医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


大腸pit pattern診断

工藤 進英 編著

《評 者》田中 信治(広島大学病院・光学医療診療部 部長)

大腸pit pattern診断学を マスターするために

 昭和大学横浜市北部病院消化器センターの工藤進英教授が,大腸のpit pattern診断に関する成書を,秋田赤十字病院胃腸センター時代のお弟子さんたちの貴重な助力も得て発刊された。

 大腸のpit pattern診断学の歴史は古いが,本格的に生体内で拡大観察が開始されたのは,工藤進英教授らが開発したオリンパス社製拡大電子内視鏡CF-200Zが世に出てからである。しかし,当時は先端硬性部が太くて長く挿入性が悪かったし,ズームスイッチも扱いにくいものであった。その後,拡大電子内視鏡CF-240Zが開発され,内視鏡のスペックや拡大観察の操作性が劇的に改良され,ルーチン大腸内視鏡検査の一部として拡大観察が普通に行われるようになってきた。CF-240Zが発売されるころと時を同じくして,フジノンからも電動ズーム式高画素拡大電子内視鏡が発売されたが,これもスペックは汎用機と同じで,汎用大腸内視鏡が拡大機能を持つことになった。現在では,オリンパス,フジノン東芝,ペンタックス各社から,大腸内視鏡汎用機にオプション機能として拡大機能が内蔵された高画素電子大腸内視鏡が発売されており,日常診療の中できわめて簡便に,ワンタッチのボタン操作で瞬時に拡大観察が可能になっている。これに伴い,大腸のpit pattern診断学(pitology)も飛躍的に進歩し,多くの臨床的に有用な知見が現在明らかになっている。

 このような進歩により,大腸pit pattern診断学が着実に簡便に臨床応用可能になっているにもかかわらず,大腸内視鏡操作技術の未熟さ,拡大観察に対する誤解・理解不足,単なる「食わず嫌い」などから,いまだ大腸の拡大観察を受け入れることができない先生が多いことには驚かされる。

 この原因の1つに,拡大内視鏡観察を行っている専門医あるいは施設間のpit pattern分類・命名,診断基準などが微妙に異なっていたことが挙げられるが,確かに,このことが初学者を混乱させていたことは事実である。この打開策として,小生が司会をさせていただいた雑誌『早期大腸癌』(日本メディカルセンター刊)の座談会における「V型pit pattern呼称の統一」(VI vs VN),厚生労働省がん研究助成金による工藤班(班長:工藤進英教授)の研究の一環として開催された2004年4月の「箱根pit patternシンポジウム」におけるVI型とVN型pit patternの境界診断基準の統一など,pit pattern診断学の世界への普及をめざした歩みが着実に進んでいる。本書では,大腸pit pattern診断学の世界のリーダーである工藤進英教授自身の手によって,これらの歴史や実際が多くの美しい内視鏡画像とともに詳細に記載されており,この本を一読すると雲が晴れるように大腸pit pattern診断学が理解できる内容になっている。

 さらに,大腸腫瘍診療への具体的な臨床応用はもちろんのこと,colitic cancer診断への応用などについても解説されているし,Narrow band imaging(NBI)や超拡大観察などの最先端の内容もふんだんに盛り込まれている。大腸癌の発育進展など現在学会で熱い議論が進行中で,まだ完全にはコンセンサスが得られていない部分もあるが,本書は大腸pit pattern診断学を一気に理解・マスターするための最高の教科書である。

 拡大観察機能が通常汎用内視鏡に完全に吸収された現在,この簡便で有意義な機能を使わない理由はないし,近い将来には,拡大機能を持たない大腸内視鏡はなくなるであろう。大腸内視鏡診断学の時代の流れに遅れないために,本書を早く購入して熟読することを強くお勧めする次第である。

B5・頁204 定価12,600円(税5%込)医学書院


脳神経外科手術アトラス 下巻

山浦 晶 編集

《評 者》峯浦 一喜(京府医大教授・脳神経外科学)

脳神経外科手術書の スタンダード

 このたび『脳神経外科手術アトラス下巻』が上梓された。編者の山浦先生はすぐれた脳神経外科医であると同時に,長年にわたり日本脳神経外科学会機関誌『Neurologia Medico-Chirurgica』の編集長を務められ,脳神経外科に関する数々の著書,編著があり,いずれも時代を見据えた出版物として高い評価を得ている。本書もその例にもれず,手術の「匠」を伝えようという山浦先生の脳神経外科指導者としての「やさしさ」と心意気に満ち溢れた好著である。

