医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野》
老年学
第2版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
大内 尉義 編集

《評 者》高柳 涼一(九大大学院教授・老年医学)

より質の高い高齢者医療の 実現をめざして

 本書は理学・作業療法を学ぶ方々が必要な基本的医学知識(専門基礎分野)を習得することを目的としたテキストシリーズの1つで,老年学についてまとめたものである。初版が2001年6月に刊行され,この度,約4年を経て第2版が刊行された。

 この4年間にわが国の高齢者人口は増加の一途をたどり,2004年10月1日時点で65歳以上の高齢者人口は19.5%,90歳以上の人口は101万6,000人と,はじめて100万人の大台を超えた。また,高齢社会対策のゴールドプランとして登場した介護保険制度も5年が経過し,見直し作業が行われた。その結果,要介護に陥らないように,いかに予防するかということを意識した改正が行われた。こうした状況を背景に,「高齢者医療は若中年医療をそのまま延長したものではない」という老年医学の基本コンセプトのもと,高齢者医療をどう実践したらよいのかという疑問に対する答えが要求されている。初版もこのような疑問に応えるべく編集,刊行されたが,第2版ではさらにその要請に応える充実したものとなっている。

 老年病は臓器別の疾患はもちろんであるが,多臓器を患った複合疾患として,さらには,高齢者を取り巻く社会環境がその治療効果に大きな影響を与える特徴がある。本書は老年医学,高齢者の医療や介護,福祉に長い経験と深い知識をもった執筆陣によってまとめられており,さらに理学療法士・作業療法士をめざす学生向けの教科書としての工夫が成されている。

 B5判/約300頁よりなり,「第I部加齢と老化」,「第II部 高齢者へのアプローチ」,「第III部 高齢者に特徴的な症候と疾患」,「第IV部 高齢者をとりまく環境」の4パートから構成されている。「第II部 高齢者へのアプローチ」では高齢者との接し方,高齢者の機能評価,高齢者の退院支援について述べており,高齢者医療の実践における注意点や重要な事項が簡潔にまとめられ,エッセンスを手短に得るのに重宝する。「第III部 高齢者に特徴的な症候と疾患」は全体の約半分を占めており,重要なパートであるが,ポイントを理解しやすいように最初に「○○領域の老化と疾患」という小項目を加え,老化がどのように疾患に結びつくかを総論的にふれている。

 また,各疾患の記述の最後に「理学・作業療法との関連事項」という項目で理学・作業療法が果たすポイントについて簡潔に述べ,「療法士の視点から」という小項目では,地域で活躍する現職の理学療法士の生きたコメントを追加するなど,理学・作業療法の現場と老年病の各疾患を結びつける工夫がなされている。

 老化の表現型として顕著なものが感覚器の老化であり,高齢者のQOLを大きく低下させる要因の1つである。この点を踏まえ,第2版では「耳鼻咽喉科疾患」と「眼疾患」が新しい章として追加された。さらに「東洋医学的アプローチ」も新しく追加され,ここでは高齢者が陥りやすいサプリメントや民間医療法について合理的,現実的な対処が述べられている。高齢者を診ている医師のみならず,コメディカルの方々にも必読に値する。

 最後に,本書の編者の大内尉義氏の序の一文,「老年学では高齢者をとりまく環境への十分な配慮が重要である。より質の高い高齢者医療の実現には,理学療法士・作業療法士の協力が不可欠である」を紹介する。本書は質の高い高齢者医療の実現に寄与する理学療法士・作業療法士の育成に適した教科書であると言える。

B5・頁324 定価4,410円(税5%込)医学書院


整形外科 術前・術後のマネジメント
第2版

松井 宣夫,平澤 泰介 監修
伊藤 達雄,大塚 隆信,久保 俊一 編集

《評 者》井上 一(岡山大教授・整形外科学)

高い評価を得て改訂された 術前・術後管理の手引き書

 整形外科は運動器疾患の治療に携わるが,依然として外科的手段が主流を占める。他方,整形外科領域の需要増大とともに,この分野は急速に進歩発展を遂げ,また大きく診療範囲も広げてきた。しかしその反面,医療の効率化や医療過誤などの問題から,時に術前・術後,すなわち周術期における患者管理や医療の在り方が問われている。

