医学界新聞

 

「慢性疾患セルフマネジメントプログラム」日本導入

患者中心の医療を考える国際シンポジウム2005の話題から


 さる10月1日,経団連会館(千代田区)において,「患者中心の医療を考える国際シンポジウム2005」(主催=日本製薬工業協会)が行われた。今回のテーマは「『慢性疾患セルフマネジメントプログラム』の日本導入に向けて」。慢性疾患セルフマネジメントプログラム(Chronic Disease Self-Management Program)は米国スタンフォード大学医学部患者教育研究センターで開発されたもので,慢性疾患患者の自立支援のためのプログラム。日本では2004年頃から患者会,製薬協が中心となって導入を検討してきたが,このたび「日本慢性疾患セルフマネジメント協会」が発足されるに至った。今回のシンポジウムでは同協会発足の趣旨を含め,日本において今後いかに慢性疾患セルフマネジメントプログラムを活用していくかが議論された。


慢性疾患患者が求めるもの

 シンポジウムの初めには,「慢性疾患セルフマネジメントプログラム」の産みの親の1人であるホルステッド・R・ホールマン氏(スタンフォード大名誉教授)が登壇。同プログラムの概要を解説した。

 ホールマン氏はまず,米国において糖尿病を中心とする慢性疾患が,健康障害の最大の原因になっており,医療費の約78%を占めているというデータを提示したうえで,そうした慢性疾患患者が何を求めているかにスポットを当てた。

 ホールマン氏の提示したデータによれば,米国の慢性疾患患者は1年間に平均7名の医師の診療を受け,20以上の薬を服用しているという。ホールマン氏は,そうした治療生活の中,患者がもっとも強く望むことは「診断結果とそれが意味するもの」「治療法の種類とその効果」「患者(自分)の将来への影響」といった,次の情報へのアクセシビリティの確保であると述べた。

インタラクティブな交流の中で自信を高める

 では,そうした患者の望みを叶えるために医療者ができることは何か。ホールマン氏は「単なる情報提供」は患者の力にならないと強調する。

 慢性疾患は急性期と異なって,治療の目標・ゴールに大きな個別性がある。慢性疾患では治療し,健康な状態に復帰することが目的ではなく,不快感と障害を最小限に抑えるべく,長期にわたってマネジメントしていくことが重要となる。また,そうしたマネジメントを行うのが患者自身であり,医師や医療職はそのサポート役であるということも大きな違いだ。

 こうした特徴を持つ慢性疾患患者にかかわる医療者に求められるのは,患者自身が疾患について理解を深めることはもちろん,治療をねばり強く継続したり,うまく息抜きを行ったりといったことへのサポートである。

 慢性疾患セルフマネジメントプログラムでは,これらの目的をグループミーティングを中心とした豊かなコミュニケーションに基づいた関係性の中で達成することをめざす。グループミーティングは1名のリーダーと,数名の慢性疾患当事者で行われるが,その中では,患者自身がリーダー役を務めたり(モデリング),皆でアクション・プランを作成するといったプログラムを行う。

 ホールマン氏は「参加者が慢性疾患に対処するスキルを学ぶと同時に,インタラクティブな交流の中で自信を高めていくことが目的」と解説した。

 プログラムによってセルフマネジメント能力を高めた患者は良好なコントロールを得ることも少なくない。また,治療効果にまで至らない場合も,医師の指示を納得して守るなど,受診行動に改善が見られるようになる。これらは,トータルとしての医療費の抑制につながるとホールマン氏は強調した。

多職種・多領域の参加者が協働

 ホールマン氏に続いて登壇した近藤房恵氏(サミュエル・メリット大)は,今回の日本導入の経緯と今後の展開を説明。2005年1月付で,「日本慢性疾患セルフマネジメント協会」を立ち上げることを報告した。同会は米国スタンフォード大学とのライセンス契約により,日本において「慢性疾患セルフマネジメントプログラム」の普及をはかっている。会員は患者会,医療従事者,患者,医療関係団体ほかであり,近藤氏は趣旨に賛同した方からの参加を歓迎したいと述べた(同会に対する問い合せは下記参照)。

 また,この日はパネルディスカッションも開催。コーディネーターを努めた大熊由紀子氏(国際医療福祉大)のもと,伊藤雅治氏(全国社会保険協会連合会),中野滋文氏(厚労省健康局・生活習慣病対策室),京野文代氏(日本IDDMネットワーク)など,慢性疾患にかかわる産・官・学,患者会等当事者団体代表者らが出席。慢性疾患セルフマネジメントプログラムに寄せる期待と,今後の展開について意見を交し合った。


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