医学界新聞

 

シンポ「健康と病いの語りとコンテクスト」

第20回日本保健医療行動科学会大会より


 さる6月25-26日,立正大学(品川区)で開催された第20回日本保健医療行動科学会大会(会長=立正大・楡木満生氏)において,シンポジウム「健康と病いの語りとコンテクスト」が行われた。本シンポでは,宗像恒次氏(筑波大)の司会のもと,4名のシンポジストが医療現場における「語り」について意見を交わした。

 この日,招聘講演でも登壇したオーストラリアのソーシャルワーカーであるディー・オニール氏(オーストラリア社会福祉法人セントルークス社副社長)は,患者の語りの中から前向きで力強い部分に焦点をあて,それを支援し,強化していく方法論である「ストレングスアプローチ」を解説した。また,やまだようこ氏(京大)は,人は物語の中で生きている,というナラティヴ・アプローチの基本的なスタンスを解説した。

 一方,精神科医の立場から発言した春日武彦氏(都立墨東病院)は,臨床における“処方箋”が持つ多様な意味性について論じた。面接中に机の上にあった処方箋を材料に,氏が想像もしなかったほど深く,不幸な物語を紡ぎ上げた患者のエピソードを紹介したうえで,春日氏は「この患者は,仮に机の上に処方箋がなかったとしても,別の何かを材料に同様のストーリーを作り上げたでしょう。しかし,もし『処方箋というものが物語の材料として機能しうる』ということを,医師である私が知っていたら,また違った展開となったのではないか」と述べ,処方箋から生じるさまざまな「意味」を,いかに日々の臨床に活かしていくかを論じた。

 また,波平恵美子氏(御茶の水女子大)は,医療人類学の立場から発言。日本の村落の多くで,共同体に共通の「不幸の物語」が繰り返し語られるという事実を紹介し,(不幸な)物語を繰り返して語ることによって得られる心の平安というものもある,と分析する一方で,現代の凶悪犯罪や引きこもりの背景には,物語を多様に意味づけるだけの材料に乏しい現代人の生活があるのではないか,と述べた。