 こうした観点からみても『整形外科術前・術後のマネジメント 第2版』が出版されたことは喜ばしい限りである。初版から7年かけて改版されたということは,大変高い評価を得て普及したということであり,整形外科領域に類書がないだけにその教育的意義は大きい。「総論」にはじまり,「肩甲帯・上肢」,「骨盤・下肢」,「脊椎・脊髄」に分け,平易でわかりやすく書かれており,また今版から2色刷となり,読者にとっては大変使いやすい手引き書となっている。

 初版の序文では,どの手術においても術前のプランニングに始まり,インフォームドコンセント,術中ばかりでなく術後早期の管理,リハビリテーション計画とその実施は「一連の流れ」であると記されている。これらを齟齬のないよう進めて,はじめて手術結果が評価される。他方,最近はチーム医療の導入が強調されている。医師ばかりでなく,コメディカル,さらには患者とその家族も含めたトータルケアが重要になってくるが,それを完遂するうえでクリティカルパスがよく用いられている。これも疾患ごと,症例ごとに検討され,その中身も進化していくものであり,こうした問題も総論のところで取り上げていただけるとより充実するのではなかろうか。このパスの利用は医療の効率化だけでなく,医療過誤の予防や病院の管理運営にまで及ぶので,周術期には特に重要である。

 「総論」でコンパートメント症候群には触れられているが,近年,深部静脈血栓症の問題もクローズアップされている。この点も周術期においては重要な課題の1つであり,手術的侵襲にあたっては必ず留意すべき点といえる。

 「肩甲帯・上肢」ではほぼすべての疾患の手術的治療について詳述されているが,最近では上肢の人工関節手術がかなり普及してきている。ここでは肘人工関節については書かれているが,肩や手指についてはほとんど触れられていない。上肢機能再建術についても,もう少し踏み込んでもらいたかった。

 「骨盤・下肢」については,大方の手術は網羅されているが,この領域においても低侵襲手術が広く導入されてきている。次の版ではこのような点に留意して,最進の手技の導入と患者管理の在り方を記していただければ,読者の関心はさらに高まることであろう。一方,骨盤骨折の管理と手術適応は依然として難しい問題である。しかし,適切な手術療法によって救命し得ることも多く,また機能障害も軽減できる。このあたりももう少し詳述していただきたい点である。

 脊椎・脊髄の手術では内視鏡手術が相当広く用いられている。しかし,これには保険請求上の問題や重篤な合併症もあり,手技の修得がもっとも重要である。最近では,ナビゲーション外科も導入されつつあるが,どの分野の手術も手技の修得が必須である。このことを術者は銘記すべきである。

 ともあれ,本書のような手引き書の普及により,手術成果を上げ医療の向上に結びつけたいものである。

B5・頁376  定価6,300円(税5%込)医学書院


脳神経外科手術アトラス 下巻

山浦 晶 編

《評 者》宝金 清博(札幌医大教授・脳神経外科学)

最後まで読ませる 脳神経外科手術書の最高峰

 「手術書」というのは,大変に難しい出版物であると思う。私自身もこの仕事に関与したことがあり,多少なりともその困難さが理解できる。今はDVDのような動画情報メディアが大量に生産され,安価で供給できる時代である。本来動的なものである手術を伝える媒体としては,こうした動画情報メディアは優れており,実際,最近では動画による手術解説が増えている。情報の受け手側としても,確かに手術を学ぶ手段としては,大変に便利なものである。

 そのような強力なメディアが普及した今日,手術のような「アート,技」の領域の知識を「文章」と「絵」という昔ながらの情報伝達手段で伝えることの意味を再認識させてくれた力作が,この『脳神経外科手術アトラス』である。こうした優れた「手術書」は,10年に一度くらいしか出ないように思われる。本書は,こうした動画全盛の時代にも,conventionalな手法による「アート」の伝達が,DVDを上回るものであることをもう一度証明してくれている。

