医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


整形外科 術前・術後のマネジメント
第2版

松井 宣夫,平澤 泰介 監修
伊藤 達雄,大塚 隆信,久保 俊一 編集

《評 者》岩本 幸英(九大教授・整形外科学)

術前・術後管理を 体系的に習得できる

 従来から整形外科手術法に関する優れた成書はたくさんあったが,患者の術前・術後管理に関する親切な手引書はほとんどなかった。そこで1998年に,整形外科の個々の手術法に対応したきめ細かい術前・術後管理のテキストである『整形外科 術前・術後のマネジメント』の初版が刊行された。以来本書は,数多くの整形外科医,中でも病棟で直接患者を担当する若い医師たちに愛読されてきた。これまで先輩医師のもとで経験を積むことにより試行錯誤的に身についていた各疾患の術前・術後管理のノウハウを,本書により体系的に習得できるようになったことが,好評を博した理由であろう。

 その後,整形外科医に要求される技術はさらに幅広くなり,リスクマネジメントに対する配慮という新たな問題も浮上してきた。このような時代的背景のもとに,このたび本書の第2版が刊行された。通読し,旧版と比較してまず感じたことは,1)2色刷りとなっているため,項目や図が見やすくなっていること,2)数多くの新しい手術の項目が加えられていること,3)リハビリテーションのポイントや,医師以外のスタッフへの指示がよりきめ細かくなっていること,の3点であった。また,手術法ごとに,「リスクへの対応」という項目が設けられている点が素晴らしいと思った。この項目を熟読することにより,経験が少ない若手の整形外科医であっても,堅実なリスクマネジメントとインフォームドコンセントの取得が可能になるであろう。

 本書はきわめて実践的な記載がなされているので,症例に遭遇するたびにベッドサイドで繰り返しひも解いて知識を自分のものにし,カルテの記載にも反映させることをお勧めしたい。現代の医療では,安全な医療が重視されている。本書をもとに,全国で間違いのない術前・術後管理が実践され,整形外科の医療が国民の大きな信頼を得ることができるように念願している。

B5・頁376  定価6,300円(税5%込)医学書院


内科医のための薬の禁忌100

富野康日己 編集

《評 者》島本 和明(札幌医大教授・内科学)

医療ミス予防への 大きな意義を有する書

 最も薬剤を使用する機会の多い内科領域において,薬剤に関する医療ミスが増加している。これらの中ではdo処方により必要な変更がなされていないことや,似た名前の薬剤を誤って書いてしまうミス,さらには薬局段階で誤投薬がされるなど,不注意によるミスが多い。当然,処方箋記載後も薬局,院外薬局とダブルチェック機能もあり,大きな問題にならないことが多いが,注意が必要であることは言うまでもない。

 一方で,病態によっては投与できない処方があり,また併用においても行ってはいけないものもある。これらは,処方箋を作成するうえでのミスとは異なり,むしろ薬剤に関する知識が不十分であることによっておきるもので,それだけ事は重大となる。

 今回,順天堂大学の富野康日己教授によって編集された『内科医のための薬の禁忌100』は,そのような意味でも薬剤による医療ミスを予防するうえで大きな意義を有する書籍である。

 多くの医師は,自分の専門領域の薬剤については,使用禁忌,慎重投与,副作用,併用禁忌についてはよく知っているものである。本書はまずは,それらの確認を手早くできるのがありがたい。時には専門領域でも知らない項目があったり,機序・病態の内容で再確認される項目もあり勉強になる。一方,専門分化が進む今日の医学では他領域の薬剤の開発,新薬への切り替えも多く,専門外の領域においては,必ずしも十分な薬剤知識を有することは容易ではない。

 本書の特徴と有用性は,循環器内科領域から膠原病・アレルギー領域まで内科全体をカバーして薬の禁忌を紹介している点にある。広い内科領域について,重要な項目を絞って紹介されているため読者にとっての意義がさらに大きくなっている。

 また,病態と薬剤を明確にした見出しがコンパクトでわかりやすい点もあげられる。さらに,その病態や同様の使用機序でおき得る禁忌,そして対策や代替療法など現実的に必要な知識がわかりやすく説明されている。見事な構成でついつい目を奪われ,一気に読んでしまう内容となっている。

 また,書籍は,一度読んでも何かの折に,また確認や読み直しをするものである。本書のコンパクトサイズの判型は,座右の書としていつでもとり出して見ることのできるサイズであり,この点も本書の特徴である。富野教授の読者に対する気遣いが随所に表れている名著である。

