医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


解剖実習室へようこそ

廣川 信隆 監修
前田 恵理子 著

《評 者》内山 安男(阪大大学院教授・機能形態学)

医学生の視点から見た 解剖学の新たな必読書

 医学生にとって,解剖学実習は通らねばならぬ登竜門です。肉眼(系統)解剖と顕微(組織)解剖を終えると,医学生としての共通の言語を理解し,基礎医学・臨床医学の勉強に親近感を覚えるようになります。特に,肉眼解剖は,人体の構造を理解するにとどまらず,生命について,また,医学について多くを考えることになるため,精神的にもインパクトのあるカリキュラムです。

 医学生がこのような肉眼解剖を学ぶにあたっては,現今,たくさんの教科書が用意されています。実習書も図譜もたくさんあります。これらは,解剖学実習を進めるうえで必需品です。しかし,予習のため実習書を読み,教科書・図譜を参考に勉強して,いざ実習室に行っても,なかなか思うような解剖学実習はできません。皮膚,皮下組織,筋膜,筋,骨,その間に神経と血管が走り,体幹には臓器が入っており,確かに机上の勉強ではまったくわからないことだらけで,実習を進めることになります。その意味で,臨床研修と同様に,インストラクターが必要になります。

 解剖学実習を行う時に,2つの重要な理解の進め方があることに気がつきます。1つは,構造を系統(個体)発生学的に理解して,それが生物学的に持つ意味を考察することです。これは非常に大変ですし,なかなか適切な指導者も育っていないのが現状です。また,医学だけの問題ではなく,広く生命科学の理解を深めるために必要な事柄でもあります。肉眼解剖を専門とする研究者が,すべてこの立場で研究に従事しているわけではありません。この立場の基本的な考え方(事実)は,解剖学実習の理解を深めるために重要です。

 もう1つは,臨床的な立場から解剖学実習を進めるものであります。私は学生が実習している所で「“解剖実習をいかにしたらより充実した実習にできるのか”は,君たちが一番よくわかることです。まとめて,本にでもしませんか」としばしば言って歩いています。そんな折,本書をみてその先見の深さに驚きました。

 前田恵理子著『解剖実習室へようこそ』は,まさに学生実習を進める医学生に必読書として薦めたい本です。著者も言っている通り,本書は決して教科書でも実習書でもありません。また,完結した本でもありません。どちらかと言うと,発展途上の本です。しかしその発想で,今まで私たち教える側に欠けていたことを強く主張する本です。

 学生が医学生として持ったら面白く実習できる,という点を見事についています。臨床の専門家から非常に適切なアドバイスも入っていますので,局所解剖の解析の仕方がとてもユニークにまとめあげられています。著者が記載しているように,学生の意見が発想の根底にあります。目線が学生の立場にあるため,フットワークが非常に軽く,局所の理解を進めることができるように工夫されています。発展途上にあると述べた通り,課題は必ず増えていきますし,医学生の医学生による医学生のための必読書として,これから育っていく本だと思います。ただ現在のサイズは手頃で,この発想が非常に重要であるという点を学生に適切に伝えられるものと思います。

 本書は基本的に臨床局所解剖の形式を取るため,イントロダクションを含めて6つの領域に分けられています。各セクションで最も基本となる問いかけをし,それを説明する形式で話を進めています。ですから実習する医学生は,各領域でどのような臨床の場が繰り広げられ,それらが解剖の作業と,どのように絡んでくるのかを考えさせられ,楽しくなります。その意味で,本書はヒット作であると思います。本書を企画し,それを精力的に仕上げた著者に心からエールを贈りたいと思います。

B5・頁224 定価3,990円(税5%込)医学書院


標準微生物学
第9版

山西 弘一 監修
平松 啓一,中込 治 編集

《評 者》谷口 初美(産業医大大学院教授・微生物学)

第一線の執筆者による 微生物学の教科書

 『標準微生物学 第9版』を手にした時,その表紙の躍動感に興味をそそられた。CGを駆使した斬新な色彩とデザインは,左右に広がる波紋の様であり,光を受けて舞い降りる蝶の様でもある。その中に微生物の古典的な分類と,ぶどうの房状をなすブドウ球菌の電顕像,院内感染の代表格であるMRSAのゲノムマップが配されている。古きを温ね,新しきを知るという理念と,基礎と臨床という微生物学の両面を示しているように思えた。波紋は更なる広がりを見せる微生物学の可能性を,蝶の飛来は近年の感染症への注目を象徴しているようである。ミクロの世界のミステリアスなイメージの中に執筆者,編者の意気込みが感じられ,引きつけられる。

 導入部の電顕写真は,最先端の研究内容を映像だけで理解できるよう配置され,学習意欲の誘導に温かい配慮を感じる。各章のはじめには“本章を学ぶ意義”という短い説明文がある。これも学生には助けになる。受験戦術として,生物を選択せずに入学した学生が多い。一般教養の生物学の知識だけで微生物学の講義を受ける学生たちからは,「感染症は興味あるが,微生物学は原理原則が見えにくい,全体像が把握しにくい」等の訴えがある。この解説は膨大な内容を整理するための原点を提供してくれていてありがたい。

