医学界新聞

 

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「広域レジデントシステム」
医大の高度医療の地域還元と医師研修プログラムの充実に

玉井靖彦(和歌山県立医科大学教授・第1生理学)


 医科大学(医学部)は医学生の教育と医学の研究機関であると同時に地域の高度医療の中枢となるべきである。その医療の貢献は付属病院内に留まらず,地域に広く貢献すべきで,そのためには医科大学付属病院に「広域レジデントシステム」を組織する必要がある。広域レジデントシステムの基本的な考え方は,医大付属病院に臨床講座スタッフとは別の臨床専門の診療科レジデントスタッフを組織し,医大の高度医療技術を広く地域に還元し地域医療に貢献することと,地域の医師に対して生涯研修の機会を提供することである。この組織の主体は医大付属病院にあるが,大学の臨床講座とはまったく別の組織で地域病院も含まれ独立した事務局を持つ(図1)。

図1 広域レジデントシステムの概念図
大学付属病院は学生の実習病院であると同時に地域高度医療の中枢である。その医療の貢献は大学内に留まらず,広く地域に貢献すべきで,そのためには大学付属病院内に臨床講座とは別に広域レジデントシステムを組織する必要がある。大学の講座スタッフは学生の教育,医学研究に専念し,広域レジデントシステムの診療科レジデントスタッフは医師の研修と地域医療に専念する。医学生の臨床実習は大学講座スタッフがあたり,医大卒業後の医師の研修は診療科レジデントスタッフがあたる。

臨床講座スタッフを2つに分ける

 医大の臨床講座スタッフを臨床専門のスタッフと研究専門のスタッフに分ける。前者は診療科のレジデントスタッフとして,最新の医療技術を背景に研修医の教育と地域医療を担当し,後者はいわゆる大学の臨床講座スタッフとして,最新の研究活動を背景に学生の教育と臨床実習を担当する。診療科レジデントスタッフの身分は,チーフ,アソシエイト,インストラクター,アシスタントレジデントで,それぞれ臨床講座の教授,助教授,講師,助手に相当する。優秀な人材があれば,臨床講座の枠にとらわれず多くの診療科を標榜し,地域患者のニーズに応える。この診療科レジデントスタッフは臨床講座の意向とはまったく関係なく臨床専門医として生涯大学で活躍することができる。

 また,両スタッフのポジションはお互いに移行が可能である。臨床を希望すれば,レジデントスタッフになって医療に専念できるし,研究を希望すれば,講座スタッフになって研究に没頭し,学会活動をすることができる。臨床講座のスタッフとレジデントスタッフのポジションが相互に移動可能なことは,現行制度からの移行を容易にするだけでなく,医大卒業生が自分の将来を考えるうえで,将来医学者になるのか,臨床医となるかの選択肢に自由度があることになる。医大を卒業して大学院生あるいは助手として基礎医学研究者の道を選ぶか,それとも臨床に進んで適当な時期に研究をするかが自身の能力に応じて自由に選択できることは,今の若い医師にとっては大変重要なことである。

医大の高度医療を地域に還元

 広域レジデントシステムの広域たる所以は,地域病院,および地域自治体と連帯していることである。広域レジデントシステムは地域病院に医師の派遣を行い,地域病院,および地域自治体は資金援助をする(図2)。地域病院にとっては,新たな資金提供でなく,従来アルバイト医師の給料として支払っていた金額を広域レジデントシステムに参加負担金として払い込み,派遣医には新たに給料を払う必要はない。派遣医の身分は大学のスタッフであり,その手当ては大学から支給されるからである。

図2 医科大学からの医師派遣および高度医療の地域還元と地域自治体および地域病院からの資金援助
希望する地域病院は参加負担金を払えばこのシステムに参加でき,医師の派遣要請や,勤務医の高度医療の再研修ができる。地域自治体は資金援助でこのシステムを支え,医大の高度医療の地域還元を促す。

 地域の優秀な人材の活用も重要である。地域病院には大学で長い間,臨床講座の講師あるいは助教授として活躍した医師も多い。この地域病院の優秀な医師を大学が指導医として迎え,その地域病院でレジデントスタッフになってもらう。これは地域病院の医師のやりがいにもなるし,若い医師の医療研修の場を広く確保することにもなる。これによって研修医は大学のみならず,地域病院でも広く研修することができる。

 高度医療の地域還元も重要である。日進月歩の医療技術の進歩に対して,地域医療のレベルをあげるためにも地域病院の医師の再研修が希望されるところである。これは,今まで地域病院の常勤医,あるいは開業医が一度大学から離れてしまえば医療研修の機会がなくなるために,新たな医療技術の修得ができなかったことを可能にするものである。地域の医師は短期間の集中研修プログラムに参加して大学で高度医療の研修ができる。

医大卒後の医師研修プログラムを充実

 臨床専門のレジデントスタッフが医大付属病院でできることは,医大を卒業した医師をレジデントとして迎え,彼らに充実した研修プログラムを提供することである。それには次のような研修プログラムが考えられる。

(1)研修医プログラム(2年間):厚労省指導の卒後研修医プログムで,そのまま初期研修として取り入れる。これはそれほど悪い制度ではなく,医学生は卒業してもすぐ特定の医局に入らなくてもよいので,ある程度幅広くいろいろな診療科を研修する機会がある。

(2)ジュニアレジデント研修プログラム(2年間):家庭医をめざして,希望する診療科を半年毎に自由にまわることができ,ジェネラルドクターとしての医療技術が十分身につくようにプログラムされている。

(3)シニアレジデント研修プログラム(4-6年間):専門医のための研修コースで,選択した診療科によって医療技術の修得期間は異なる。修了時には学会が承認している認定医や専門医の受験資格が得られるようにプログラムされている。

(4)地域病院の医師,開業医のための特別研修プログラム(短期間):地域病院の勤務医あるいは開業医のための短期集中研修プログラムで,最新医療技術の研修プログラムが適時公表され,希望する医師が参加できる。

(5)レジデントスタッフのための高度医療研修プログラム(短期間):国内国外を問わず高度医療修得のための研修プログラムが企画され,レジデントスタッフが積極的に参加して医療技術の向上を図る。

 医師研修プログラム作りで重要なことは,必要な研修項目や単位を詳細に決め,それぞれの研修プログラムの修了にあたって“修了認定書”を発行することである。これは医師研修プログラムにとっては重要なことで,ただ数年その診療科に籍を置いていただけでは研修にならないからである。広域レジデントシステムの研修プログラムでは,必要な研修項目を研修するために大学内に留まらず,あらゆる研修機関が有効に活用される。将来,このレジデントシステムが発行する“修了認定書”が誇りを持って医師免許と並んで飾られたいものである。


玉井靖彦氏
1968年和歌山医大卒。同年日本学術振興会流動研究員として千葉大第1生理学教室(本間三郎教授)に国内留学。70年米国テンプル大クルーセン研究所(Richard Herman教授),83年ロックフェラー大神経生理学教室(淺沼宏教授)に海外留学。92年より現職。専門は脳神経生理学。