医学界新聞

 

シネマ・グラフティ

第6回
「 24 」(シーズン・ワン)


2641号よりつづく

■勧善懲悪のアメリカ・ドラマ

 今回はテーマから多少外れている。というのも,「24」は映画ではなくて,テレビ・ドラマなのだ。

 友人がアメリカからこのDVDを送ってくれた。1回が1時間,全24回で,ある1日を描き出す。ただし,コマーシャルを入れるため,各回が約45分。すべて観るとなると18時間。しかし,アメリカのDVDはリージョン1で,日本はリージョン2。送られてきたDVDは私のプレーヤーでは映らない。さて,このDVDを観るためだけに,専用のプレーヤーを買うかどうか迷ったあげく,評判のドラマを観るために,結局,プレーヤーを購入。そして,すっかりはまってしまった。

テロ対策機関と暗殺者の闘い

 民主党の大統領候補に指名されるために運動を続けている黒人候補デイビッド・パーマー(デニス・ハイスバート)の暗殺計画が持ち上がる。テロ対策エージェントであるジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)と暗殺者たちとの闘いが24時間にわたって描かれていく。

 ストーリーは単純だ。バウアーの妻子まで巻き込まれ,テロリストの人質になったり,そこからようやく助かったかと思うと,また,囚われの身となる。最後まで,誰が敵か,味方か,わかるようで,わからない。ついつい次の回も観てしまう。2001年に放映されると,全米で大評判のドラマとなり,日本でもDVDが発売されている。

アメリカ版「水戸黄門」

 さすがはアメリカのドラマで,どんどん引きずり込まれてしまうのだが,最後は正義が勝つ。このあたりが最近のアメリカ映画(ドラマ)の限界だ。まさに勧善懲悪そのもの。どれほどバウアーたちが危機に陥ったとしても,結局そこから脱出するのは明らかなのだ。だからこそ,視聴者は気楽にこの長尺のドラマを楽しめるのかもしれない。まるでアメリカ版「水戸黄門」。

 私が映画を観始めた1970年代は,アメリカン・ニュー・シネマ全盛で,不条理を巧みに描いていた。その時代からの映画ファンにしてみると,最近はあまりにも安易なハッピーエンドの映画やドラマが多すぎる。近頃観た映画で,その傾向に反していたのは「ミリオンダラー・ベイビー」くらいだろうか。

 ただし,出演者にはなかなかの俳優がそろっている。主人公のキーファー・サザーランドは,「普通の人々」などで好演したドナルド・サザーランドの息子である。キーファーは名優の誉れが高かった父親とはまったく異なり,犯罪者の役が多かった。ところが,「24」では捜査官なのだから,皮肉なものだ。「24」ではテロリストの首領に「イージーライダー」(1969年)や「スピード」(1994年)で渋い脇役を演じたデニス・ホッパーがいい味を出している。

 さて,せっかくリージョン1対応のプレーヤーを手に入れたのだから,これを機会に古き良きアメリカのテレビ・ドラマを手に入れて,楽しもうかとも考えている。たとえば,「パパは何でも知っている」「ファミリー・タイズ」「ダラス」「スレッジ・ハマー」「ブルームーン探偵社」等々。

次回につづく


高橋祥友
防衛医科大学校防衛医学研究センター・教授。精神科医。映画鑑賞が最高のメンタルヘルス対策で,近著『シネマ処方箋』(梧桐書院)ではこころを癒す映画を紹介。専門は自殺予防。『医療者が知っておきたい自殺のリスクマネジメント』(医学書院)など著書多数。