医学界新聞

 

NSTとの連携でさらなる発展を

第11回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会開催


 第11回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が9月2-3日,「急性期からのリハビリテーションシステムをめざして」をメインテーマに,名古屋国際会議場(名古屋市)にて開催された。看護職として初めて鎌倉やよい氏(愛知県立看護大)が大会長となった今回は,多職種から成る約3,800人が参加。新しい試みとして,職種別の交流集会も企画された。

 本紙では,急速に普及するNST(栄養サポートチーム)に関連したプログラムと,新しく始まった「摂食・嚥下障害看護認定看護師教育」に関する交流集会の模様を報告する。


 教育講演では,NST活動の第一人者である東口高志氏(藤田保衛大)が登壇。「NSTとICT合同戦略 GFO療法――NSTによる全病院的攻撃的感染対策」と題し,栄養管理による感染対策のポイントが示された。

 氏は「栄養を制するものは感染を制す!」と強調。栄養管理はすべての治療に共通する医療行為の基本であり,疎かにすると創傷治癒遅延や免疫能の障害などがあると説明した。特に院内感染・術後感染対策においては,感染対策チームのみでは限界があり,宿主の強化,すなわち栄養療法による“攻撃的感染対策”が不可欠であると指摘。適切な栄養管理の実施(経口・経腸栄養の重視),高齢者の褥瘡・嚥下性肺炎の予防など,“栄養学的感染対策”のポイントを示した。

 続いて,NSTの役割として(1)栄養管理が必要か否かの判定,(2)適切な栄養管理がなされているかのチェック,(3)ふさわしい栄養管理法の指導・提言,(4)合併症の予防・早期発見・治療,(5)栄養管理上の疑問に答える,の5点を提示。これまでは医師の個別的対応に任され,医学教育でもこうした教育が疎かであることから,NSTによる栄養管理のシステム化が必要であるとした。

 さらに,尾鷲総合病院で取り組んだNSTとICT合同戦略による感染対策として,早期経口・経腸栄養(入院後・術後24-72時間内での開始)や,GFO療法(グルタミン・ファイバー・オリゴ糖投与)による絶食の徹底回避などの試みを紹介した。NSTのワーキングチームとして,褥瘡や摂食・嚥下障害,呼吸療法などのチームが活動し,「これらひとつずつをしっかりとやることで,全体として大きな効果が得られる」とした。また,入院時初期評価とNSTパスの作成により,潜在的栄養障害患者に対しても効果的なNST活動がなされたことを明らかにした。

 こうした対策によって,カテーテル敗血症発生率やMRSA症例の減少,(強制退院のない)在院日数の短縮などの効果が見られたことをデータで証明。また,院内感染や褥瘡が減ることによって,結果的には職員の負担も減ることを示唆した。

摂食・嚥下リハとの連携で NST活動を成功に導く

 NSTの活動によって栄養状態の改善が期待されるが,チームに摂食・嚥下リハのエキスパートが不在の場合,十分な嚥下機能評価なしに「経口摂取ができなれば経腸・経管栄養」という選択になることもある。東口氏の講演を受ける形で行われたシンポジウム「NSTを中心とするトータル・セーフティ・マネージメントの効果――成功に導く秘訣」では,藤島一郎氏(聖隷三方原病院)と東口氏が座長となり,NSTと摂食・嚥下リハの連携が模索された。

 パネリストは,歯科医師,看護師,管理栄養士,言語聴覚士,理学療法士,歯科衛生士と多職種で構成。「口から食べる」という栄養法の原点に戻り,NST活動を成功に導く戦略が議論されることとなった。

■摂食・嚥下障害の認定看護師制度始まる

 日看協の認定看護領域において,「摂食・嚥下障害看護認定看護師教育」が始まった。これは,愛知県看護協会の設置準備委員会(委員長=鎌倉やよい氏)が昨年日看協に申請して分野特定されたもの。愛知県看護協会は摂食・嚥下障害看護認定看護師教育課程の教育機関としても認定され,定員30名に対し2.5倍の倍率で受験者を迎え,本年10月からは教育が始まっている。

 交流集会「認定看護師『摂食・嚥下障害看護』制度始まる」(司会=金沢医療センター附属看護学校・南美知子氏)では,認定看護師としての今後の役割が議論された。

 最初に,浅田美江氏(愛知県看護協会)が制度の概要を説明。特定された認定看護分野は17となり,今年度は17施設,34教育課程で教育実施予定であると報告した。さらに,摂食・嚥下障害看護分野が認定された経緯・背景を紹介し,高齢者の増加などで社会的ニーズが高まっていると述べた。

問題を発見し,他職種と協働を

 続けて,田中靖代氏(ナーシングホーム気の里)と尾形由美子氏(七沢リハビリテーション病院)が,「認定看護師(摂食・嚥下障害)に望むこと」と題して口演した。田中氏は,「生活はOTの指導で,摂食はSTの指示……」など他職種任せでは看護の職責を果たせないと強調。アセスメント能力を向上させ,患者の問題解決につながる発見ができる看護職になる必要があると語った。尾形氏は,自院での看護部の取り組みを紹介。摂食・嚥下障害看護のプロジェクトチームを発足させ,定期的な学習会や患者用パンフレットを作成した試みを述べた。さらに,「看護は学問の実行の担い手である」として,認定看護師への期待を語った。

 その後の討論では,会場のSTから発言があり,「嚥下=STと結びつけられるが,STの人数はそれほど多くない。患者さんの生活のいちばん近くにいる看護の気づきは大きい」と,認定看護師の誕生による問題発見と他職種との協働への期待が語られた。また,別の参加者からは「ただでさえ多忙な中,摂食・嚥下看護は時間がかかる」との問題点も指摘されたが,浅田氏は,「問題を発見し,他職種との協働につなげていくことが大事」と,看護だけでなくチームアプローチで認定看護師が役割を発揮していくことを求めた。

 最後に司会の南氏は,「今回の認定看護制度は,いま持っている現場の知識を表出し,実践レベルを進化させる過程」と,今後への期待を語り,交流集会を閉じた。