 本書の特徴を一言で表すならば「簡潔にして十分」ということだろう。本書で取り扱われている手術は,脳血管障害,頭部外傷,先天奇形,炎症性疾患,脊椎・脊髄疾患,末梢神経の外科,微小血管減圧術,てんかん,血管内手術と多岐にわたっている。近年,進歩の著しい血管内手術も収載され,いずれも最新の情報が含まれ,『上巻』と併せて脳神経外科手術を網羅している。

 執筆者は各手術の第一人者であり,前世紀から劇的に進歩している脳神経外科手術において,手術技法を支える概念,適応,術前検査および準備,術中モニタリング,さらに手術法の詳細,術後管理の項目に分けて,戦略戦術という外科治療の本質に触れる記述がされており,まさに最新の脳神経外科手術書のスタンダードと言える。

 本書は各手術にわたって,わかりやすく,しかも要所をおさえた図が配されており,重要な事項が具体的に指摘され,かつ,記銘しやすい。さらに,特に留意すべき事項は「DOs & DONTs」のなかでポイントをおさえた解説がなされ,読み物としても興味深い。あれもこれもとつめこんだ百科事典的な平板な記述ではなく,臨床医のニーズを知りつくした,細かな配慮が心にくい。

 最近,とみに社会における医療の役割がクローズアップされているが,「社会から求められる脳神経外科」は外科治療が核であり,良い手術を提供することで社会に貢献することが肝要であり,その観点からも上質の指南書の登場は大いに歓迎すべきものである。本書は,発行までに長い年月を経たとのことであるが,編集者が完璧を期し,推敲に推敲を重ね,その結果,「簡潔」でありながら,「十分」な手術書となっている。スタンダードな知識から最新の情報まで網羅した本書は,研修修練医にも,経験豊かな脳神経外科医にも,末長く活用される座右の書となることであろう。

A4・頁512 定価44,100円(税5%込)医学書院


もっと! らくらく動作介助マニュアル
寝返りからトランスファーまで[DVD付]

中村 惠子 監修
山本 康稔,佐々木 良 著

《評 者》杉本 篤夫(東海大医学部専門診療学系リハビリテーション科学)

多様な身体状況に対応した 動作介助の実践書

 近年,いわゆる高齢化に伴い介護を受ける人口は増える一方です。しかしそれらの人々を日常的に介護するのが,理学・作業療法士など運動生理学を学んできた専門家である場合は多くありません。病院等では看護師や介護士,あるいは無資格の助手と呼ばれる人たちも必要に応じて介護をすることもあるでしょう。また,在宅においては,担い手は家族が中心となります。

 そんな中,多くの理学・作業療法士が,看護師や介護士,家族の人たちから「どのように動作介助をすれば楽にできるのでしょうか」という質問を受けます。そのうえ,時間をかけてわかりやすく説明したつもりなのに同じようなことを何回も聞かれたり,教えたことと異なる方法で介助しているのを目にする経験もよくあるでしょう。もちろん介護する者,また介護される者の体格,体力,病態,そして介護する場所とその環境等で,介護の仕方は変えなくてはなりません。そこで,それらの方法をわかりやすくまとめている本がないかと探すのです。ところが,今回紹介する『もっと!らくらく動作介助マニュアル』を一読してもらえれば,今後はあまりいろいろと探す必要がなくなるかも知れません。

 この本は写真が多く,見て理解しやすい内容ですし,多くの身体状況を網羅していて,多種多様なケースに対しての介助法がわかりやすく描かれています。また,付録のDVDでは実際に近い介助の仕方が具体的に映像と解説で示され,何度も確認することができます。ですので,動作介助が初めてというような経験の浅い人にも,安心して紹介できます。

 この本を読んでいくと,以下の2点が基本的な考えとして理解されます。1つは持ち上げない介助,もう1つは患者の残存能力を利用するということです。残存能力を利用するということは,できるだけ,できる動作を行ってもらうという元来のリハビリテーション的な考え方でもあります。過剰な介助をすることは,患者の残存能力の維持・向上を妨げる結果につながると思います。適切な方法だけでなく,適切な量の介助という考え方です。

