医学界新聞

 

頭痛診療のレベル向上をめざして

第12回国際頭痛学会の話題から


 第12回国際頭痛学会(会長=北里大・坂井文彦氏)が,10月9-12日の4日間にわたり,国立京都国際会館(京都市)にて開催された。これは2年に1度開催される唯一頭痛に特化した大規模な国際会議で,アジア地域においては初めての開催となった。

 “Believe in Headache Relief”をテーマとした今回は,約50か国1,000人以上の参加者によって最新の知見をもとにした議論がなされた。また,世界的に重要課題となっている頭痛の治療向上をめざし,「頭痛に関する京都合意書」が会期中に宣言され,WHOとの共催特別シンポジウムも開催された。本紙では,プライマリケア医を対象に企画された教育セミナーの模様を報告する。


 日本人の約4割が慢性頭痛(一次性頭痛)に悩んでいるとされる。中でも片頭痛は日常生活に多大な支障を来し,患者は国内に840万人と推定されている。しかし患者・医師双方の認識不足もあり,その多くは受診につながらず,受診しても適切な診断を受けていないのが現状だ。

 その一方で頭痛診療の環境は着実に整備されつつあり,国際頭痛分類の改定(2004年),日本頭痛学会の認定専門医制度発足(2005年),慢性頭痛診療ガイドラインの発表(2005年)などが行われている。

 プライマリケア医やコメディカルを対象に,学会登録者以外も参加できるように企画された教育セミナー(総合座長=東女医大・岩田誠氏)では,国内外の専門家を講師に,頭痛診療のレベルアップが図られた。

見逃される片頭痛

 最初にAndrew Dowson氏(King's Headache Service)が,近年になって米国頭痛協会や英国プライマリケア片頭痛アドバイザーなどの団体によって作成された診療ガイドラインを紹介。これらガイドラインで示されたスクリーニングや診断,重症度評価などの方法を説明した。氏は,頭痛の正しい診断がなされず,時には患者が不適切な市販薬に頼るしかない現状を“社会的健康問題”と表現。適切な治療法やガイドラインが整備された今,頭痛診療にプライマリケア医が取り組むことが重要であるとした。

 Alan Rapoport氏(Columbia University)は,一次性頭痛の分類と,予防・治療の概要を説明。3種類の一次性頭痛(片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛)の診断の際,片頭痛の患者に対して他の一次性頭痛と誤診する傾向があることを明らかにした。誤診の原因として,(1)患者が申告する症状が多様,(2)医師のパターン認識(片頭痛の一般的な特徴がみられない時の安易な除外診断,「片頭痛は片側性の痛みだけ」という勘違いなど),(3)片頭痛の表現の広さ,の3点を提示。たえず注意深く除外診断を行い,正確な診断に努めることを求めた。

トリプタンの使い方
服薬タイミングの指導が鍵

 片頭痛の特効薬として,欧米で1990年から使われてきたのが「トリプタン」製剤。トリプタンは従来の薬剤と違い,血管の拡張と炎症という片頭痛のメカニズムそのものを抑えるもので,日本でも2000年から使用可能となった(現在4品目,剤形4種)。

 間中信也氏(間中病院)は,「頭痛患者を診察する際は,“トリプタンが使えるかどうか”という視点で診るのが実践的」と提言。3段階((1)トリプタンが使えるかどうか,(2)患者指導,(3)アフターケア)にわけて,診療のポイントを示した。

 中でも「(2)患者指導」におけるトリプタン服薬タイミングの指導は重要であると指摘。予防・前兆時の早すぎる服薬も,アロディニア(異痛症)発生後の遅すぎる服薬も効果不十分である。そのため,片頭痛の特徴を患者に教示し,最適のタイミングで服薬できるように指導することが肝要であるとした。

 また,アフターケアにおいては,服薬タイミングの指導や薬物乱用頭痛のチェックのため,頭痛ダイアリーの使用を勧めた。最後に,片頭痛治療の要諦を「適切な薬剤を,適切な量で,適切な剤形で,適切なタイミングで服用すること」とまとめた。

頭痛薬で頭痛が悪化!

 Stephen Silberstein氏(Jefferson Headache Center)は,「慢性連日性頭痛」についてレクチャーした。慢性連日性頭痛とは,非常に頻回な頭痛(1か月あたり15日以上)が生じる頭痛の一群で,頭痛薬の過剰投与が有力な原因とされる。

 氏は,エルゴタミンやトリプタン,鎮痛薬など薬剤の種類によって過剰投与量は異なるとしながらも,「月に15日以上使えば,どんな薬剤もオーバーユーズ」と指摘。頭痛薬の飲みすぎでかえって頭痛を悪化させることがないよう,注意を呼びかけた(特に日本では,市販鎮痛薬の安易な服用が問題とされているところである)。

 Holger Kaube氏(Headache Group Institute)は,「群発頭痛」の診断と治療を概説。群発頭痛は(1)季節的に発症(=群発パターン),(2)毎日起こる,(3)女性より男性に多い,などの特徴を提示。こうした診断上重要な特徴を踏まえた,正確な診断を求めた。また,群発頭痛は激しい痛みを覚えることも特徴であり,スマトリプタン注射など急性期治療の手順も詳しく説明された。

肩こり≠緊張型頭痛
複数の発作を総合して判断

 セミナーの後半は,各講師から症例が提示され,症例に関する選択問題に参加者が答える形式で進んだ。間中氏からは,27歳・女性会社員の症例が出された。その症例に関する情報の一部を下記に紹介する。

(1)肩や頚部にコリ,(2)前側頭部にズキズキ頭痛,(3)頭痛の側は一定しない(右または左側,時に両側性),(4)中-高度の頭痛の時は仕事や生活に支障を来たし「横になりたい」と思う,(5)頭痛の引き金はストレス

 この患者の診断名は何か? 「肩のコリ」や「両側性」「ストレス」などから一見「緊張型頭痛」にも思えるが,正解は「前兆のない片側痛」((2)(4)などは片頭痛の特徴的症状)。「片頭痛発作はその時々で多様なパターンを示すため,1回でなく複数の発作を総合して判断することが必要」と言及。「最近3か月でいちばんひどい頭痛について聞く」など,問診時のポイントもあわせて説明した。

 こうした症例問題を通し,頭痛の鑑別診断,トリプタン服用のタイミング,妊婦や小児に対する薬剤使用の妥当性など実践的話題に関し,講師・参加者との間での検討がなされた。最後には頭痛スクリーニングツールもいくつか紹介され,座長の岩田氏からは頭痛診療のレベル向上へ期待の言葉が語られ,セミナーは幕を閉じた。