医学界新聞

 

医療の質向上に果たすパスの役割

2005年クリニカルパス教育セミナーの話題より


 2005年クリニカルパス教育セミナー「もっと知りたい! クリニカルパス――先駆的病院に学ぶその実践」(主催:日本クリニカルパス学会・医学書院)が,6月11日に熊本市(くまもと県民交流館),6月18日に名古屋市(名古屋市中小企業振興会館)で開催された。

 パスの普及は目覚ましいが,質的な面では差が開きはじめている。本セミナーは,先駆的病院の実践を紹介し,パスの発展・進化を促す目的で企画された。両会場とも定員を上回る応募があり,医師,看護師,PT,薬剤師など多職種が熱心に聞き入った。本紙では熊本会場の模様を報告する。


 須古博信氏(済生会熊本病院長/日本クリニカルパス学会理事長)による基調講演では,自病院で進化したパスの変遷を説明。多職種が知恵を出し合い,ガイドラインやEBMを勉強しながら,そのコンセンサスをパスに盛り込んだ経験から「これまで習慣的に行ってきたことも理論的に考えるようになった」と語り,「マニュアル診療につながる」「考えない医師をつくる」などのパスに対する誤解を解いた。

 阿部俊子氏(日看協)は,「記録が多すぎる」「情報収集が職種ごとに自己完結型,チームで共有されていない」現状を指摘。患者ニーズを念頭に仕事の流れを考え,余分な記録は削除し,必要なことは記録に盛り込むなど,パスを用いたチーム医療,記録削減のポイントを述べた。

 自院で電子化パスを導入する今田光一氏(黒部市民病院)は,メーカー主導で作られた既存の電子化パスの使いづらさを指摘し,「ツールとしての紙パスと電子カルテ上のパスはまったく別のもの」との見解を示した。

病院全体で記録再考を

 副島秀久氏(済生会熊本病院)は,医療の質向上のツールとしてパスを用いる際に必須であるアウトカム設定とバリアンス分析の考え方を概説。現行の記録は重要情報が混在し,後で取り出すことが困難であると指摘し,日めくり式パスにおいて患者観察項目を定式化,重要情報はバリアンス欄に分別収集する試みを紹介した。

 立川幸治氏(名大病院)はDPCの制度的不備や混乱,アメリカのDRG方式との違いを説明し,「DPC適応のためにパスを導入すると自分を見失うことになる」と警告。目先の利益に囚われることなく患者の利便性に立脚する病院が生き残るとし,病院運営上で期待されるパスの役割は,科・部門の壁を越えるチーム医療の実現や,人材の有効活用にあるとの考えを述べた。

 ディスカッションでは,電子化パスの導入を考える参加者からの質問がいくつか出され,まずは紙ベースの整理に取り組むことの重要性を演者らが指摘。さらに阿部氏は「記録を書かないといけない理由は山ほど言えるが,書かなくていい理由を言える人がいない」と,病院全体で記録のあり方を再考する時期に来ているとの見解を示した。最後は,情報分析からシステム変革につなげる人材育成の必要性にも話が広がり,パスを通して病院や医療のあり方まで考えさせられるセミナーとなった。