医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


専門医のための消化器病学

小俣 政男,千葉 勉 監修
白鳥 康史,下瀬川 徹,木下 芳一,金子 周一,樫田 博史 編集

《評 者》渡辺 守(東医歯大大学院教授・消化器病態学)

研修医にも読んでほしい本物のテキスト

 医学書院刊行『専門医のための消化器病学』を拝見させていただいた。「これは」と思って私の病院の研修医に推薦したところ,研修医が珍しく興味を持って読んでいる姿を見た。本書のような「本物」のテキストが少ないこと,およびこのようなテキストをむしろまだ臨床経験の少ない研修医が欲していることを改めて痛感した。

 本書はわざわざ「専門医のための」と銘打っている。これは非常に奇妙である。この種のテキストは通常は「専門医」のために書かれているに決まっている。したがって「研修医のための」「初心者のための」などと銘打つテキストはよくあるが「専門医のための」というのは誠に不思議なタイトルである。しかし「専門医のための消化器病学」というタイトルにこそ,監修をされている小俣先生,千葉先生が本書に込めた思いが感じられる。

 本書の最も大きな特徴は,序にあるように,「病態メカニズムの理解を軸に消化器疾患を総合的に捉えることができる構成」になっていることである。ある疾患が「なぜ発症するのか」「なぜそのような症状を呈するのか」「その検査値は何を示しているのか」といった日常の診療で生じる「なぜ?」に,病態メカニズムから生理学的な根拠に基づき理論的に解説が行われており,調べれば腑に落ちる解答へ辿り着くことができる。

 最近の消化器領域におけるテキストは,内視鏡に関するものを中心として技術的な解説を主体とするものがあまりにも多い。また,ほとんどの特集は診断と治療に多くのページを割いている。しかし,本書においては「疾患概念」「疫学」「病態メカニズム」にフォーカスをあて,しかもコンパクトにわかりやすく解説されている。

 さらに本書は,食道,胃から肝臓,胆道,膵臓まで消化器系すべてを一冊に網羅しており,図表を多用して視覚的に理解することができる。また,最新のトピックス,最近の動向を解説し,消化器を学んでいるものが知っておきたい新しい知見を漏らすことなく収載している。

 小俣先生,千葉先生が監修をされているのに,既存の同じようなテキストにするはずがないと思っていた。案の定,本書は新進気鋭の若い先生を執筆者に揃え,また今後の消化器病学の進むべき方向性,すなわち「アートよりサイエンス」に基づく新しい時代の消化器病学がよく表されている。

 本書は「専門医のため」でももちろんあるが,これから消化器病学を志す若い研修医にこそ,ぜひ活用していただきたい。一歩先を行く臨床医と消化器病の専門医に「なるために」,参考にすべき一冊である。本書を手にした私の病院の研修医の姿はそれを明確に示している。

B5・頁656 定価15,750円(税5%込)医学書院


一目でわかる消化器病学

Satish Keshav 著
峯 徹哉 訳

《評 者》茶山 一彰(広島大大学院教授・消化器病学)

ほとんどの消化器疾患を網羅
初学者にもわかりやすい入門書

 本書は消化器病学の概略について,解剖学から疾患までを総合的にわかりやすく解説したものである。表紙から見てとれるように,わかりやすいイラストが全書を通じて左側のページに,解説が右側のページに配置されており,非常に見やすくなっている。イラストはすべて手書きであるが,肉眼像,組織像とも的確に理解すべき点が捉えられている。

 全体は48章から構成されているが,大きく分けて4パートからなり,「構造と機能」,「統合機能」,「障害と疾患」,「診断と治療」という順序で記載されている。従って,調べたい事項に応じてどの部分を見ればよいかが目次を介してすぐにわかる。「構造と機能」に関してはかなり詳細に記載してある。特に,本パートのイラストは大変理解しやすく,右側のページの解説をさっと斜めに読むだけで知りたい知識が得られるよう工夫してある。

 続いて,「統合機能」では消化管と肝胆膵を併せた消化器全体の機能である消化,吸収,排泄,さらには免疫などにもわたって解説してある。そのため,医学生,看護学生など,医学を志す学生が勉強するにあたり,とても理解しやすい入門書となっている。また研修医,看護師,臨床検査技師,放射線技師といった消化器病学の一般的な知識を必要とする方たちにとって格好の教科書であるだけでなく,消化器を専門としない医師が気軽に参照するのにもうってつけであるといえる。

 さらに,消化器専門医が疾患に関連のある解剖,機能について,簡単に参照するのにも大変重宝なものとなっている。「障害と疾患」,「診断と治療」はコンパクトにまとめてあり,とてもわかりやすい。本書は,全体を通じてほとんどの消化器疾患が網羅されているため,消化器病をこれから勉強しようとする人が教科書代わりに読み進めるのに好適である。

 日本語訳は大変こなれた表現になっており,翻訳書によく見られるような直訳的な表現はなく,またイラストに描いてあるモデルも日本人風であり日本人の著者が書いたといってもまったく違和感がなく読める。このため,おそらく学生や,医学の専門知識が少ないパラメディカルの方などは間違いなくスムーズに読み進められるであろう。冒頭に略語集があり,英語のスペルアウトと和訳が併記してあり,理解しやすくなっているだけでなく,図や本文中にもさりげなく解説が挿入してある。

 “at a Glance”とタイトルを付けた著者と,“一目でわかる”と訳した訳者の気持ちがまさに伝わってくるような好書といえる。

A4変・頁120 定価2,940円(税5%込)MEDSi