医学界新聞

 

求められる社会経済学の視点

ISPOR日本部会設立記念シンポジウム開催


 さる9月1日,東海大学校友会館(千代田区)において,ISPOR日本部会設立記念シンポジウムが開催された。ISPORとはInternational Society for Pharmacoeconomics & Outcomes Researchの略で,薬剤経済学と社会経済学的なアウトカム研究の啓発と普及を行う国際学会である。わが国では2003年9月に神戸で第1回アジア太平洋会議が開催され,約2年を経て,今回の日本部会設立にいたった。


 シンポジウムはISPORボードディレクターである鎌江伊三夫氏(神戸大)の挨拶で幕を開けた。1995年に設立されたISPORは,現在までに10回の年次学会(米国),7回のヨーロッパ会議を開催しており,世界各国の医師,薬剤師,経済学者,あるいは医薬品・医療機器メーカー等の関係者によって構成されている,学際的な組織である。

 鎌江氏は,上記の第1回アジア太平洋会議以降,中国,台湾ではすでにISPOR部会が設立されており,アジアでのアウトカム研究の機運が高まっていることを紹介。今回の日本部会設立は,世界中の研究者から注目を集めるとともに,本邦における医薬品産業への影響も大きいものとなると予想していると述べた。また,学会を通して,研究者や行政,あるいは産業界の関係者が相互に交流することを期待したいと述べた。

共通の基盤でヘルスケア評価

 ISPOR内部でも注目を集める日本部会設立ということもあり,今回のシンポジウムにはISPOR会長であるPeter J. Newman氏(ハーバード大。以下,ニューマン氏)も登壇,自らISPORの概要と今後の展開を語った。

 ヘルスケアは医療者・患者間のやりとりのみで行われるものではなく,患者,保険者,医療者,研究者など,さまざまな立場の人間が相互にコミュニケーションをとり,教育,研究,国際的研鑽を行う中で高めていくべきものである。ニューマン氏は最初にこのように述べたうえで,そのような交流のためには,何よりヘルスケアの価値を正しく評価していくことをめざすISPORの役割が重要であるとした。

 実際,ISPORの現在の構成メンバーは研究者,企業,政府関係者など多岐にわたっている。これらの異なる文脈からヘルスケアに携わる者が,共通の価値評価基盤を持つことがISPORの大きな目的の1つと言える。

 ニューマン氏はこれまで米国で行われてきたISPORの研究・実践活動のいくつかを紹介。1万ドル以下,2万ドル以下……など,かけたコスト別に,どのようなヘルスケアを提供でき,どの程度の効果があるのかをシミュレーションした研究などを提示し,「重要なのはコストを抑えかつ効果を高めること」だと述べた。単純に予算を低く抑えることが医療費抑制につながらないことはもちろん,ヘルスケアには実際には「やってみなければわからない」要素が多くあり,常に検証が必要であることも強調した。

 いずれにしても,日本を含む先進諸国では医療費の高騰が大きな問題となっている。ニューマン氏が最後に述べた「長期的な視野に立ち,限られた資源をどのように効果的に使うのか」という課題が今後ますます注目される中,ISPOR日本部会が果たしていく役割は大きくなってくるだろう。


ISPORホームページ(英語)
 http://www.ispor.org/