医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第13回]はじめてのプライマリーナース
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 7A病棟では,プライマリーナーシング,アソシエートナーシングをとっています。11月ごろには1年目にも担当患者をつけ,プライマリーナースとしての役割を果たせるよう援助していきます。それにむけて夏休みが明けたころからプリセプターの担当患者の評価や,プライマリーナーシングに関するレポートを提出してもらいます。そのようなステップを踏んで,初めてのプライマリー患者様と出会います。初めてのプライマリーは,喜びとともに不安も大きいことが予想されます。プライマリーナースとしての役割を気負うことなく,1人の患者様の入院から退院までの看護介入を通して,新しい視点,看護観が形成されていくことに期待します。


今回の登場人物
末松あずさ,大久保千智,寺田千幸(2年目)。

11/9 ●末松
 久々の記入になります。大久保さんは壁を乗り越え,プライマリーPtという新しいステップに立ち,表情に活気が戻ったかなという印象を受けます。

 大久保さんのレポートを読み,プライマリーナーシングについてしっかりと理解してもらえているなぁと思いました。しかし,心配していることもあります。それはプライマリーナースがその患者の全責任を負う,と感じているところ。のめりこみそうになる気持ちは痛いほどわかりますが,そうではありません。

 プライマリーPtのことは,すべてのスタッフでみています。チームで看護をしています。同時に大久保さんのことも全スタッフがみています。患者さんへの対応に悩んだ時,患者さんとの人間関係に悩んだ時,他スタッフとの連携に悩んだ時など,一人で解決しようと背負いこむことなく,うまくサポートを活用してください。

 客観的にみてくれる,経験豊かな先輩方に相談すると,方向性にしても何にしても,とても明確にみえてきます。そうやって新しい看護・知識をどんどん吸収してください。また,プライマリーPtとの人間関係に悩んだ時はちゃんと相談して,たまには担当を外してもらったりして,よりよい心身状態で接することができるように自分自身のケアを大切にしてください。

 プライマリーPtを持つと,他の先輩の対応がよりすごみを帯びて見えてくるよ。「こんな話まで引き出せている」「こんなケアを提供しているのか~」と,本当に感謝と尊敬をさらに感じると思います。そして,何よりプライマリーナースとしてガンガン個性を発揮してください。大久保さんの看護,大久保さんだからできる看護があります。とりあえず,思うように好きなようにやってみてください。統計もがんばれ。(注:7A病棟では新人の課題として,入院患者の傾向を統計処理して12月に発表することになっています)

11/19 ●寺田
 プライマリーPtを持ったということを伝えてくれた大久保さんの表情はまぶしかったです。大久保さんのSOAPを読んでいると,患者さんがどのように過ごされているのかがわかりやすく,すごいと感じています。末松さんも書いていますが,患者さんにのめりこみすぎて周りがみえなくならないように,お互い気をつけましょうね。また,あまり無理をしないで,ストレスもちゃんと発散してください。

11/20 ●大久保
 プライマリーPtが決まった時,すごく嬉しかったです。同期やクラークさんなど,その場にいたスタッフみんなに伝えました。プライマリーPtは,もう9病日で退院も見えてくるころですが,プライマリーPtが決まってから,さらに仕事に責任感が増してきた気がします。自分のプライマリーPtに対してだけでなく,他の患者さんに対しても,「もし自分がプライマリーナースだったらどうするかな」「プライマリー患者さんにはどのようにアセスメントしているのかな」など,今までより少しだけど深く考えて,患者様との距離も自分から一歩縮めていこうと努力しようと思っています。

 ただ,末松さんや寺田さんがアドバイスしてくださっているように,自分は患者様にのめりこみやすいタイプかもしれません。周りが見えないと自分勝手な看護になってしまうので,客観的に見られない時は先輩に相談したり,先輩の書いた看護記録を参考にして,一歩引いて冷静に全体像を再確認するよう注意したいと思います。

 これからたくさん悩むことがあると思います。自分から,先輩方に相談の声かけをすることができるように努力しますので,またよいアドバイスをお願いします。

末松 大久保さんがプライマリーPtについた時,自分自身の1年目を思い出しました。私の場合は担当の患者様がつくことで,やっと一人のスタッフとして認めてもらえたような喜びや責任感に燃えてしまい空回りしていました。しかしそういう経験から得たものもたくさんあります。大久保さんはとてもまじめで患者様への思い入れが強いので,いろいろな責任を一人で背負いすぎるのではないかと心配しました。まずはプライマリーナースとしてのびのびと個性を発揮してもらい,その中から大久保さんが自分の看護を見出していけるよう援助していこうと思っていました。

寺田 プライマリーPtを持ったことを報告してくれた大久保さんの生き生きした顔を今でも覚えています。大久保さんを見ていて,患者さんに対してとっても熱い思いを持っていることは感じていました。患者さんに近い視点で一緒に考えていました。プライマリーナースになることで,看護師として認めてもらったようなくすぐったい気持ちや不安,責任感を感じると思います。今まで同じ患者さんを続けてみることが少なかったのに,プライマリーナースになると入院から退院までをより考えるようになります。患者さんのことを考えるあまり,客観的に考えられなくなってしまうのでは,行き詰ってしまうのではと心配していました。

大久保 はじめてプライマリーの患者様がついた日のことは,今でもとてもよく覚えています。プライマリーナースとして一生懸命看護している先輩の姿が私には輝いて見えました。そんな先輩方が羨ましく,自分もやっと一人前になれたような,晴れ晴れとした気持ちでした。うれしさのあまり自己紹介も上手にできなかったほどです。50名以上の患者様をプライマリーナースとして受け持たせていただいた今,そのお一人おひとりとの会話や笑顔・涙は私の宝物です。また,初めてプライマリーナースとなった時のドキドキした気持ちはきっと一生忘れないはずです。ナースとして仕事をするうえで,私はプライマリーナーシングを大切に考え,患者様との出会いの1つひとつに感謝しながら成長していきたいと思います。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。