医学界新聞

 

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第11回〉
「2対1看護」の真相

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 米国のthe Center for Nursing Advocacyのホームページの冒頭は下記のようなメッセージで始まる。このメッセージは,看護師不足を“緊急を要する公衆衛生の危機”と位置づけ,われわれの未来は看護にかかっているといっても過言ではないとしめくくっている。

Registered Nurses are the critical front-line caregivers in health care today. For millions of people worldwide, nurses are the difference between life and death, self-sufficiency and dependency, hope and despair. Yet a lack of true appreciation for nursing has led to a shortage that is one of our most urgent public health crises. The nursing shortage has claimed countless lives and threatens to overwhelm the world's health systems. It is no exaggeration to say that our future depends on a better understanding of nursing.(http://www.nursingadvocacy.org/about_us

看護人員の適正化に向けて

 看護師の人員配置を“適正化”すべきであるという動きは日本だけではない。これまで人員配置基準を持たなかった米国でも,カリフォルニア州が最低人員配置率を制定した。オーストラリアのビクトリア州では,2000年に最低配置率が制定されて以来,5,200名の新しい看護師を募集できたとクレア・フェイガンは報告している。

 一方で人員配置改善の方法は,病棟のケア集中度,患者グループの特性,その病棟の看護師の役割と責任に照らし合わせて決定されるべきだとする意見も報告書の中で紹介されている。人員配置率の改善策を任意制とした場合でも,その率の開示を義務づけるべきだとすることは病院業界からも支持されているが,「市場主義型の解決策に大きな問題があると思える領域においては,公衆の健康問題を十分に解決できるとは思えない」ため,「看護が医学と同じような力と,公衆からの認識を得る日がきたら,看護師の人員配置を強制化する必要などなくなるかもしれないが,その日の到来までにはまだ相当の時間がかかるだろう」と指摘している。

看護職員配置2対1の日本, 「常時」5対1のカリフォルニア

 人員配置基準の制定は,わが国が先行している。わが国の看護人員配置は,医療法と診療報酬によって規定されている。

 医療法では,「当該病院の有する病床の種別に応じ,厚生労働省令で定める員数の医師,歯科医師,看護師その他の従業者」を置くことになっており,医療法施行規則第19条の4に言及されている。省令で定める員数とは,簡略化して記すと,療養病床は6対1,精神病床と結核病床は4対1,感染症病床と一般病床は3対1と規定される。ちなみに外来患者は30対1である。

 診療報酬体系では,看護は入院患者に対する基本的なサービスとして位置づけられてきた。看護料は,1950年に「完全看護」として入院料に加算する点数が設定され,1958年に「基準看護」に改称された。基準看護では入院料として室料と看護料が含まれていたが,1972年にこれを区分し,初めて「看護料」という項目が設定された。1994年の健康保険法改正で,付添看護が廃止され「新看護体系」が創設された。2000年の改定で看護料は「入院基本料」に包含され,点数表から看護料という項目が消えた。看護のとり扱いはこうした変遷があり一般の人々にとって(のみならず医療人にとっても)複雑な体系となっているが,不思議なことに,「完全看護」という言葉だけが亡霊のように生き残っていて,看護を非難する際の切り札のように使われることがある。

 現行の入院基本料は複雑な要件から構成されているが,中核は「看護職員配置」である。入院基本料の“最高水準”である入院基本料1は,看護職員配置が「2対1以上」であり,看護師の割合が70%以上となっている。

 こうして,「2対1看護」が世に出ていくことになる。ちなみにカリフォルニア州の基準は現在「5対1」である。「2対1」と「5対1」では日本の基準が上回っているようにみえるが,これは大いなる誤解である。カリフォルニア州の「5対1」には「常時」がつくのである。わが国の配置基準を「常時」に置きかえるとどうなるか,様相はまったく異なる。「常時」というのは,言わずもがなであるが,夜間も含まれる。

 「安全で安心できる医療の再構築」(医療提供体制の改革のビジョン,2003年8月厚生労働省)の根幹に,看護人員の量的・質的問題が深くかかわっていることを強調したい。

次回につづく


*参考文献
クレア・フェイガン他著,和泉成子監修,早野真佐子訳:人間を守るための看護戦略-看護不足その2.看護実践の科学,30(13),48-52,2005.