医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


目からウロコのクスリ問答

荒井 由美 著

《評 者》林正 健二(山梨県立大教授・看護関連科学)

薬理学より薬剤学を

看護学生が求めているものはこれだ
 2005年2月,日本看護協会は“2004年「新卒看護職員の早期離職等実態調査」結果(速報)”を発表した。私が最も注目したのは「もっと受けたかった教育・研修等」の項目である。新卒看護職員741名の回答で65.3%の人が1位に挙げたのは,薬に関する知識教育だった。看護学生の時代に受けた薬の教育は,はっきり言って役に立っていないのだ。新卒看護職員が求めており,看護学生の時もっと教えてもらいたかった薬の知識とは何か。本書を読んでみれば一目瞭然である。薬の実際的な知識,薬剤学に関する知識なのである。

薬理学ではなく薬剤学を!
 看護学生のカリキュラムにも医学生同様「薬理学」が含まれる。内容は大同小異,わざわざ「臨床薬理学」と命名された本でも,分子レベルでの薬の説明が主体となる。個々の薬物が細胞のどの作用点に働きかけて薬理効果を発現するか。これが理解できれば,本当に疾病の薬物治療はできるのだろうか。

 試験管や培養細胞レベルなら,受容体の構造も重要であろう。しかし看護師や医師にとって必要なのは,眼前の患者さんに対してどうするかである。カプセル錠が飲みにくい時,カプセルの中身を出して飲ませてもよいか。錠剤なら粉砕してもよいか。こんな問題を解決しなければ,日常の臨床業務は遂行できない。

 コンピュータの使い方を教える時,半導体の構造や二進法の解説から始めることはありえない。薬の使い方を教える時,薬理学から始めるのは,本当に正しいのだろうか。薬剤学の知識を主体に,薬理学の知識を織り交ぜる必要があるのではないか。看護学生や医学生へ薬学教育を行っている方へ一度聞いてみたい,長年の疑問である。

薬剤師は何を学んだ専門職なのだろうか
 医学を学び国家試験に合格すれば医師,看護学を学び国家試験に合格すれば看護師だ。とすれば薬剤師は薬剤学を学んだ専門職ではないのか。にもかかわらず薬剤学という名称は普通目にしない。1967年11月の看護教育カリキュラムには,専門科目に薬理学(薬剤学を含む)と書かれていた。しかし1989年3月のものでは薬理学のみで,薬剤学は消え去った。

 薬剤師として7年間働いた後,看護学部を卒業し現在看護師として働いている著者は,「はじめに」で以下のごとく控えめに述べている。「本当に現場で必要な薬の知識を習得するには,薬に向き合う姿勢を学生時代から習慣づけることが必要であり,実践に即した薬剤学教育が多くの看護学生の将来に役立つと思います」

 やはり看護の実践で必要なのは,薬剤学の知識なのだ。著者が一緒に活動する看護スタッフの疑問に答える形式で書かれた本書は,看護学生のみならず看護師にも役立つのは間違いない。お勧めの1冊である。

 診療に従事する医師として,同じ問題を抱える研修医諸君にもぜひ勧めたい。

A5・頁200 定価2,100円(税5%込)医学書院


一目でわかる輸血 第2版

浅井 隆善,比留間 潔,星 順隆 著

《評 者》清水 勝(杏林大教授・臨床検査医学)

「輸血の今」がわかる

 「一目でわかる輸血」の第2版が刊行された。本書の特徴は1テーマが見開き2頁に要領よく簡潔に記載されていることにあり,取り上げられている40項目の各テーマはいずれも輸血療法の現場では必修な知識であることから,輸血療法の従事者や専門外の人にとっても輸血療法の現状を理解し,整理するのに大いに役立つであろう。初版以来の数年間における輸血医療は大きな変革を遂げて来ているが,3名の著者は各々,血液センター,市中の基幹病院,大学病院において輸血専門医として第一線で活躍しており,しかも日本輸血学会では中心的な役割を担っており,自らもこれらの変革に携わってきている。

 最近の最大の話題は「血液新法」の制定と「薬事法改正」であるが,本書では本法律等の輸血時のインフォームドコンセントを含む主要事項の他に,輸血療法に関する指針さらには日本輸血学会主導の輸血業務の点検評価(I & A)活動等が,実務面についても要領よく簡潔に紹介されている。このような関連項目を一読することによって,それらの諸施策の基本には,輸血療法を従来の量から今後は質への転換,つまり安全性の向上をはかることにあることが明らかになるであろう。

 輸血療法が,未だに慣習的に行われている実態をしばしば目撃することは誠に残念なことであるが,本書をひもとくことによって得られる知識(特に輸血の適応と副作用の項)を最低限の共通のものとして,読者各自の輸血療法のあり方を再検討あるいは再認識してほしい。さらに,輸血業務には,従来の全血や血液成分採血と輸血検査ばかりでなく,自己血輸血の他にも幹細胞移植や養子免疫療法等が加わり,さらには再生医療に果たす役割もあることが理解できるであろう。

 一方,本書の項目によっては頁数の制約から十分な解説とは言えない部分もあるが,血液型の項では,ABO血液型のトランスフェラーゼの遺伝子型やRh血液型の遺伝子型についての記載はあったほうが良いであろう。また多少気になるのは,例えばRho(D),Rh,RhD,D,血小板輸血不応状態,血小板不応状態,あるいは新生児溶血性疾患,貧血,黄疸さらには輸血副作用の遅延型,遅発型などの用語が統一されていない箇所が目につくことである。しかし,このようなことが本書の内容の質を落とすことにはなっていないことは申すまでもない。最近の輸血療法の現状と進歩を理解するために,多くの方に一読をお勧めしたい。

A4変・頁100 定価3,045円(税5%込)MEDSi