医学界新聞

 

MEDICAL BOOK REVIEW


師長・主任のこんな時どうする!?

武藤 清栄,村上 章子,鶴谷 有子 著

《評 者》濱口 秀子(慈愛病院看護部長)

シチュエーション別Q&Aで師長・主任の心をサポート

 厚生労働省や一般企業で,メンタルヘルスへの取り組みが進む中,看護の世界でもやっと,重要課題として近年取り上げられるようになってきた。看護現場では,人員不足による過重労働,変則勤務による心身の疲労や人間関係など,スタッフのストレスも大きいが,私たちもまた,部下の育成から労務管理・病院経営まで幅広い対応が求められストレスにさらされている。

 この本は,圧倒的な時間不足の中,カウンセリングスキルや心理療法などに興味を持ちながらも,なかなか実際に取り組めず,人間関係や自分自身に悩んで迷っている人に,具体的なコミュニケーションのやりとりや,コーピング(対処行動)を指し示してくれている。

 本書は,「問題の部下」「問題の師長・主任・医師」「自分のこと」「職場環境」の4つのパートに分類され,計27ケースに対してQ&Aという形式で構成されている。例えば,「気分にムラがある部下」に対してはコーチングによる対応を,「波長の合わない主任」へはプラスのストロークを,「自分のこと」ではストレスマネジメントの方法や手紙療法を,「職場環境」ではエコグラムやミラクルクエスチョンを用いた解決方法などを紹介している。

 その中でも特に私が自分と重ね合わせて共感したのは,「自分を癒す手紙療法」である。看護をわが天職と思って数十年走り続け,師長業務に明け暮れる中,ふっと,「私のやりたかった看護はこれ?」と考え込み悩む。それはまさに,今の自分が置かれている状況とうりふたつであった。

 これに対して著者は,「自分で自分に出す癒しというか励ましの手紙」を書くように勧めている。これを読んだ時,「私自身,もしかしたら客観的に現状を書きつらねていくうちに,素直な気持ちになり,ポジティブさを取り戻す糸口がつかめるかもしれない」と考えられるようになり,メンタルヘルスが改善するきっかけをいただいた。

 ストレスとは,「思い通りにならないこと」と言われている。私たちの看護現場は思い通りにならないことばかりである。しかし,ストレスにさらされながら何ひとつ解決という終着点にはつかなくとも,置かれている現状を見つめ,先入観を捨てて,自分や相手の気持ちをじっくり聴き,受けとめることが結局は,自分自身を支える原動力と,明日を切り開く力になっていくということを,改めて痛感することとなった。

 本書は,まさに「悩み」という荷物を整理するための,私たち師長・主任の心をサポートしてくれる一冊といえる。

A5・頁164 定価2,100円(税5%込)医学書院