 最後のⅨ章では,この本で紹介された介助方法と従来施行されていた方法の動作の違いを,三次元動作解析を用いてわかりやすく説明しています。もし今まで行ってきた介助方法に疑問を持っておられる方や,他の方法を試してみようと思っておられる方はぜひとも一読していただき,楽だと思われたらそれを実践し広めていただければ幸いです。

 介護される人は,介護する人が倒れると共倒れになる危険があります。そうならないためにも専門家が一読して,今後の臨床に用いるかどうかも判断していただきたいと思います。

B5・頁204 定価3,780円(税5%込)医学書院


腹部エコーマスター
ハイブリッドCD-ROM

森 秀明 著

《評 者》竹原 靖明(相和会 横浜総合健診センター所長)

CD-ROMの特性を活かした これからの超音波テキスト

 最近10年間における超音波診断装置の進歩は刮目すべきものがある。血流表示では2Dドプラにはじまり,広帯域超音波を用いたDynamic Flow,ビームの圧縮技術(コード化)を応用したB-Flowなど。Bモード画像の分野では,音波の生体内伝播過程で生じる非線形現象を利用したハーモニック法に次いで,微細な信号を自動的に輝度変換するPhotopic US,また,複数の走査による画像を連結して広範囲の描出を試みたPanoramic View,そして3次元画像などがある。これらに加え,超音波造影剤の登場は多くの新しい臨床知見をもたらし,電子スキャン出現以来の第2次黄金期を迎えている。

 著者の森秀明氏は,卒業以来,超音波医学の研鑽一筋に進まれた人で,今や,この新しく展開した臨床超音波の領域では第一線にたつ指導者の1人である。氏は優秀な研究者であるとともに熱心な教育者でもあり,すでに多くの優れた書を物している。その代表的なものには『スタンダード腹部超音波診断』(1996),『初学者のためのわかる腹部エコー』(2000),『できる腹部カラードプラ診断』(2001),『腹部超音波フルコース』(2002)などがあるが,本書も含めて,これらに共通して見られる特徴は,常に読者の側に立って企画立案され,理解させようとする熱意が見られる点で,具体的には, 1)全体によく整理・分類され,読みやすい 2)画像が鮮明で,輝度が統一されており,疲労感が無い 3)各画像には簡明なシェーマを施し,解説されているため理解しやすい などが挙げられる。

 周知のごとく,超音波画像には他の画像にはない,いくつかの特徴がある。そのうち,特に重要なものに「リアルタイム表示性」がある。

 この特質はスクリーニングにおいては,静止画像では見逃されるであろう等エコー病変が容易に認識され,消化管の同定にも極めて有用である。また,診断領域ではデブリーエコーの胆嚢内移動や,肝血管腫の内部エコーの流動に見られるように決定的な情報を提供する。

 このたび出版された『腹部エコーマスター ハイブリッドCD-ROM』は,CD-ROMの機能を活かして,通常の書籍では成し得ない,この重要な動態情報を提供するとともに,症例や所見の検索,サインの索引など,種々の点で読者に高い利便性をもたらしている。これからの超音波テキストのあり方に一石を投じた新しい形の書といえるだろう。

 昨今,スクリーニングにおいては精度の向上が強く叫ばれ,質の高いソノグラファーの養成が急務となっている。一方,百花繚乱の診断分野では,なぜか若い医師たちの超音波離れが進みつつあると聞く。

 本書は必ずや若い医師たちの超音波回帰への起爆剤になるとともに,スクリーニングや診断に携わる医師・技師のよき伴侶たりうると確信している。

CD-ROM
価格10,500円(税5%込)医学書院


解剖実習室へようこそ

廣川 信隆 監修
前田 恵理子 著

《評 者》柴田 洋三郎(九大副学長/大学院教授・形態機能形成学)

初習者の理解を深める 優れたガイド

 実におもしろく,しかもためになる,『解剖実習室へようこそ』は医学書としては珍しい本である。なにしろ裏表紙には,若い男女が腕を広げて抱き合った絵が描かれている。気管支と肺動脈との相互関係を示すものだという。そう言われれば女性は男性の左肩上と右腕下に不自然に抱きつき,男性は抱き合うでもなく大きく両腕を広げて“お手上げ”といった体である。