 本文は生命現象を理解する生物学的側面と,感染症理解のための基本的概念を養うという微生物学の持つ2つの面のバランスを図っている。難解な最先端の情報はわかりやすい図解や表,写真を随所に配することで理解を助けている。第8章,第9章は近年の感染制御(学)を網羅したもので,感染症学への導入である。ワンポイントチェック問題集は定期試験,国家試験対策の助けになる充実した設問である。

 執筆者は日本を代表する,現在各分野の第一線で活躍されている先生方である。この充実した内容に対し製本が簡素な感があるが,多くの方に手にしてもらうためには必要な判断,経費節約であろう。実際,この価格はさらに魅力を増している。広辞苑に,“標準”とは「判断のよりどころ。めじるしetc」とある。その看板に相応しい出来ばえであり,医歯薬学生や医療関係者のみならず,環境微生物,新規微生物の開拓,ナノテクノロジー等の分野にかかわっておられる方々,興味を持っておられる方々にも参考にしていただける一冊である。

B5・頁696 定価7,350円(税5%込)医学書院


誤りやすい異常脳波
第3版

市川 忠彦 著

《評 者》井上 令一((財)順天堂精神医学研究所所長)

臨床脳波判読における 座右の書として

 昨年(2004年),11月17-19日の3日間,第34回日本臨床神経生理学会学術大会が,杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授を会長として東京の台場で開かれた。

 古賀学会会長は,学会のテーマを“Back to Clinical Neurophysiology”とされ,そのご挨拶の中で「…むしろ若い先生方に神経生理学の楽しさ,醍醐味といったものを知っていただき,よかったら一緒に勉強しませんか,という気持ちの現れとご理解いただきたい。“脳波なんて3日でわかる”というシンポジウムは,そのきっかけ作りというつもりで設けたものである。もちろん,ベテランの先生方にももう一度楽しさを味わっていただくことを期待している…」と述べられたが,この学会は1300人余の人たちが集まるという盛況であった。

 シンポジウム“脳波なんて3日でわかる”は,基礎編,臨床編,応用編と3日間に分けられて開催された。評者も松浦雅人教授と臨床編の座長を務めさせていただいたが,熱気溢れる会場であった。古賀会長も憂えておられたように,近年,臨床医は中枢神経系の検査もCT,MRI,PET,SPECTなどの目覚ましい発展に目を奪われ,残念なことに臨床脳波はともすれば片隅に追いやられている観がある。

 非侵襲的で脳機能の状態をリアルタイムで伝えてくれる臨床脳波は,他の検査と比べても勝るとも劣らぬ情報を提供してくれるのである。

 著者である市川忠彦先生は,若き日にレンノックス・ガストー症候群に名を残された,てんかん学の泰斗であるフランスのガストー教授の許に学ばれl' Attestation d'Etudes d'EEG Cliniqueを取得されている。本書は1989年6月15日に初版が出され今回は第3版であるが,さらに「誤りやすい特殊脳波」が書き加えられ国際臨床神経生理学会用語集の改訂に伴う解説が行われている,まさに臨床脳波を判読する際の座右の書である。

 本書は疾患中心ではなく波形を中心とした教科書であるが,提示されている脳波は,実に綺麗で説得力がある。波形の示す性状と示唆される病変を綴りながら,著者の「…定型的な異常波形の陰で,これまでともすればかえりみられなかった紛らわしい波形に光をあてながら,それぞれの異常波形がもつ誤られやすい側面を浮き彫りにしてみた…」(初版・序)という脈絡が生き生きと読者に伝わり,推理小説を読むような楽しさがある。これは類書に例を見ない本書の特徴である。脳波はてんかんや外傷性その他の脳器質性疾患の診断や経過に有用な情報を提供するが,情動障害や発達障害などにみられる特殊な波形もある。ぜひ,本書を一読され,臨床脳波がいかに面白く,示唆に富むものであるかを,本書を改めて通読しつつ読者にも検証していただきたいと心から願うものである。

B5・頁296 定価5,775円(税5%込)医学書院


標準整形外科学
第9版

鳥巣 岳彦,国分 正一 総編集
中村 利孝,松野 丈夫,内田 淳正 編集

《評 者》小宮 節郎(鹿児島大大学院教授・整形外科学)

「考える整形外科学」を提供する 臨床疾患を網羅した教科書

 商品を売り出すプロジェクトプラニングの原点は,購買者が商品に何を求めているか,それを敏感に察知し,商品内容に反映させようとする姿勢にある。トレンドを考慮し,購買者が満足感を得られるようなものでなければ,ベストセラー商品とは成り得ない。

