医学界新聞

 

寄稿

わが国にも子どものホスピス開設を
カナダ・Canuck Place Children's Hospice視察報告

上別府 圭子(東京大学大学院助教授・家族看護学分野)


 さる6月1-4日に,カナダのブリティッシュコロンビア州(以下,BC州)ビクトリア市で開催された第7回国際家族看護学会に出席するに先立ち,5月30日,森山美知子広島大学大学院教授以下日本家族看護学会有志40余名は,バンクーバーにある子どものホスピスを視察する機会を得た。先方の方針で施設内視察は叶わなかったが,写真やビデオをふんだんに使ったvirtual tourを含む講義と,庭園内からの視察による情報収集の成果を報告する。

施設の成立基盤

 Canuck Placeはバンクーバーの高級住宅街に位置し,瀟洒なお城を思わせる外観を持った建物であった(図1)。それもそのはずで,もともとは1910年に,英国の貴族が故郷のスコットランドのお城をイメージして建てたものであるという。その後,所有主や使途には変遷があるが,1991年に最後の個人所有主が,地域に寄与する使い方をしてほしいと言ってこの屋敷をバンクーバー市に寄贈したそうだ。それが,折りしも子どものホスピスのために場所を探していた基金者の目に留まって,1993年にバンクーバー市からCanuck Placeに貸し出されることになった。賃料はなんと,50年間にわたり1年1ドルの契約だという。

 北米の医療保健活動の中で,わが国との違いを強く感じることの一つに,寄付行為の層の厚さがあるが,この視察でも大いにそれを感じた。BC州在住の家族は,無料でこの施設のサービスを受けることができるという。施設の維持や運営資金は,20%をBC州政府が負担し,80%をCanuckというホッケーチームなどの寄付でまかなっているという説明であった。

family-centered care

 さて,Canuck Placeは1995年に開設したということであるが,病院から独立した形の子どものホスピスとしては,北米で初めてのものであるという。single bed roomが4部屋,family suite roomが4部屋(図2)と規模は決して大きくないが,bed room以外の部屋も充実している。生活空間である,キッチンやダイニング,くつろげるリビングルームのほかに,落ち着いた図書室,ミーティングができる広間,レクリエーションやセラピーに使うアートルーム,ミュージックルーム,サンドプレイルーム,プールルーム,感覚刺激ルーム,volcano room,子どもにとって欠くことのできないスクールルームが完備されている。

 Canuck Placeは,進行性で生命を脅かす病を持つ子どもと家族のquality of lifeの向上,family-centered care,そして介護者やサービス提供者へのサポートをめざしているという。スタッフは,看護師,医師,グリーフカウンセラー,教師,ソーシャルワーカー,チャプレン,レクリエーションセラピスト,アートセラピスト,ミュージックセラピスト等と多職種で,学際的ケアを実践している。医師は市民病院との兼任で,夜間は看護師のみということであった。簡易ベッドでの「付き添い」ではなく,このようなfamily suite roomであれば,family-centered careと言われて納得がいく。さらに病児のきょうだいも,この施設内スクールに通学できるというシステムには驚いた。わが国では,病児のきょうだいは,置いてきぼりをくらいがちなのだ。

end of life careとしての利用は一部

 提供されているプログラムと2004年度実績は,次のようである。総入所件数417件,respite care,疼痛その他の症状管理,end of life careなどのプログラムを利用した子ども183名,亡くなった子ども21名,bereavementプログラムを利用した家族121名,プログラム利用に関するコンサルテーション200件以上。2000年から2004年に亡くなった子どもの53%が小児がんで,このほか代謝・生化学的障害13%,神経・筋肉系障害11%,中枢神経系障害10%,染色体異常・多臓器不全7%,心肺系障害6%などによる。一方,入所児全体では2004年11月時点で,小児がんは10%に過ぎず,神経・筋肉系障害が37%と多く,染色体異常・多臓器不全19%,中枢神経系障害15%,代謝・生化学的障害11%などとなっている。すべて生命を脅かす疾患ではあるが,end of life careとしての利用は一部であることがわかる。小児がんの子どもたちから「死」そのものが話題に上ることは少ないが,彼らはみな告知されていて,さまざまな形で感情や思いを伝えてくるということであった。

 Volcano roomは,ブルーの天井,床,壁に赤と黄で噴火した火山が描かれ,カラフルな軽量大型積み木や大玉などが備えられた部屋である。ごく小さな窓があるだけなので,誰にも気兼ねなく,泣いたりわめいたり大暴れしたりできる。「時々,職員も使っています」講義をしてくださったクリニカルナーススペシャリストのKristina Boyerさんは,さらっと言った。

 子どもの場合,患者自身やきょうだいの個別性が高いばかりでなく,家族の抱える責任がいっそう重いことを考える時,わが国にも,このようなfamily-centered careを提供する子どものホスピスの開設が望まれる。