 万事このような調子で,次々に人体各部の理解と整理が進められ,従来の解剖学教科書とはまったく違う発想の,日本の解剖書としては画期的な書物である。題名から連想する,解剖にまつわる既刊のエッセイ集とは明確に一線を画した,異色の副読本である。著者の前田恵理子先生は,卒後数年の若い医師で,学部6年生時のクリニカルクラークシップでTA(ティーチングアシスタント)として下級生の解剖学実習指導にあたった際の指導メモをまとめたものが,本書だそうだ。さぞや,わかりやすい楽しい実習だったであろう。

 医学生への洗礼/儀礼としての解剖学実習や,ともすれば無味乾燥な用語の羅列に陥りがちな系統解剖学講義の対極として,本書では(1)臨床医学の概念と視点,(2)臨床の香りを届けて楽しくする工夫により,そのギャップを埋めるようなテキストをめざしている。そして「将来の安全で正確なうまい医療行為に活きてきます」という,明確な目標設定により,「目と指先で3次元的立体感覚を養う,この作業が実習である」ととらえている。単なる棒暗記のコツなどでなく,繰り返し整理して理解を深めることにより,「いろいろな角度から繰り返しふれることで全体像が見えてきて理解できる概念がたくさん」あるという。さらに繰り返し・反復により「頭の中に情報圧縮回路ができて,指数関数的に処理能力が向上する」という説得力のある方針をも示している。本書で動機づけられて,解剖実習にのぞんでもらえば,ずいぶんと意欲がわいてくることだろう。ぜひ副読本として活用していただきたい。

 解剖学教育にはいろいろな切り口がある。おそらくどの実習室でも,教員は多少なりともこのような話題で学生の興味をひきつけ,関心を高めているだろうが,本書にはそれをめざした全面的な集大成の観がある。できるだけ平易な言葉を用い,結合組織を土に,剖出を埋蔵構造の掘り出しにたとえるなどの親身な説明や,整理のためのグループ分けと区分・区画分類に単純なオブジェ風スキーム模型図などを多用し,3次元的に理解することを試みるなど,ユニークで楽しいアイデアにあふれている。本書は全36章に分かれ,部位ごとの理解に供するための,総括的な概説が述べられている。

 われわれ従来の教育を受けた者にとっても,改めて知識を再整理するのに役立つことが多くある。すでに教育にあたっている教員には,多少首をひねるところもあろうが,若い人に説明する際のわかりやすい整理法として参考になろう。36章のなかには,「アッペの手術」「ヘルニア」などはともかく,「マッスルマニア」など,これが解剖学書?!といった奇抜な項目が並んでいる。例えば「追う,追う,追う!!!」というのは,CT像14枚の連続写真からなる,縦隔と胸部の立体解剖再構築の力試しパズルである。このように若い豊かな発想から,直近の先輩として初習者と同じ目線で親身になって説明されると,改めて医学教育における,若い人・学生の視点による教育の可能性や,TAの積極的な登用の有効性が実証される。

 一方,いまや情報化の時代であり,断片的な知識・用語の集積とその入手は,電子化情報として,医療関係者に限らず誰にでもアクセス容易となっている。医学教育の目的が,個別知識の伝授から,概括的な体系的理解を深めることに,おのずと移っているということを考えさせてくれる本でもあった。とはいっても,当然のことながら,人体は複雑である。

 先般,“fresh cadaver dissection”なる研修会を見学する機会があった。防腐固定を施さないため解凍体は柔らかく,これまでの解剖体とはずいぶんと違い,局所解剖の理解のみならず,器官系や術式開発の理解把握に新たな応用展開が進んでいるようだ。本書も,解剖学の理解に加えて,人体構造に関連した,疾病の病態解説がなされており,初めて解剖を学ぶ初習者の興味関心と理解を深めるのに頼れるガイド役を果たすことになろう。そのような観点からも,本書は新たな学習教育法の開発などの可能性を秘めた,意欲的な刺激的試みの一つである。大いに活用され,真の解剖学学習の理解を深めるものとして,広く利用されることを期待し,ご推奨したい。

 なお本書では読み物として,主人公の医学生とそのガールフレンド,家族との交流が,同時進行で展開する。風邪,アッぺ,ヘルニアなどに登場人物が次々と罹患していくエピソードも気にかかる。しかしそれは読んでのお楽しみである。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院