B6・頁264 定価3,360円(税5%込)医学書院


総合診療ブックス
はじめての漢方診療 十五話[DVD付]

三潴 忠道 著
木村 豪雄 協力

《評 者》丸山 征郎(鹿児島大大学院教授・血管代謝病態解析学)

入門者から上級者まで 充実の“漢方指南書”

漢方では「証」の把握が中核
 臨床医学は【診察】⇒【診断(病名決定)】⇒【治療】という3つのステップを踏む。しかし漢方には,このうちの【診断】のプロセスがない。その理由は,漢方が成立した時代には現在のような臓器を単位とする疾患概念がまだ確立していなかったということ,診断の根拠となる検査法がなかったことが主たる原因であろうと思われる。

 さらに大きな理由は,漢方では疾患を,生体本来のあるべき姿からの歪みとして全体像の把握に主眼を置くからであろうと思われる。漢方においては,医療者が五感を駆使してつかんだ治療目標(いわゆる「証」)に拠って治療を展開する。このように,漢方では,「証」の把握こそが中核となるのである。しかしこの「証」は,典型的なアナログ情報であり,数値化できる線形情報ではないので,臨床実践の中で,経験を積み重ね,勘を磨いて先鋭化されてゆく。この漢方の旅のなかで,もちろん「師」や「同僚」が存在すれば,上達が早くなってくることは当然のことである。

漢方学習の優れた指南書
 しかし,師や同僚もいないことが多い。それらの場合には,指南書が必要である。本書は格好の指南書である。著者の三潴忠道氏は,寺澤捷年氏(現千葉大学教授)の高弟の一人であり,福岡県飯塚市の麻生飯塚病院の東洋医学センター長として,日本の漢方をリードしている新進気鋭の漢方医である。氏はかの千葉大学東洋医学研究会の出身で,藤平健,小倉重成という大先達の手ほどきも受けた輝かしい経歴を持っている。

 本書では日常診療を材料とし,それについて漢方病理所見を押さえ,処方を決定していく。タイトルのごとく,初心者が漢方に入門していく際に非常に役に立つ内容となっているが(腹診のレッスンのDVDも付いている),日常臨床で頻用される処方はほとんど網羅されている。また,それらが漢方の論理に従って解説されているので,これまで漢方を勉強してきた経験者にとっても,大いに役立つ内容となっている。

 筆者は,本書に目を通しながら,まるで,ポリクリや臨床講義を受けているような錯覚に襲われた。臨場感があるのである。

 内容は深く,それでいながら現実的,実践的な内容となっている。われわれは出色の漢方指南書を得たというべきであろう。

A5・頁280  定価5,250円(税5%込)医学書院


基礎から読み解くDPC
正しい理解と実践のために

松田 晋哉 著

《評 者》宮崎 久義(国立病院機構熊本医療センター病院長)

DPC研究・開発者による わかりやすい解説書

 診療報酬の支払いは出来高払いから包括払いへと移行しつつあり,DRG(Diagnosis Related Group)/PPS(Prospective Payment System)の試行に続いて,DPC(Diagnosis Procedure Combination)に基づく支払いが特定機能病院を中心に開始され,医療関係者の最大の関心事となっている。しかし,DPCが正しく理解されているかというと,残念ながら不十分と言わざるを得ない。手ごろな解説書を探していたところ,本書がタイミングよく上梓された。

 執筆者の松田晋哉教授は,日本におけるDPCの生みの親である。もう10数年前になろうか,ある研究会議での松田教授のプレゼンテーションを聞いたことがあるが,欧米の医療制度のあり様についての博識に感嘆したことを思い出す。その松田教授がDPCの研究開発に関わったことは,まさに的を射た人材の登用であろう。

 まず表紙をあけると「はじめに」の項が目に入る。本書の目的を記してあるとともに,小生の参加する医療マネジメント学会での出来事が触れられている。

 本学会はクリティカルパスを中心に医療連携,医療安全,電子診療録等の,医療の質,運営に関心の高い医療関係多職種が研究・発表している集まりであるが,第6回学術総会における松田教授の特別講演に先立って司会者がDPCを理解している人に挙手を求めたところ,その数が少なかったことに松田教授はショックを受けたようである。しかし,その学術総会の帰りの車中で,松田教授の講演は大変有意義であった,との参加者の賞讃の声を耳にし,関係者の1人として大変喜んだことを思い出す。忙しい中にも労をいとわず講演を引き受け,DPCの理解と普及に尽力されている松田教授の姿勢には頭の下がる思いである。そういった思いを胸に,本書を読ませていただいた。

