医学界新聞

 

新しいチーム医療,NSTに期待

第7回医療マネジメント学会開催


 第7回医療マネジメント学会が6月24-25日,朔元則会長(国立病院機構九州医療センター)のもと,福岡市の福岡国際会議場,他にて開催された。メインテーマを「安全かつ最良最適な医療の提供を目指して」とした今回は,4つのクリティカルパス総合講座のほか,医療制度の展望,新人看護師教育,個人情報保護など,「さまざまな職種が興味を持てる」という観点で企画が選定された。パネルディスカッションではICT(感染防御チーム)とNST(栄養サポートチーム)が取り上げられ,新しいチーム医療のあり方が議論された。


 欧米で普及しているNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)設立の機運が日本でも高まり,稼動病院が急増している。その起爆剤としては,日本医療機能評価機構の病院機能評価Ver5.0(本年7月より審査開始)で「栄養管理・支援のための組織(NSTなど)が設置され,栄養ケアが組織横断的に実践されている」と,NSTの評価項目が初めて盛り込まれたことがある。

 さらには来年4月に予定される診療報酬改定で評価がなされる可能性もあり,設置施設が今後も増加するのは確実だ。ただ,普及が進む一方で問題点も指摘されており,パネルディスカッション「新しいチーム医療:NSTに期待される役割と実践」(司会=北美原クリニック・岡田晋吾氏,市立岸和田市民病院・山中英治氏)では,NSTの今後の方向性が議論された。

栄養管理継続のため 転院先に情報提供

 飯島正平氏(箕面市立病院)はNSTの質向上と活動範囲について問題点を提示。栄養療法に対する知識不足,マンパワーなどNSTを取り巻く現状を述べたうえで,教育環境やガイドラインの整備,活動に必要な臨床指標の固定を課題にあげた。さらに「栄養管理が途絶えてはいけない」と地域への広がりもポイントであると語った。

 山内健氏(国立病院機構九州医療センター)は,入院時栄養スクリーニングの工夫を説明。また,院内でNSTの効果を調査した結果,TPNや院内感染の減少は認められなかったとし,「病院全体にNSTの存在を浸透させるのが困難」,「栄養不良が回復する前に転院してしまう」など,急性期病院がかかえる問題点を要因にあげた。

 宮澤靖氏(近森会栄養管理センター)は,院内で用いる栄養スクリーニングに関して説明。担当看護師が,全入院患者を入院時から退院日まで1週間毎にスクリーニング。6つの項目のうち1項目以上該当する場合に栄養アセスメントを行うとした。また,栄養管理継続のため発行する転院先栄養士への情報提供書も紹介した。短期間でNSTが発展した理由としては,「リハビリでチーム医療をやってきた素地があったのがよかった」と振り返った。

NSTと褥瘡のラウンド, どっちに参加したい?

 鞍田三貴氏(国立病院機構大阪医療センター)は大規模病院におけるNSTの確立プロセスを報告。「NSTはコンサルテーション,治療方針の決定は主治医」など確立のポイントを示す一方で,大規模病院ならではの問題として,人の入れ替わりが激しく教育・研修に根気が要ることをあげた。

 亀井有子氏(岸和田市民病院)は,院内の看護師に対し「NSTと褥瘡,どちらのラウンドに参加したいか」と調査した結果,NST1:褥瘡8の割合であったことを報告。「褥瘡は看護の恥という意識があり,アウトカムも目で見えるため関心が高い一方,栄養不良は医師の所為という認識が強く,栄養代謝などの理解も難しいのが原因では」と考察した。最後は,「呼吸の次に大切なのは食べること」と食事療法の価値を強調したナイチンゲールの言葉を紐解き,“栄養管理は看護師の仕事”と述べた。

 室井延之氏(赤穂市民病院)は,NSTにおける薬剤師の役割として,TPN無菌的調整,EN・TPN処方設計支援などをあげた。また,NST設立やEN・TPNガイドライン(各種栄養経路の選択基準,推奨順位を明記)作成が契機となり,TPN調製量が3年前の4割程度に減少したことを報告した。

 ディスカッションでは,医師や看護師の協力体制,栄養管理教育,栄養投与経路の適正化などが課題にあがった。最後は司会の岡田氏が退院後の栄養管理に触れ,「病院でやるのはもう当たり前。今後はNSTが地域の栄養管理のネットワークづくりに取り組むことが必要」とNSTの新しいチャレンジを掲げ,シンポジウムをまとめた。

■個人情報保護時代の記録のあり方は

 2005年4月より個人情報保護法が施行され,医療機関では混乱も生じている。シンポジウム「個人情報保護としての診療情報――医療現場で,診療記録,看護記録等の問題は?」(座長=国立循環器病センター・豊田百合子氏,国立病院機構九州医療センター・阿南誠氏)では,診療情報の基盤となる記録に関して,医師,看護師,診療情報管理士,患者の立場から改善点が議論された。

 医師の立場から西本寛氏(大津赤十字病院)は,医療機能評価機構の議論をもとに,望まれる医療記録のあり方を概説。今後は「情報の共有(患者と,医療者と,社会と)」がキーワードになると,意識改革の必要性を説いた。看護師の立場から伊藤文代氏(国立病院機構大阪医療センター)は,看護記録に記載される情報は患者のプライバシーそのものであるとし,倫理教育の重要性を強調。また,主観的事実と客観的事実を識別し,事実を正しく記録するトレーニングも課題にあげた。

 システムエンジニアである久富洋子氏は,診療記録の開示を求めた入院患者としての経験を語った。申請時に「裁判でも起こす気か?」と問われるなど病院の対応の悪さや引継ぎとして必要なことが書かれていない記録の不備を問題点にあげた。診療情報管理士の立場からは秋岡美登惠氏(国立病院機構九州医療センター)が,「開示は特別なことではない」「記録は患者さんと共有するもの」など記録作成上のポイントを提示。記録を「次へ引き継ぐためのツール」と定義した。

「共有」「引継ぎ」がキーワード

 西本氏は「説明事項は複写で書き,1枚を患者さんに,残りを記録とする。説明には看護師も立ち会うか,後で報告する」と,記録としての保存,現場の共有の両面での工夫を紹介。看護現場で記録削減の努力をしているという参加者に対しては「医療に専念したいのはもっともだが,記録として残らない形で効率化しても逆効果」との考えを述べた。また,新人教育の段階からの診療録教育も今後のポイントにあがった。最後に司会の阿南氏は,「次の人に伝えるために記録がある」と,「共有」「引継ぎ」をキーワードにあげ,シンポジウムを閉じた。