医学界新聞

 

ひらかれた看護管理をめざして

第9回日本看護管理学会開催


 第9回日本看護管理学会が8月19-20日,林千冬会長(神戸市看護大)のもと,神戸ポートピアホテル(神戸市)にて開催された。メインテーマは「説明責任と透明性――ひらかれた看護管理をめざして」とされ,組織の内外に向けた“説明責任と透明性”(患者・市民との協働関係,看護職員内の団結の強化)が図られた。また,総会において,来年度からの新理事長に佐藤エキ子氏(聖路加国際病院)が承認された。


 2006年は医療制度大改革の年と目され,診療報酬と介護報酬の同時改定,健康保険法等改正(保険者の統合・再編と特定療養費制度の再構成),老人保健法改正(高齢者医療保険制度の創設),第5次医療法改正(医療計画の見直しと医療法人制度の改革)に向けた議論が進められている。

 特別講演「21世紀初頭の医療制度改革と看護管理職への期待」では,二木立氏(日本福祉大)が登壇。こうした大改革がすべて実現する可能性は低いとの見通しを述べた。

医療制度の大改革 実現の見通しは?

 氏はまず,「21世紀初頭の医療・社会保障改革の3つのシナリオ」(=(1)市場原理の全面的導入をめざす新自由主義改革,(2)厚労省のめざす社会保障制度の公私二階建て化,(3)公的医療費・社会保障費の総枠拡大)を提示。そのうち(1)は,昨年末の混合診療問題の政治決着により否定された。その理由として,抜本改革により企業の市場は拡大する一方で医療費が急増し,医療費抑制策に矛盾するという「新自由主義医療改革の本質的ジレンマ」をあげた。 

 続けて,前述の4つの改革のうち,「実現が確実なのは診療報酬・介護報酬の同時改定のみ」と分析。最大の争点は「3回連続のマイナス改定になるか否か」であり,改定内容の中心は療養病床の診療報酬改定。DPCの適用拡大も限定的で,大改定にはならないとの見方を示した。

 最後に,シナリオ(3)「公的医療費・社会保障費の総枠拡大」実現のために,医療・病院経営者の自己改革について問題提起。医療機関の役割の明確化や経営情報公開の制度化が必要であると強調した。

 看護管理(研究)者への期待にも触れ,個人に対しては「看護の枠を超えた医療政策全般の勉強を」。研究レベルでは,「医療費抑制策の弊害を“根拠に基づいて”明らかに(政策に影響を与えるには,事例でなく量的研究が不可欠)」。職能団体レベルでは,「看護協会を医師会なみの活力のある団体に(会長選に対立候補をあげるなど)」と,看護職の自己改革への期待を語り,講演をしめた。

市民と看護職の協働による 変革のために

 シンポジウム「看護管理からはじめる患者のための医療改革――市民と看護職者の協働の可能性」では,最初に座長の鶴田恵子氏(日赤看護大)から,政府誘導の医療改革により看護管理者にとって厳しい状況が続く中でも「あきらめる前に,医療の実態を市民に示して議論する時期を迎えた」とシンポジウム趣旨の説明がなされた。

 最初の演者は,患者代表として初めて中医協委員になった勝村久司氏(医療情報の公開・開示を求める市民の会)。氏は1990年12月に長女を陣痛促進剤による医療事故で亡くし,その後は医療裁判や市民運動を通して“患者の立場からの医療改革”を訴えてきた経歴を持つ。

 過剰投与と手抜き診療で「人間として扱われなかった」経験を語り,レセプトなど情報開示の重要性を強調。医療費の単価と患者の価値観があってないことが不本意な医療の元凶であると語った。例として,2人目の出産の際,夜中に看護職がお産を見守ってくれた経験(患者にとって高い価値)と,事故当時の過剰な検査や薬剤(診療報酬上評価される価値)を比較し,医療費総額の議論よりも,こうした“単価の価値観”の歪みを是正することが先決であるとした。

 嶋森好子氏(京大病院)は,ヒヤリハット報告と,実際に起きた医療事故の報告では,様相が異なることを指摘した。2004年10月から特定機能病院や国立病院機構等に医療事故報告が義務付けられ,本年4月には第1回の事故の報告数が公表された。これによると,事故の内容では「治療処置」,発生場所では「病室」のほかにも「手術室」「カテーテル室」などでの事故が多く報告され,ヒヤリハット報告だけでは見られなかった実態が明らかになった(ヒヤリハットは8割が看護師による報告であるが,実際は医師の関わる事故が多いことが示唆される)。今後の医療安全対策においては,医療行為の結果を評価し,それを既存の「原則・規則・手順」「訓練と経験」の継続的改善に生かす仕組みが必要であると提言した。

 高田早苗氏(神戸市看護大)は,患者の経験も踏まえて「患者の期待に医療者は本当に応えているか」と医療者と患者のズレを問題として提起。例えば,「予約しても1時間待つのを予約制と言えるのか」と,仕組みそのものが限界に来ていると指摘した。また,入院中の規則に関しても,どこまで調整可能範囲なのか,患者に説明できていないとした。

 討論では,「患者の声が病院長の考えを変える」との意見もあがり,“市民との協働による改革”に向けた議論がなされた。嶋森氏は「看護計画ではなく療養計画と言わなければならない」という恩師の言葉を紹介。マニュアルに沿った看護だけに終わらない,患者主体の療養のため,現場でできるところから始めていきたいと述べた。勝村氏は,情報が医師と看護師の間で共有されていない現状に,「情報共有の努力をしてほしい」と述べる一方,「陣痛促進剤を使ったお産のほうが(人手のかかる)自然分娩よりも病院の収入が増える現状を変えたい」と,中医協委員としての抱負を語った。