 偉そうなことを言ったが,このDVDの時代にあっても,「手術」の本質は,正確な「文章」と手術の本質を捉えた「絵」でしか伝わらないものがあるというのは,ある程度の外科医であれば読者も書き手も百も承知のはずである。これは飽きっぽい私の性格によるバイアスが大きいかもしれないが,私はDVDを二度も三度も繰り返し見ることはほとんどなく(せいぜい古畑任三郎シリーズくらいである),その印象の色褪せる速さは,ある意味,恐ろしいものがある。もちろん,マスコミが言うように現代は20世紀以来「映像の世紀」であり,優れた映像情報は,時代を超えて伝えられるであろう。ただ,それは時代の香りをremindさせてくれるarchiveのみであり,そうした名作は,ほんの一握りであろうと想像される。

 本書は,これまでの日本から出版された脳神経外科の手術書の中では,最高峰のものである。一貫した編集方針,質と量,そして,執筆に加わった脳外科医のレベルを考えると,おそらく,和書として初めてYasargilやSpetzlerの手術書のレベルに達したものである。しかも,こうした洋書と異なり,上下巻併せると,脳神経外科の主要な手術のすべてが網羅されている点は,驚くべきものがある。

 「絵」は,DVDや写真と違い,1本の線,1つのタッチがすべて,筆者の「意図」を伝えている「作り物」である。「作り物」というと語弊があるかもしれないが,手術の本質は,実は,ある程度のデフォルメがなければ伝えられないものである。デフォルメという言い方がまずければ,「無駄なものを取り除き,本質だけをハイライトする」という言い方に変えてもよい。本書では,この「絵」が一貫して描かれており,そこには,全体を読ませたいという編者の山浦教授の深い意図が感じられる。

 小説家は途中でその本が読まれなくなることを想定していないし,それは,書き手にとって最も悲しむべき敗北である。これに比べると,医学書を含めた実用書は,一部だけが読まれることを前提にしているものが多い。したがって手術書の多くは,それを危惧して最初からある領域に特化して絞り込んだものが多い。これに対して,この『脳神経外科手術アトラス』は,全体を読んでもらうことを最初から意識して書かれたようにさえ思われる。

 本書の完成に至るまでの困難さは,多少は理解できるが,おそらく,小生の想像を超えたものであろう。1枚の「絵」に込められた外科医と編集者,イラストレーターの熱意を考えると,この本には,その熱意×「絵」の枚数の情熱と時間が注がれたことになると思う。その量は膨大なものであり,決して誇張ではないと思う。

 『脳神経外科アトラス』が出てしまった。冒頭に言ったように,手術書の出版は,元より困難な仕事である。本書の出現は,今後「手術書」を出版するハードルをますます高いものにしてしまった。罪なことである。しかし,日本の手術書が本書を目標にすることになったとすれば,歓迎すべきことに違いない。

A4・頁512 定価44,100円(税5%込)医学書院


重要血管へのアプローチ 第2版
外科医のための局所解剖アトラス

鰐渕 康彦,安達 秀雄 訳

《評 者》笹嶋 唯博(旭川医大教授・第一外科)

外科解剖のピットホールを わかりやすく解説

 胸部大動脈から下肢末梢動脈まで,日常経験される血管外科手術における座右の名著として多くの心臓血管外科医に愛読されてきたと思われる『重要血管へのアプローチ』は初版同様,鰐渕康彦,安達秀雄両先生の監訳でおよそ10年ぶりに第2版が上梓された。

 手術を易しくするのも難しくするのもまずは外科解剖であり,アプローチの適否がポイントとなる。そのためこの種の専門書は多くの手術経験を有する外科医により手がけられるべきものであり,そうでなければ信頼は得られない。本書は米国の著名な血管外科医がアドバイザーとして名を連ねていることからも明らかなように,ピットホールとなる解剖がわかりやすく図示・解説されており,実質的に優れた内容で,好評を博してきた。

 本書は簡明な図が特徴であるが,第2版はページ数が初版の497から572に大幅に増加し,その大部分が図の追加・改訂にあてられている。主な追加・改訂部位は,頭頸部,胸部,上肢,胸腹部-腹部内臓分枝,鼠径-大腿部,および下腿動脈などにわたっており,これにより心臓血管外科専門医が経験する血管外科手術において少なくとも動脈へのアプローチに関してはすべてが網羅されているといって過言ではない。全般的に引用論文もより新しいものに置換され,信頼性が高められた。