 医学書を商品とは考えたくないが,医学・医療も日進月歩の世界であり,特にこの数年間は激動期,躍動期にあることを考えれば,細やかなリニューアルも随時加えていくべきであろう。このような時代の要請に柔軟に対応しているのが『標準整形外科学』といえる。本書が4半世紀にもわたり,多くの人々に愛され続けてきた理由はここにある。本書はこのたび第9版としてわれわれの前に登場してきた。今まで以上に細部に吟味がなされており,新時代の医学教科書としてはうってつけの推薦書といえる。

 そもそも医学教科書として必要な要素は,1)対象者がしっかりと意識されている,2)読みやすい,見やすい,親しみやすい,3)理解しやすい,4)ゴールドスタンダードな内容がきっちりとおさえられ,かつ最新情報が盛り込まれている,5)手頃な大きさで持ち運びが可能,6)手頃な値段,などである。

 本書では,それらすべての要素が満たされている。本書は医学生,卒後研修医など整形外科学入門者の総合学習用材としてだけでなく,整形外科専門医にも十分通用する内容となっている。視覚に訴えるべく,ほとんど全頁といってよいほど,随所にカラーイラストが盛り込まれたことは,まさに今の時代を反映しているといえよう。さらに字の大きさ,字間,行間,段落,見出しなどの細かいところまで配慮がなされ,大変見やすいものとなっている。盛りだくさんな内容なのに,読みづらさを感じないのは無駄を極力省き,簡潔表現に徹したからであろう。おかげで臨床疾患のほぼすべてを俯瞰することができる。また,基礎学問領域を理解しやすくするために,本書ほど工夫を凝らした教科書は他に見あたらない。基礎を理解し,それを臨床に役立てる,という基本姿勢が貫かれているように思う。

 本書はそもそも「考える整形外科学」を提供することを基本理念としており,今の医療現場に必要とされる問題解決能力を育成するうえで,これほど役立つものはないであろう。第4編(疾患総論)以降の各章冒頭に設けられている「診療の手引き」は,医学知識を医療現場で応用するためのノウハウ,臨床のコツが実にうまく示されている。臨床医に不可欠な幅広い思考力と鋭い判断力を養うために,コンパクトなサイズで別冊付録としてもまとめられていて携帯に便利である。

 また「side memo」や「やってはいけない医療行為」などのメモが随所に設けられ,実地にあたる臨床医にとって,きめ細やかな指導書といえるであろう。

 時代の要請に見事に応えた本書をぜひ,座右の書としてお奨めしたい。

B5・頁976 定価9,660円(税5%込)医学書院


WM臨床研修サバイバルガイド 産婦人科

麻生 武志 監訳
己斐 秀樹 訳

《評 者》青野 敏博(徳島大学長)

産婦人科研修医だけでなく 臨床医も活用できるガイド

 米国セントルイスのワシントン大学の内科学教室では,内科診療の実践書として以前から『ワシントンマニュアル』を出版しており,60年間にわたり改訂を重ね,スタンダード書として広く世界的に利用されている。

 2003年に至り,米国で姉妹書として外科,小児科,産婦人科など内科以外の臨床6科について,内容を濃縮した形で『臨床研修サバイバルガイド』が出版された。ちょうどわが国では2004年から2年間の新医師臨床研修制度が開始され,スーパーローテイターのガイドブックが待望されていたが,2005年にメディカル・サイエンス・インターナショナル社より日本語訳が出版され,時宣を得た企画と言えよう。

 今回,東京医科歯科大学の麻生武志教授監訳の『WM臨床研修サバイバルガイド産婦人科』を読む機会を得たので,本書の特徴を取り上げ,読後の感想を記したい。

1)執筆者が若手のレジデントや開業医から構成されており,内容がup-to-dateで,かつ具体的,実際的である。

2)記述は簡潔で,産婦人科の臨床実習,臨床研修,臨床の現場でポケットマニュアルとして使用するのに適している。しかし紙質をもう少し薄くすると,よりハンディーになると思われる。

3)産科編と婦人科編の内容がバランスよく取り上げられ,かつ必要項目を厳選しているので,効率的に学習ができる。

4)内容はアメリカ産婦人科学会(ACOG)の発行している『Practice Bulletin』を中心に編集しており,エビデンスに基づき,かつ参考文献が付いているので,理解しやすい。

5)妊婦とHIVの項目が取り上げられていることも特徴で,抗レトロウイルス剤の使用法について詳細に解説している。

6)出生前診断については,トリプルマーカーテストをすべての妊婦に施行すべきとの立場をとっており,スクリーニングが陽性の場合は,超音波検査と羊水穿刺を奨めるとしている。この点は倫理的な観点からトリプルマーカーテストに消極的なわが国の方針と異なっている。

 本書は麻生教授と己斐秀樹先生の名訳に支えられ,産婦人科の臨床研修医の文字通りサバイバルガイドとして用いることができる。学生,新医師臨床研修制度を受ける研修医,日常の臨床医の座右の書として大いに活用していただくことをお奨めしたい。

A5変・頁440 定価3,360円(税5%込)MEDSi