医学界新聞

 

力を集め小児救急を支える

第19回日本小児救急医学会開催


 さる7月1-2日,仙台国際センター(宮城県)において,第19回日本小児救急医学会が中川洋会長(仙台市病院事業管理者)のもと開催された。「力を集め小児救急を支える」をメインテーマとした今回は,小児医療・小児救急のグランドデザイン構想に関するシンポジウムなど,危機が叫ばれる本邦の小児救急医療体制をいかに変革していくかについて議論が交わされた。


■急がれる小児救急医療体制の整備

小児救急の地域連携体制構築へ向けて議論

 病院小児科の減少傾向や,なかなか整備の進まない小児救急医療体制など,小児救急医療の課題は大きいと言われている。シンポジウム「小児救急医療のグランドデザインを検証する」では,日本小児科学会などが推進する小児医療・小児救急のグランドデザイン構想を中心に,今後の日本における小児救急医療体制が議論された。

 最初に中沢誠氏(東女医大)が,日本小児科学会小児医療改革・救急プロジェクトチームの一員として,グランドデザイン構想を紹介した。同プロジェクトチームは,慢性的な小児科医不足の状況は当面改善されないという共通認識に立ったうえで,ニーズの高い小児救急への要望に応えるため,入院体制,時間外救急診療の集約化を進めた「地域小児科センター構想」を提案。これは二次医療圏に1か所以上,365日24時間1-2次救急を行う施設を設置するというもので,同施設には地域の小児科医が参画することを想定している。

 中沢氏は最後に「これらの提案は,従来自由裁量に任されていた病院経営に対して,一定の制約を課すものであり,実現には病院施設はもちろん,市町村,個々の小児科医が力を合わせていくことが必要だ」と述べた。

 一方,松平隆光氏(松平小児科医院)は,小児救急医療体制を考えるうえでの開業医の役割を強調。近年,少子化傾向にもかかわらず,病院小児科への時間外診療が増加傾向にあるのは,かかりつけ医であるべき地域の小児科開業医が時間外診療を十分に行えていないという背景があると述べた。

 かかりつけ医が時間外診療を行わなければ,本来診療所が対応すべき初期救急患者が時間外に大挙病院小児科を訪れることになり,混乱を来すケースが少なくない。松平氏はこうした現状を踏まえたうえで,小児科開業医が時間外診療を含めた,地域の育児支援にもっと目を向けることと,それをコスト面で反映するような診療報酬制度の改革が急務であると述べた。

地域小児科センターの実際

 シンポジウムではこの後,各地の取り組みが紹介された。山田至康氏(六甲アイランド病院)は神戸市における病院小児科機能の集約化の現状を報告。小児科医と救急医の連携は良好であるものの,開業医,大学医局の救急との連携が不十分だという現状が明らかとなった。

 一方,グランドデザイン構想の柱の1つである「地域小児科センター」の具体的な動きも紹介された。山本威久氏(箕面市立病院)は,2004年4月に開設された豊能広域こども急病センターの今日までの実績を紹介した。同センターでは,総人口約100万人(小児人口約16万人)を抱える二次医療圏・豊能地区における小児救急患者の1次救急対応とトリアージ(2次救急患者の後送病院への振り分け・搬送)を行っているが,その開設に伴い,地域の後送病院を受診する救急患者数は約70%減少し,各施設の医師・看護師の労働条件が大きく改善したという。また,同地域全体での総患者数はセンター開設後も変化はなく,センター開設によって小児の1-2次救急の効率的な分離が行われ,各施設の小児科勤務医・看護師の肉体的・精神的勤務状況が改善されたことと,その結果としての患者満足度が上昇したことを報告し,地域小児科センター構想の有効性を強調した。

■小児救急におけるQOLが議論に

 救急医療が高度化する中,救命を優先するあまり患者および家族のQOLを損なっているのではないか。そうした反省が,他領域と同様に,小児救急領域でも議論となりつつある。シンポジウム「小児救急の患児をめぐるQOLと環境」では,家族への配慮や看取り,死亡時の倫理的配慮といった論点が話し合われた。

家庭看護力の低下と親の不安

 横尾京子氏(広島大)は,小児救急で大きな課題となる患児の親とのかかわりについて,看護師の視点から述べた。救急医療では救命が第一とされることは言うまでもないが,小児救急の現場では現実的には軽症患児が多いと言われている。横尾氏はその背景として,核家族化によって家庭看護の知識が全般的に不足し,たとえ軽症であっても大きな不安感を抱いてしまう親が増えているのではないかと説明した。

 小児救急現場の看護師は,通常の診療の補助に加え,こうした親の不安への対応を迫られることになる。現在患児には最善の処置がなされているということを納得してもらうため,十分な説明とともに処置場面に立ち会ってもらうことが必要だと解説した横尾氏は,「小児が傷病を負った経緯によっては親が自責の念にかられることも少なくない」と述べ,心理面へのトータルなサポートが重要であると述べた。

 一方,被虐待児への心理サポートを行ってきた立場から登壇した佐々木千鶴子氏(東北福祉大)は,虐待と救急で共通する「危機的状況にいる人へのかかわり」という観点から,臨床的知見を述べた。佐々木氏は,当事者が感じている「非日常性」に対し,援助者は「職業的日常性」と「生活者としての日常性」という2つの日常性を持っていると説明。職業的に,患者やクライアントの「非日常的な体験」に日常的に接している専門家は,時に「生活者としての日常性」を失ってしまいやすいと解説した。特に虐待児や小児救急における児の親など,心理的な危機に陥ってる当事者へのかかわりに際しては,一般的に言われる「共感的理解」ではなく,自分の心にある種の防御服を着せたうえでの支援が技術的に求められると述べた。

小児救急における「看取り」

 島田誠一氏(日本バプテスト病院)は,回復不能となった児の看取り場面における家族対応に焦点を絞って発言。淀川キリスト教病院における過去13年間におよぶ児の死亡例を検証し,事前の意思確認や,臨終場面における家族による選択の結果,入院例の約50%の家族が最期は蘇生術を施行しない「看取りの医療」を選択していたことを明らかにした。島田氏は「回復不能が判断された時から死に至るまでの時間は,親子にとって非常に大切な時間と考える」と述べ,小児救急における「看取りの医療」の重要性を強調した。また,これを実施するにあたっては,児の生前から家族との密接なかかわりを構築することはもちろん,行政,警察などとも日ごろから連絡を取り合うことが重要であると述べた。