 特筆すべき改訂点をいくつかあげてみると,まず胸腹部大動脈および腹部内臓分枝への到達法が病変の広がりや病型の記載が加わってよりわかりやすくなった。また下腿動脈から足部動脈の解説は初版の30から55ページへと大幅に増加した。到達法のオプションが多数加えられ,その詳細がいちいち図示されて立体的に解剖を把握でき,他に例をみないほど充実した内容である。

 多様性に富むいろいろな手術をいつも記憶にとどめておくことは難しく,また手術は年々工夫・改良され,また新しい術式が登場することから,外科医は何年たっても解剖書を手放すことはできない。ベテラン心臓血管外科医にあってもいまだに手術前に解剖書をチェックすることは常識であるが,これから手術の修練を積まれる若手心臓血管外科医におすすめしたいのは,優れた外科解剖書をみつけ,自らの手術経験から得られた重要な点をそれに補足・追記し自身の手術書を作り上げていくことである。

 本書はまさにそれらにふさわしい1冊であると考える。

A4変・頁584 定価19,950円(税5%込)MEDSi


Sobotta
実習 人体組織学図譜
第5版

藤田 尚男,石村 和敬 訳

《評 者》塩田 清二(昭和大教授・解剖学)

組織学実習における 指針となるべき図譜

 医学および歯学を学ぶ者にとって,人体各臓器・器官の正常構造とその機能を知るためには,組織学についての確かな知識を持っていることが必要である。組織学とは,肉眼解剖学と生理学をつなぐ総合的な学問である。

 近年の細胞生物学や分子生物学の急速な発展に伴い,この分野からもたらされた情報は,古典的な組織学の体系に大きな衝撃を与えた。そして,それにより多くの新しい知見が加わって,組織学はさらに大きく発展してきたのである。したがって,人体各組織の正常構造と病的状態における組織学的変化を知るためには,組織学だけでなく細胞学の知識を持っておくことも必要であり,こうした基本的かつ重要な知識を提供するテキストが必要であることは言うまでもない。

 Sobottaの実習人体組織学図譜第6版の日本語訳(日本語訳としては第5版)が最近出版された。原書の第4版の準備中に,共著者であったHammersen教授が亡くなられたという。この本は世界的にみても,基礎医学歯学教育の領域において大変評価の高いものであることは周知の事実である。この第6版の図譜は,全体で528の図からなり,内訳は光学顕微鏡写真が397枚,電子顕微鏡写真が104枚,そして残りの27枚は,新たにコンピュータによって作製されたカラーのイラストである。

 新版では,旧版に比べてさらに新しい工夫や改善点が随所にみられる。その第一は,光学顕微鏡の図版をできるだけプラスチック切片標本で撮影したものにしたことであり,組織構造の理解が容易になったことである。

 第二は,組織や細胞の動的な状態を示す免疫組織化学の写真を新たに追加したことであり,細胞増殖やアポトーシス,あるいは表皮のランゲルハンス細胞のように通常の組織写真ではわかりにくいものを免疫染色標本を用いてより明瞭に示したことである。

 第三は,電子顕微鏡写真の試料をできるだけヒトの試料に取り替えたことである。これにより,ヒトの組織や細胞の様子がよりよく理解できるようになった。さらに特筆すべきは,先ほど述べたようにコンピュータで作製したカラーイラストの図版が新たに加えられたことであり,組織の構造のみならず,機能的な理解が容易になった。今回の第6版は,著者たちの創意工夫によって,組織および細胞の構造と機能とを密接につなげたものであり,読者は最新の組織学の持つ意義についての理解を深めていくことができる。

 この第6版の図譜は,ただ単に図の美しさにとどまらず,内容の素晴らしさに加え,情報量に富んだ新しい優れた図を収集し,より組織の構造の理解を深める工夫がなされている。学生は,この組織学図譜で学ぶ事柄が,高学年で臨床の現場で出会う種々の疾患とどのようにつながるのかを理解し,そこで形態学の持つ重要性を認識するであろう。また,この図譜は,学生のみならず医学や歯学の基礎教育に携わる者にとっても,自己の知識の点検や確認にも供しえるに違いないと思われる。本図譜が組織学実習を行う際の指針となるべき図譜であることを信じている。

A4・頁280 定価11,550円(税5%込)医学書院