医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第10回]「がんばれノート」が本になった
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 2001年から7A病棟で始まった「がんばれノート」が,めぐりめぐってあの川島みどり先生(日赤看護大教授)に見ていただく機会を得ました。『はじめてのプリセプター』(医学書院,2003年)という本の中で,取り上げていただくことになったのです()。

 ノートを導入するにあたり,ただの指導ノートになることを恐れていました。「ここができていない・もっとこうして」だけでは辛くさせるだけです。でも甘い言葉だけを並べるのも,本音からかけ離れています。新人教育をプリセプターだけに一任するのではなく,病棟全体で行おうと,当時新人教育係だった四方田さん(5年目)を中心につくったのがこのノートでした。

 この機会に,改めて7A病棟でのプリセプター・プリセプティのあり方,新人教育のあり方を振り返ることができました。そしてその思いが今も新しいがんばれノートを支えています。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,原田操(4年目),大塚和恵(4年目),冨田美津枝(副看護師長)。

8/17 ●末松
 川島みどりさん(→気やすい?)に見染められ,ついにがんばれノートが日の目をみました。原稿の時点では「うわー!!」と思っていたものが,本になり,帯までほどこしてあって,「人ごとみたいだな……」と思って実感がわきませんでした。でもいち早く友人がお金をだしてこの本を買ってくれて,すごく感激しました。「本当にすばらしい人たちに囲まれているんだね」って言ってくれました。

8/18 ●原田
 かなり,久々になりました。末松さんが1年生の時からもう2年経ったんだね。『はじめてのプリセプター』が送られてきた時,なんだかすごくわくわくしながら読みました。末松さんが1年生の時,「こいつただものじゃないな」って思っていたけど,もう一回読んでみるとやっぱすごいね,がんばれノートって。あのノートは末松さんだからできたんだなって思うけど,でも毎年このノートは世界に1冊しかないノートなのだと思います。プリセプティとプリセプターの間には誰も入れない“何か”がある。もちろん,プリセプター以外の周りの熱いフォローとサポートがあってこそですが。

8/20 ●大久保
 末松さんの本の出版,おめでとうございます。原稿から拝見させてもらっていましたが,本になったものを見ると言葉にできないような,「おー!!」という感じがして,何度も同じところを読み返したりしています。末松さんってやっぱりすごいなと思いました。1年目でいろんなことを考え,感じているところが私には全然足りないし,やっぱり末松さんは1年目からすごいナースだったんだと感じました。

 原田さんからの“プリセプターとプリセプティの間には何かがある”っていう言葉を見た時,本当にその通りだなと思いました。すごく落ち込んで,暗い気持ちで病棟に来た時,末松さんは必ず声をかけてくれるなーと。自分ではいつも通りにしているつもりでも,末松さんにはわかるのかなーって思います。もちろん他の先輩の優しさ・愛情もすごく感じて涙が出そうなくらい嬉しい時がたくさんあります。

 これからもがんばれノートを大切に使って,知識も技術も心ももっともっと成長していきたいです。末松さんの本も,自分の第2のがんばれノートとして大切に読んでいきます。

8/29 ●大塚
 大久保さんは,本当に素直ですばらしい!! 先輩をすごいと思う気持ちは,大切です。でもね,1年目からすごいナースは末松さんだけじゃなく,大久保さんもなんだよ。人それぞれすばらしい所をもっていて,末松さんは感性が豊かですごいし,大久保さんは真面目で素直ですごい……。他の人のすごいところをまねしつつ,自分のよいところも大切に。

 プリセプターとプリセプティの関係ってよいものですね。脈々と受け継がれる教えがあって,深い愛情があって。大久保さんも,いつかプリセプターになり,その流れがずっと続くことを願っています。

9/7 ●冨田
 末松さんの本,出版おめでとうございまーす。泣けるほどうれしい! 私もとってもうれしいので登場して参りました。皆の思いを読んでいると,あの頃は私もそうだったなーと思い出します。大好きな患者さんの急変に泣きながら心マッサージしたこと,体がブルブルふるえて悲しかったこと,胸がキュンキュン痛くなったこと(これは恋心だけではないのです)などたーくさんのイベントがあったわけです。

 看護とは何か……本を読みあさり模索していたこともありました……やっと大人になって気持ち落ち着いて仕事もできるようになりました。そうなるまでにいったいどれだけの月日が必要だったことでしょうか……皆はこれから先長いし,きっと仕事している間,考え,悩み感動し……していくんだと思う。だから看護はおもしろいし楽しいし,辛いし,ずーっと続けられる仕事だと思うよ。看護が大好きと言える私になりました。

 それにしても,私の1年目にこんなの(がんばれノート)があったら,末松にだって負けないすばらしい本ができていたはずなのに……そう思うと残念でなりません。皆,幸せもんです。「それしかない関係」を持つことができるみんながうらやましい! 皆,大変でしょうけどこんな淋しい私がいることも忘れないで,頑張ってね。

大久保 私にとって末松さんは仕事のできる雲の上の存在でした。その末松さんが新人の時に書いたがんばれノートを読んで,当時の末松さんが自分と同じようなことで悩んだことを知って嬉しかったのと,当時から看護に対し細かい感情を持って臨んでいるところに改めて末松さんの素晴らしさを感じました。原田さんが書いた「プリセプターとプリセプティの間には誰も入れない何かがある」というコメントが大好きで,末松さんと自分の関係もきっとそうだと信じています。末松さんのがんばれノートを読むことができたのをきっかけにまた一歩,そんな関係に近づけたかな,と思えました。

大塚 プリセプターは後輩に多大なるエネルギーを注ぎ込み,プリセプティは先輩を目標に頑張る。これぞプリセプターシップ!って感じが末松さんと大久保さんの関係にはありました。全員が得られるわけではない,特別な関係なのだと思います。

 何年か経ち,教えられていた子がプリセプターを始めると,教えられたことをまったく同じように指導し始めたりします。教えるポイントが同じだったり,セリフが同じだったり。そして教える側の大変さを知って再び,先輩に感謝する思いが出てきます。その感謝の思いは後輩に注がれる愛情となり,教えとともに受け継がれていくのだと思います。末松さんが教えたことは,今,大久保さんがプリセプターとして後輩に伝えようと頑張っているようです。

冨田 がんばれノートが本に掲載されて,7Aの皆が自分のことのように喜びました。頼りなげで心配だった末松さんが今や,立派なプリセプターへと成長し大久保さんを指導しています。他の皆と同じように末松さんは,プリセプターだった四方田さんとプリセプティである大久保さんと2つの「それしかない関係」を築いています。自分が味わったことのない関係に羨望もありました。そして,まだ若く元気な彼女たちですが,受け持ち患者さまと深い関わりを持ち,厳しい側面のあるがん看護を続ける中で,時として苦悩することがあります。1つずつクリアすれば,私のように「看護が大好き」と言えるようになるんだよという思いを込めて書きました。

次回につづく


 『はじめてのプリセプター』(医学書院)には,当時1年目の末松さんとそのプリセプターだった四方田さんがともに学び,成長していくプロセスが収載されていた。

病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。