医学界新聞

 

カスガ先生 答えない
悩み相談室

〔連載〕  3

春日武彦◎解答(都立墨東病院精神科部長)


前回2634号

 入院中の患者さんから,「あんたはマンネリ医者だね」と言われました。長期入院中の患者さんなのですが,訪室するたびに「いががですか,具合は?」と尋ねるのが気に障るようなのです。いつも同じことばかり判で押したように尋ねて,ちっとも人間味が感じられない,と。実は私自身もひそかにそう思っていたので,言葉に窮してしまいました。マンネリでも仕方がない気もするのですが,先生はどのようにお考えになりますか。(内科医・♀・30歳)

-マンネリ医者の安定感

 健康を損なった時につくづく感じるのは,以前ならば何とも思っていなかった「平凡な毎日」の有り難さです。波風の立たないマンネリの日々に支えられた凡庸な生活が,いかにかけがえのないものであったかを痛感するのです。そのいっぽう,長期入院の毎日は,不安な重苦しさに覆われています。退屈で変化がないように思えるものの,悪い知らせや絶望的な宣告の予兆に満ちた毎日でもあります。そうした恐れと苛立ちとに耐え切れなくなって,患者さんは「マンネリ医者」という言葉をあなたへ放ったのでしょう。あなたが無能であるからそう言われたわけではないと思います。

 とはいうものの,「マンネリ医者」と言われてどう反応すべきなのでしょうか。私は気の利いた台詞をとっさに口にできるタイプではないので,たぶん「う~ん」と唸って絶句してしまうでしょう。すると相手に一本取らせることになる。こういった場面では,基本的に「負けるが勝ち」と思っているので,それでよいのです。そして次に「私も気が利かないなあと思っていたのですが,とにかくあなたが平穏に過ごされていることを確認して,安心したいんですよ」とでも答えるでしょう。

 患者さんにツッコミを入れられた若いドクターを眺めていますと,大概は黙ったまま苦笑していることが多いようです。当人の雰囲気とか外見が,苦笑をしてサマになる場合もあれば,何だかいかにも誤魔化しているように映ったり,無責任そうに映ったりいろいろな場合があるように見受けられます。そのあたりは,自分のキャラクターを確認してみる必要はあるかもしれませんね。私の場合ですと,苦笑をしていると逆に小馬鹿にしているように見えがちらしいので,まあ率直というか手の内を見せるような態度に出ることにしています。

 それにしても,毎回同じようなことばかり言っていて惰性に流れているような気がするなあ,といった感覚は誠実さと自信のなさとの間を揺れ動いているようでいて新鮮ですね。こちらとしては気まずく思っていても,むしろ相手は「毎度お馴染みの……」といったパターンのほうがかえって安心するようです。人間はもともと保守的です。ましてや病気を抱えているとなると,(一見したところの)マンネリズムはむしろ安定感につながる要素となるようです。もちろん形骸化はよろしくありませんが,無理に気を利かそうと悩むくらいだったら,逆にあえてマンネリぶりを話題にしてみたほうが気分が楽になるのではないでしょうか。

 たまに医者の側が悩みとか弱さをちらりと見せるのは,患者さんに親しみとか信頼感を覚えてもらう契機となるようです。ただし,治療の技術とか知識において頼りなさそうなところを見せるのはマズイですけれど。

次回につづく


春日武彦
1951年京都生まれ。日医大卒。産婦人科勤務の後,精神科医となり,精神保健福祉センター,都立松沢病院などを経て現職。『援助者必携 はじめての精神科』『病んだ家族,散乱した室内』(ともに医学書院)など著書多数。

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