医学界新聞

 

糖尿病患者の支援は個から連携へ

第10回日本糖尿病教育・看護学会開催


 さる9月17-18日,第10回日本糖尿病教育・看護学会が,安酸史子会長(福岡県立大学)のもと,福岡国際会議場(福岡市)で開催された。設立10周年を迎えた今回のメインテーマは,「糖尿病者支援のためのパートナーシップ――個から連携へ」。「健康日本21」などの国をあげての生活習慣病対策を背景に,チーム医療や地域連携に基づいた組織的かつ有機的な糖尿病者支援をいかに展開するかが議論された。そのほか,フットケアなど実践的なテーマを掲げた交流集会や,10周年記念企画鼎談も行われた。


患者とのパートナーシップを 支える2つの方法

 「合併症になるとわかっているのに,なぜ患者さんはほんのちょっとのことができないのでしょうか?」。会長講演「糖尿病教育における個から連携につなげる戦略」の冒頭で,安酸氏はこのように述べた。糖尿病の支援にかかわる人なら誰もが直面するこの疑問は,時に怒りや無力感となり,患者と医療者のパートナーシップを妨げる。

 さらに,安酸氏は「そういう患者さんがいた時,あなたはどうかかわっていますか?」と会場に問いかけ,そのヒントとして,第3回同学会の基調講演に招聘された河合隼雄氏(現文化庁長官)の言葉を紹介した。1つは,「人の心ほどわからないものはない」と知ること,もう1つは「ほんの少し変えることは全部を変えるくらい大変なこと」という認識を持つこと。さらに河合氏の言葉をひき,「いわゆるカウンセリングは,情報を与えず,相手を理解することでその人が変わっていくのを援助することだが,糖尿病患者教育の場合には,情報を与えつつ,その人が変わっていくのを援助しなければならない」と,糖尿病患者教育の難しさを指摘した。

 では,どうすればこのような難しさを克服し,患者さんとのパートナーシップを良好に保てるのだろう。氏は,「傾聴だけでは,決してよいパートナーシップは築けない」と強調しつつ,その1つの回答として,米国のジョスリン糖尿病センターの臨床心理士らが提唱している「エンパワーメントアプローチ」を提示。この方法をうまく活用するためには,「感情を表現するのが苦手な人に合わせた環境の工夫」などの日本文化に合わせた工夫が必要であると述べた。

 氏がもう1つ提案したのは,「シンプトン(症状)マネジメント」。「生活の中で自分の症状とうまく折り合いをつけていく」ために,患者が自分自身の身体の声に耳を傾け,セルフマネジメントできるように導き支援する役割を会場の看護師らに期待した。

 糖尿病患者の支援は,1人ではできない。氏は最後に「まずはあなたの患者さんと,そして,あなたの周りの同僚,同じ地域で働く人たちとパートナーシップを形成し,職種・地域を越えて連携しよう」と会場に呼びかけて,講演を締めくくった。

■糖尿病予防は職種・地域間の連携が鍵に

医療費適正化と糖尿病予防

 シンポジウム「糖尿病予防のためのパートナーシップをめざして――地域貢献の道を探る」(座長=愛知県立看護大・川田智惠子氏,田川市立病院・井上紀子氏)では,地域行政と連携して,あるいは外来で糖尿病予防に取り組んできた看護師,産業保健活動として労働者の糖尿病予防に取り組んできた保健師らが活動報告をしたほか,厚労省健康局生活習慣病対策室長の中島誠氏が,糖尿病に代表されるメタボリック・シンドローム対策の総合的推進について,厚労省の考えを概説した。

 厚労省は,増える医療費を「適正化」するためには,糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防および重症化予防が最重要と考えており,「健康日本21」などの取り組みを進めてきたが,実効を得られていないのが現状だという。

 中島氏は今後,検診・保健指導等を起点として,生活習慣病予備軍に対して,階層的かつ標準化された支援を行う必要性を強調。「それを担うのは,ここに集った地域の医療者の皆さん。草の根レベルの取り組みに期待している」と述べた(学会後の10月21日に厚労省は「医療制度構造改革試案」を発表。その中には,糖尿病を含む生活習慣病を対象に,都道府県ごとの「医療費適正化計画」を策定させ,それを5年ごとに評価するという中長期的方策が盛り込まれており,議論の的となっている)。

 一方,糖尿病当事者の立場から登壇した藤本淑子氏(日本糖尿病協会)は,日ごろの医療者のかかわりに謝意を示すとともに,「せっかく糖尿病療養指導士(CDE)の資格をとったのに,それを活かしきれていない人が少なくないと聞く。ぜひ私たち患者といっしょに,糖尿病予防活動に取り組んでいってほしい」と,医療者,とくにCDEにエールを送った。

糖尿病療養指導士(CDE) 活躍の場はどこに?

 行政や患者から大きな期待を寄せられているCDE制度だが,その活動の実態はどうなっているのだろう。交流集会「CDEの活動の場を目指して――個から連携へ向けたLCDE・CDEの取り組み」では,全国のCDEから現場の切実な声が寄せられた。

 「資格を取得した途端に部署を異動になってしまった」「CDEの役割特性が浸透しておらず,多職種との連携が難しい」「たった1人のCDEであるため,時間外勤務を含めた負担が重すぎる」等々,残念ながら,現在の医療保険制度の枠組み内では何ら報酬を認められていないCDEが,組織のなかで孤立し,十分活躍できていない現実が浮かび上がった。

 その対策を練るグループディスカッションでは,多職種カンファレンスなどCDEをアピールし連携する具体的な機会を持つことや,院内・院外CDEの会などまずは自己組織化すること,勉強会を開くなどの管理部門へのアピール等々が提案された。

 これを受けて交流集会企画者の1人,加藤愛子氏(西南女学院大)は,これらの自助努力に加え,「CDEの成果を世間に提示していかなければならない。その評価ができるのは患者。ここに参加した1人ひとりが連携の核となり,将来的にはCDEによる糖尿病教育に保険点数が加算されるよう,目の前の患者さんにいっそう有効なかかわりをしてほしい」と結んだ。

 また,野口美和子初代理事長(自治医大),河口てる子現理事長(日赤看護大)ら,設立当初から同学会を支えてきた3名の関係者による10周年企画鼎談では,嶋森好子現副理事長(京大病院)も,「看護職みずから,経済効果を含めた自分たちの支援の成果をエビデンスとして提示していくべきだ」と新たな10年の展望を述べた。

 生活習慣病予防が叫ばれる昨今,看護職による糖尿病者の支援の有効性をアピールする絶好のチャンスといえるのかもしれない。さらにはそれが,適正に評価されることを期待してやまない。

 なお,第11回同学会は,2006年9月16-17日に,嶋森会長のもと,国立京都国際会館にて開催される。