医学界新聞

 

根拠に基づく訓練・指導方法の確立へ

第6回日本言語聴覚学会・総会開催


 さる6月11-12日,第6回日本言語聴覚学会が,宇野彰大会長(筑波大)のもと,「根拠に基づいた言語訓練-evidence based practice-」をテーマに,大宮ソニックシティ(埼玉県)にて開催された。Lyndsey Nickels氏(マッコーリー大・オーストラリア)を迎え特別講演「Assessment and treatment of impaired word retrieval : A Cognitive Neuropsychological approach」が行われたほか,シンポジウム・一般口演・ポスター発表,生涯学習講座が企画された。


言語治療分野における エビデンスの確立

 一般口演は摂食・嚥下障害や失語症など,シンポジウムと連動した演題が多く行われ,質疑応答も活発なものとなった。そして,シンポジウムは,大会主題「根拠に基づいた言語訓練-evidence based practice-」と同テーマで行われた。最初に司会を兼務する種村純氏(川崎医療福祉大)が登壇。「言語治療分野でエビデンスを確立するための方法論」と題し,現在のエビデンスのレベルと言語聴覚障害者に対する治療のガイドラインについて口演した。日本脳卒中学会における構音障害・失語症・摂食障害の訓練・リハビリテーションに対する評価は,十分な科学的根拠はないが推奨されるグレードC1であり,今後,質の高いエビデンスを提供し,科学的裏づけをしていくことが重要であると述べた。

 続いて城本修氏(県立広島大)が,「発声・構音・嚥下障害領域」について口演。音声治療は一応の効果を認められるというところまできたが,根拠に基づく論文は非常に少ない。また,他の領域では決め手となる研究は見当たらないと述べた。今後の課題として,一定の効果をあげている運動学習を導入していくか,いかに治療効果を特定するかが残されていると強調。また,単一事例研究を多く集めメタ分析を行うためにも,協会等が核となり,臨床データを積み上げるセンターを有することが望ましいと締めくくった。

 次に小嶋知幸氏(江戸川病院)が登壇し,「失語症とその他の高次脳機能障害」について発表。「言語聴覚士は提供しているサービスの効果をデータ化し,エビデンスを高める努力をしなければならない。しかし対象としている領域にはエビデンスを形にするうえできわめて困難な部分が多く含まれている。まず形にできる領域に着手しながら,困難であってもエビデンスを形にできていない領域に挑戦し続けなくてはならない」と語った。

 藤野博氏(東京学芸大)は「根拠に基づく発達障害児のコミュニケーション支援」と題し口演。「単一事例だけではエビデンスのレベルは高くない。しかし,知見を多数集めることにより信頼性の高いエビデンスを提供する情報となりうることから,臨床実践の中で介入効果を検証するには,単一事例デザインが多くの場合妥当で現実的な選択肢となるであろう」と述べた。

 そして最後に廣田栄子氏(筑波大)は,「難聴高齢者におけるハンディキャップ自己評価法を用いた聴覚臨床の検討」と題し,高齢者の生活・文化を考慮した聴覚障害自己評価検査を作成し,補聴器適合・指導の効果を定量的に評価し,聴覚臨床の妥当性を検討した結果を報告。

 難聴高齢者の補聴器適合・指導では,聴覚医学的評価ならびに,社会的・心理的要因について主観的評価法も有用であり,高齢者固有の障害感に基づいた聴覚リハビリテーションの妥当性と効果について検討が可能であったと述べた。

認知神経心理学的アプローチを用いた評価と治療

 宇野氏が司会を務め,Lyndsey Nickels氏(マッコーリー大・オーストラリア)の特別講演「Assessment and treatment of impaired word retrieval : A Cognitive Neuropsychological approach」が行われた。

 Nickels氏は,言語に対する認知神経心理学的アプローチを行う際,最大効果の治療を行うためにも,表面的な分析をするのではなく,「言語処理モデル内の構成要素のうちどれが障害され,どれが機能しているかを正確に把握しなければならない」と語った。講演では,語産生における処理のレベルと,各レベルにおける障害像,さらに障害をどのように区別するかを,成人の失語症例・小児の特異的言語障害例の研究を例にあげ説明。一連の単一症例研究を通して,課題と症状,その相互作用をさらに詳細に分析することが求められていると述べた。

交流活動推進と強化

 学会と同時開催された日本言語聴覚士総会では,はじめに藤田郁代会長(国際医療福祉大)が挨拶を行い,(1)「言語聴覚士の普及・発展」,(2)「言語聴覚士の養成」,(3)「学術および職能面の強化」,(4)「協会の公益法人化」など,今後,協会が取り組んでいく課題を述べた。

 言語聴覚士の養成について,「多くの養成校が設立され,教育内容の充実,教員および臨床実習先の確保など,教育の質を保つことが重要な課題のひとつになっている。協会は養成校・教員連絡協議会と連携して,この課題に取り組んでいきたい」と語った。そして,本学会のテーマでもある学術・職能面の強化については,「海外の職能団体のように,学術および職能の面での連携強化が求められている。国内団体との連携・交流推進のみならず,海外団体とも交流推進し,国際的に活動の幅を広げていきたい」と強調した。

 本総会では新会長に深浦順一氏(佐賀大)が選出され,藤田氏と握手を交わした。また新役員の選出も同時に行われ,今後の本協会の舵取りは,「これまでの協会の方向性を継承し,さらに発展させていく」と述べた深浦新会長のもと,新理事会に託された。