医学界新聞

 

アラン・ジェイコブソン氏来日講演

糖尿病患者の受診率向上の方策語る


 さる8月19日(金),東京會舘(千代田区)において行われたメディアセミナー「糖尿病治療をすすめるためのアプローチ」に,アラン・ジェイコブソン氏(Alan M. Jacobson, M.D.)が来日し,講演を行った。ジェイコブソン氏は,米国ジョスリン糖尿病センターにおいて先駆的に行われてきた,糖尿病患者への心理的アプローチ実践者の1人。現在も同センター上席副所長を務める氏が,日本における先駆者である石井均氏(天理よろづ相談所病院)とともに,糖尿病患者への心理的アプローチの今後の展開について講演した。

「Knowledge-based illness」 としての糖尿病

 ジェイコブソン氏は最初に,糖尿病への心理・社会的アプローチの必要性について,さまざまなデータをあげて検証した。糖尿病の有病率は全世界的に増加傾向にあるが,米国では死因の6番目に位置するようになっており,また,有病者の医療費は健常者の3倍というデータも出ている。また,それにもかかわらず糖尿病患者に標準的な治療が行われるのは,全体の半分に満たないというデータもあり,糖尿病治療・予防を成功させることが国民の健康,医療経済にとって大きな利益となるといえる。

 では,いかにして有効な糖尿病治療を行うのか。ジェイコブソン氏は,糖尿病治療における自己管理の重要性を強調。糖尿病は,医師の治療よりも患者本人の知識,行動によって治療効果が左右される「Knowledge-based illness」の典型だとし,そうした患者の行動をサポートする目的に最適化されたケア・システムの構築が重要であると述べた。

 このうえでジェイコブソン氏は,ジョスリン糖尿病センターでのケア・システムを紹介。糖尿病治療において,スタッフは医療的なサポートとともに,オープンなコミュニケーションを確保し続けることが重要だと述べた。

 一方,糖尿病治療の過程においては,「うつ」への対処が重要となることも強調。うつを訴えている人の50%が医療機関の診断を受けておらず,またうつと診断された人の50%以上が,抗うつ薬の処方がなされていないというデータを提示。糖尿病とうつはしばしば相関関係を示すケースがあり,うつが改善することによって,血糖も改善するケースが少なくないことを強調した。

メディア活用が鍵

 質疑応答では,糖尿病の受診率向上についてどのような取り組みを行っているのかという質問が寄せられた。これに対しまず石井氏は「恐怖心を与えて受診を促すことは逆効果」「受診率が低いことは,基本的には医療者の責任」という2点を基本的な約束事として強調したうえで,「早く受診することがあなたのためになる」という情報提供を行っていくことが大切であると述べた。

 一方ジェイコブソン氏は,「極度の不安は受診率を下げるが,適切なレベルの不安は逆に受診率を向上させる」と述べ,公衆衛生的な観点から,「メディアをうまく使うこと」「ハイリスク群のスクリーニング」「行かないよりは行ったほうがよい,という雰囲気づくり」を重要なポイントであると述べた。また,医療機関側の努力としては「行けば安心できる場所づくり」が重要であるとし,ジョスリン糖尿病センターで現在行っているという,ホテル業者との協力関係について紹介した。