医学界新聞

 

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ポートフォリオ評価とコンピテンシー手法による
「リーダーシップ研修」に参加して

加藤麻美(島根県立中央病院看護師・産婦人科病棟)


自分たちが主役の研修

 2004年10月に,私は院内で行われた4年目看護師対象のリーダーシップ研修に参加した。講師を務められたのは,コンピテンシー手法による21世紀型教育を全国に広めていらっしゃる鈴木敏恵先生(千葉大講師)であった。

 研修に先立って,「<知の共有プレゼンテーション>の作成ガイド」が配布された。そこには,「1,2年目の看護師たちに対して,自分自身が看護職として4年間で培ったものをまとめ,広める」という目的で,「模造紙2枚を使って発表する」という課題が示されていた。

 私がそれまでに考えていた研修といえば,教壇の前に講師が立ち,講義をする「教えてもらう」形の研修だったので,自分たちが何らかの提案をしていくという今回の形式がリーダーシップ研修にどうつながっていくのか,はじめはイメージできなかった。

自分を振り返り, プラス面を見つけ出す

 プレゼンテーションの準備にあたって,私は就職してからこれまでの4年間を振り返り,自分を成長させた要因を考えた結果,「金魚のふん」というキーワードを思いついた。それは,先輩方が長い経験から体得された専門的な技術や,自分では思いもつかないような発想のケアを,先輩の後ろについてまわって学び取ったことを意味する。

 先輩の姿を見ることは,先輩の成果を見ることでもあり,先輩の成長過程を見ることになる。それを自分のものとするため,見た内容を評価し,自分にプラスとなるものを積極的に取り入れていく。こうしたプロセスが自分の成長につながり,今の私を作ってきたものだと思ったのである。

 そこで後輩たちにも,参考書や教科書だけでなく,臨床実践能力を高めるため「仕事の知識・技術,プライベートの使い方など金魚のふんになって先輩から盗もう,そこから自分なりのものをつかもう」と提言した。発表を通して,自分がこの方法で確かに成長してきたことを実感した。そして自分も後姿を見せることができる先輩になっていけるという自信につながった。

 今回の研修は,今までの自分を振り返り,評価し,自分のプラス面を見つけ出すというものだった。そして,それを言葉にすることで自分の成果を認め,今後の糧にしていく。就職して今まで,1つひとつの出来事を振り返ることはあったが,自分自身をまるごと振り返ることはなかったように思う。

 これまで,何かを振り返る時は,悪かった点を見つけ,それについてどうすればよかったのかを考えていた。もちろん,そのような姿勢が必要なこともあるだろう。しかし鈴木先生は「自分のプラス面を見つけ,伸ばしていく振り返りはもっと必要である。それが,自分の心を動かし,人を動かす力になる」と教えてくださった。その材料となるのが,研修会の資料や年間の学習レポートや,先輩の後姿を見て気づいたことを書きとめたメモなどをまとめたポートフォリオであり,今後に活かせる自分だけの評価表である。目に見える成果は自分を納得させるとともに,人への説得力となることを実感できた。

人の心を動かし, 行動を変容させるには

 プレゼンテーションに対する評価をする場合も,「そこはいけない」と言うのではなく「それはこうしたらもっとよくなるでしょう」と言うことで,発表者が指摘を素直に受け入れることができる。そしてそれは,「よりよくするためにはどうすればいいか」を考えるきっかけにもなる。

 自分の心を動かし,行動につながり,さらには変容した自分の姿を人に見せることで,見た人の心を動かし,その人の行動変容につながる。これはまさしく,私が4年間で先輩方から学んだものそのものだ。「人に影響を与え,心を動かし,行動を変容させていく」というかかわりは,リーダーとしての重要な条件だと言える。

 鈴木先生は,「人を動かすということは,人の心を動かすこと。そのためには,知識だけでなく自ら行動できるコンピテンシーの育成が必要」と言われた。今までの自分の成果を振り返り,自分自身の成長過程を理解し,ポートフォリオとして見える形とすることが,結果的にリーダーシップ能力を培っていく。ポジティブな自己評価の重要性を,身をもって学ぶことができた研修であった。

■「ポートフォリオ」とは

 本来は,建築家やジャーナリストなどが自分の仕事や活動を1冊にファイルしたもの。ポートフォリオを見ればその人の個性や能力などがわかるだけでなく,作成した本人にとっても,自分の目標や計画の過程で調べた資料やメモが入っているため,常に自分の行ってきたことを振り返り,評価しながら目標をめざす「意志ある学び」が可能となる。

 鈴木敏恵氏は,日本におけるポートフォリオ教育の提唱および実践の第一人者として,教育だけでなく幅広い分野で活躍,医療においては,特に臨床研修や看護師教育などに積極的に取り組んでいる。

看護師ポートフォリオの中身
・ビジョンや「目標」を書いた紙
・目標へ至る「計画表」
・日々の疑問,日誌,気づきメモ
・参加している研究会や勉強会などの価値あるアウトカム
・「自己評価」を書いたもの
・学会発表の際のプレゼンテーション資料など
・研究記録・発表論文・寄稿歴
・関心のある新聞,冊子の切り抜き
・関連する読書歴
・研修会参加など自己研鑽歴…etc
 (クリニカルラダーによる自己目標などもあり得る)

 島根県立中央病院では,鈴木氏の指導によりポートフォリオの導入がスタートしている(http://www.igaku-portfolio.net/kango/workshop.htm)。また,第2回島根看護学術集会においての鈴木氏による特別講演「未来教育コンピテンシー手法-ポートフォリオで『目標と評価』が変わる!」が行われる予定。

<第2回島根看護学術集会>
日時:7月2日
場所:出雲市・ビッグハート出雲
連絡先:〒690-0049 島根県松江市袖師町7-11
 社団法人 島根県看護協会
 TEL(0852)25-0330/FAX(0852)25-3157
 E-mail:shimakk@carrot.ocn.ne.jp