 本書の特色は,大変わかりやすい話し言葉で記述されていることである。そして要所要所にコラム欄を作り,ポイントをまとめてあり,読者はその節,その節で考えを整理して,次の段階に進めるよう気配りがしてある。適切に配置された図表はわかりやすく,理解を深めるための工夫が随所に見られることは,執筆者の本書への心意気を示すものであろう。

 内容は5章からなる。第1章では診断群分類についての詳細,かつきめ細やかで具体的な解説を本書の半分の頁数を割いて行っている。ここでDPCの基礎を理解できる。第2章以降は応用編である。第2章にはDPCの具体的なマネジメントツールとしての活用法を,第3章には今後の課題について記述してある。DPCと病院情報システム,原価計算,ベンチマーキング,経営分析,マーケティング,そして臨床指標,クリティカルパスとの関わりなど,病院マネジメントのキーワードが目白押しに出てきて,わかりやすく解説されている。さらに第4章には諸外国の取り組みが解説され,世界の現況を見渡せる。最後の第5章にはDPCについての執筆者の思いが整理してある。

 本書の一読により,DPCは医療の質と運営の質の改善のための広範にわたるマネジメントツールであることが理解できるとともに,これからの医療の在り方に大きく影響することを認識させられる。

 本書はこれからDPCを学び取り組もうと考えている方,DPCに取り組んでいるがもっと理解を深めたいと考えている方,管理者はもちろん,医療の現場に従事される方々の必読の書である。

A5・頁176 定価2,730円(税5%込)医学書院


カラー図解
よくわかる生理学の基礎

佐久間 康夫 監訳
Agamemnon Despopoulos,Stefan Silbernagl 著

《評 者》東 英穂(久留米大教授・生理学)

生理学の基本原理がわかる 必読のテキスト

 本書は『Color Atlas of Physiology』第5版の翻訳テキストである。その特徴は題名が示す通り,圧倒的に美しいカラー図版にある。見ていて愉しいし,飽きがこない。約390頁のコンパクトなテキストで,本文が左頁に,図版が右頁に印刷されているが,内容としては医学部基礎課程で学ぶ生理学の基本原理と知識が十分に網羅されている。

 さらに,従来の生理学テキストに記載されていない「遺伝子の転写と翻訳機構」,「エネルギー産生機序」などの生化学的知識,「運動生理学;身体的フィットネスとトレーニング」や「レプチン,α-MSH,neuropeptide Yによる体重調節」,「細胞内情報伝達系」などの最新の生理学的知識,さらに「免疫系による生体防御機構」が含まれており,基礎医学に必要な基本概念を学ぶことができ,コアカリキュラム用のテキストとしても有用である。

 本書を読んで私自身が最も感心したのは,図版と第13章付録である。付録には,計量値と度量単位,ベキ計算と対数,計測データの作図,ギリシャ語のアルファベット,生理的基準値,生理学で用いられる重要な式がきわめて分かりやすく解説されており,学生にとって,講義はもちろん,実習,自己学習においてきわめて利用度が高いと思われる。

 第1-12章までの本文については,字数の制限もあり,学生が本文を読んで本当に理解できるであろうかという一抹の不安がよぎった。というのも,最近,生理学テキストを持ってきて,「この文章の意味がわかりませんので解説して下さい」と尋ねてくる学生がかなりいる。学生に真面目に本文を読んでもらうには,原著を意訳して重要なポイントのみを明示すべきではなかったかとか,パラグラフ間でもう少し空白をとれば読みやすかったのではないか等と,つい考え込んでしまった。この点については,監訳者である佐久間康夫教授も序文の中で,「この小著一冊を読了するだけで,生理学の学習が完了するわけではない」と述べられている。私も同感である。

 本書は,生理学の基本原理を手っ取り早く理解するための必読の書であり,本書の姉妹編である『カラー図解症状の基礎からわかる病態生理』(松尾理監訳,MEDSi)とペアで,コアカリキュラムの必携書として推薦する。なお,本の価格も適正である。

A5変・頁432 定価6,825円(税5%込)MEDSi