥三氏(武蔵野赤十字病院),武田裕氏(阪大),飯塚悦功氏(東大),田原克志氏(厚労省)が登壇した(田原氏を除く8人が学会の発起人)。

 永井氏は,現在の医療を「単独パイロットが操縦する小型旅客機の集合」に喩え,スタッフ数の多い大病院では,より高度な安全システムを構築する必要があるとした。嶋森氏は,看護の立場から口演。医療現場のリスクの存在を広く確認していくためには,ヒヤリハット報告だけでなく,実際の医療事故の情報分析も必要であるとの考えを述べた。土屋氏は従来の研究が“医薬品そのものの安全性”に留まり,“医薬品使用のプロセスにおける安全性”の研究が疎かであったことを指摘。「医薬品に関する研究は“現場”を強く意識して行うべき」と学会への期待を述べた。

 三宅氏は「フリーアクセスが病院医療を崩壊させている」と分析し,国民皆保険を堅持しつつ,1-3次医療をシステム化すべきとの考えを示した。武田氏は,医療実践のための「Doの科学」の必要性を強調し,継続的な質改善を実行できる医療安全管理学を推進していきたい,と抱負を語った。品質保証の専門家として他分野から参画した飯塚氏は,医療の質・安全への取り組みの原則として(1)患者本位,(2)システム志向,(3)全員参加,(4)失敗の研究,の4点を提示。「国民が変わらなければ社会は変わらない」と,社会への情報発信の役割を学会に求めた。田原氏は厚労省の取り組みを概括する中で,来年度からはじまる「医療安全・医療技術評価総合研究事業」を紹介し,医療安全分野における学術研究の意義を伝えた。

 討議では,学会に期待することや,参加してほしい他分野の専門家に関して,パネリストらが意見を交換した。高久氏はその中で,「医療の質・安全に関する科学的エビデンスをつくり,行政に示すことが学会の使命」と,決意を語った。なお,第1回学術大会は,来年11月23-24日,東京ビッグサイトにて開催される予定。