医学界新聞

 

シンポ「病院は安全か」の話題より


 日本看護協会主催の医療安全推進週間シンポジウム「病院は安全か――看護2:1の現実」が11月16日,六本木アカデミーヒルズ(東京都港区)で開かれた。「安全な医療の提供には看護人員配置の充実が不可欠」との議論が高まる中,一般市民も含めた400人あまりが参加。会場を急遽変更するほどの盛況となった。

 シンポジウムは黒岩祐治氏(フジテレビ解説委員)がコーディネーターとなり,濃沼信夫氏(東北大),坂本憲枝氏(消費生活アドバイザー),村上信乃氏(日本病院会副会長),井部俊子氏(日本看護協会副会長)の4氏がシンポジストとして登壇した。

 濃沼氏は,国際比較によって日本の深刻な人手不足(入院患者あたりの看護師数)を説明し,そのうえで「日本は看護師が足りないのか,患者が多すぎるのか?」と論点を提示。看護師数はほぼ世界標準であるが,患者数,病床数,在院日数は世界の数倍であることを指摘した。職員数は同水準でも,患者数が極端に多ければ,人手不足が起こる。看護師養成数の大幅な増加が見込めない中では,病床数のスリム化(そして病床あたりのコストは数倍かけて手厚い配置を実現)こそが残された選択肢であるとした。世界標準の1対1看護をすべての一般病床で実現するためには,現在の約半数の48万床にまでスリム化することが必要との私案を提示。そのために,まずは年次計画の策定が不可欠であると強調した。

 村上氏は,院長の立場から国保旭中央病院の概要やインシデント報告の分析を行った。971床で看護部総数978人(うち助手が269人),新看護体系2対1ながら,「看護師不足がいちばんの悩み」と説明。患者安全確保のためには,マンパワーの充実が不可欠との考えを示した。

 井部氏は,2対1などの表示の仕方は「1人の看護師が2人の患者を受け持っている,という大きな誤解をもたらしているのでは」と指摘。クリティカル領域ですでに設定されている“常時何対1”という規定こそが,人員算定のこれからを示していると強調した。そして,米国カリフォルニア州では常時5対1が実現し,マサチューセッツ州を含む12州で同様の法案が審議中であると報告した。

モノから「ヒト中心の医療」へ

 その後の討論では,“常時何対1”という表現方法に関して「グッド・アイディア。ただ,実態を変える道筋も必要」と濃沼氏が指摘。作りすぎた病床の削減は海外でも行われていることで,そのぶんだけ診療報酬単価をあげていくことが望ましいとした。これに「利害関係もあり現実的に難しい」と応じた村上氏は,機能分化を優先的に進める案を示し,井部氏は「ベッドを減らした時に看護師も減らさないことが大事」と補足した。

 その他,1.5対1の人員配置に対する評価を演者らが同様に求めたほか,井部氏は「病院経営者の判断も重要」と指摘。高額な医療機器の購入を控えて人員を手厚くすることは,国ではなく経営者の判断で可能であるとした。濃沼氏からは「モノ中心からヒト中心の医療へ」というキーワードが示されるなど,医療安全の基盤である人員配置を軸に,熱のこもった議論が繰り広げられた。