医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


基礎から読み解くDPC
正しい理解と実践のために

松田 晋哉 著

《評 者》西岡 清(横浜市立みなと赤十字病院院長/東医歯大名誉教授)

DPC理解のために 必読・必携の書

 平成15年度から,新しい医療費支払い方式として特定機能病院にDPC(Diagnosis Procedure Combination)が導入された。この制度はアメリカで始まり,世界各国で導入されているDRG(Disease Related Group)に基づく医療費包括支払い方式に対して,本邦独特のシステムを構築したものである。

 本邦の医療は,施設間格差が大きいことが指摘されている。この格差を是正し,すべての国民が等しく良質な医療を受けることができるようにする必要がある。そのためのツールとしてDPCが作成された。本書は,DPCの作成に中心的役割を果たした著者がDPCについて解説した貴重な書である。

 第1章で,DPCの実際が詳細に解説されている。DPCは,最も医療資源を投入した疾患と,その疾患の治療に要した手術・処置を組み合わせて分類した疾患グループ分類で,この分類に基づいて医療費支払いを行おうとするものである。DPCの14桁コードは,主要診断群分類,ICD-10分類コード,入院種別,患者の背景,手術の有無,行った手術・処置等の種類,副傷病,重症度等から成り立っており,コーディングのための手順が,実例を引いて解説されている。DPCを理解するためには,必読の書といえる。

 第2章では,DPCの目的と利用の仕方が解説されている。DPCは,医療の標準化,透明化と効率化をめざした医療評価ツールである。本書を読むことによって,DPCの14桁に含まれる情報が,医療の質を評価するためのツールともなっていることにも気づくと思う。自院でのDPCの結果を他施設のそれと比較することによって,自院の医療の内容を検討できるようになっている。例えば,個々のDPCの在院日数を比較すれば,自院を訪れる患者の種類,治療の難易度と成績,クリニカルパスの有効性などが比較検討できる。また,DPCは,経営分析,マーケティングなどにも利用ができることが解説されている。

 DPCの導入によって医療の効率化が行われるため,過少医療が危惧されたが,導入後の詳細な調査によって,DPCによる粗診粗療は起こっていないことが明らかにされている。DPCが,医療の標準化,透明性,効率性と同時に,医療の質向上をめざすツールとして進化するシステムとなることが期待される。

 本書では,さらにDPCの今後の課題も解説され,次世代の医療費支払いシステムと医療評価システムのあり方が提案されている。あるべき医療システムを考えるうえで,示唆に富む書といえよう。

 本書を読み進めるうちに,著者のDPCにかける情熱がヒシヒシと伝わってくる。本書は,DPC理解のために必読の書であり,必携の書である。医療を考える人たちに,ぜひとも精読していただきたい書として推薦したい。

A5・頁176 定価2,730円(税5%込)医学書院


《標準理学療法学・作業療法学専門基礎分野》
整形外科学
第2版

奈良 勲,鎌倉 矩子 シリーズ監修
立野 勝彦 執筆

《評 者》上好 昭孝(河学園・河医療技術専門学校校長)

医療従事者を志す学生の 模範的な教材

 障害をもったヒトの治療に直接携わるリハビリテーション医療従事者の一員である理学療法士,作業療法士をめざす学生にとって,運動器疾患・障害を取り扱う整形外科学は重要な必修教科である。

 本書は整形外科学の解剖学,生理学をはじめ,運動器疾患の機能評価などについての基礎知識の要点が簡潔かつ明確に記されており,また随所に理解を助けるための図説が取り入れられた教科書となっている。さらに臨床の場に出てから知っておくべき運動器障害をきたす基本的な疾患が緻密に選択されている。著者は大学医学部の保健学科という現場で学生教育に携わり,活躍している教育者としての鋭い視点で,基本的な整形外科学の必修の内容をもれなく概説し,学生に興味を持たせ理解しやすくする工夫をいたる所でされている。

 ユニークな点は,各章のはじめに何を学べばよいのか学習目標が記されていることである。また章の終わりには各自が知識の整理・まとめを行うための復習のポイントが書かれている。さらに,基礎的な重要事項はNOTEとして,より幅広い知識を獲得できるように,一歩進んで学習しておくべき点はAdvanced Studiesとして記されている。本文の最後には自己の知識と理解度を確認するための工夫としてセルフアセスメントがあり,著者の面目躍如たるものを感じる。

 本書では,多くのことを学ばなければならない学生が,将来現場で医療に従事する時に必要となる基本的な整形外科学の知識を獲得することが可能になっている。理学療法士,作業療法士をめざす諸君らの教育に携わるわれわれも教材として利用でき,教授しやすくなり大いに参考となる。当然学生にとっては講義はもちろんのこと,自己実習においても座右に置くことで参考となり,有用なものになると思われる。

 このように現在出版されている教科書の中で,医療従事者の道を目標として勉学する学生にとって,必要な整形外科的知識と学習のポイントが示されていて使いやすい数少ない教科書となっている。構成も細かい点に眼が行き届いており,教える側,教えられる側の両面からみても有意義な教科書と言え,大いに推薦に値するものである。

 本書は医療従事者を志す学生のための専門基礎分野の整形外科学の模範的な教材である。

B5・頁196 定価3,360円(税5%込)医学書院


医療者のための
インフルエンザの知識

泉 孝英,長井 苑子 編集

《評 者》楠 真(巨摩共立病院)

わが国のインフルエンザ対策の レベルアップにつながる一冊

 最近数年の間に,本書の序にも書かれているように「インフルエンザを取り巻く環境の大きな変化」があった。国民の間でこの病気に対する関心が急速に高まり,保健・医療側の対応にも以前とは違う内容が求められるようになった。高齢者に対する公的な補助制度の創設もあってワクチン接種が広く行われるようになり,一時はワクチン不足を生じる事態ともなった。また抗原迅速検査キットの導入により一般臨床の場での診断が容易になった。一方で,新しい作用機序を持った抗インフルエンザ薬の登場により,治療の面でも進展が見られている。

 こうした急激な変化に接している医療従事者の大部分が十分に正確な知識を持っているかといえば,残念ながら“yes”とは言い難いのではないだろうか? 私も含めて周囲の医師,看護師などの実状をかえりみると,まだ理解の不十分さや,誤解が見受けられると感じている。そうした現状を改革するための強力な武器が登場した。それが本書である。

 何よりも“使いやすさ”が本書の一番の特長である。Q&A方式を採用したことで,非常に使いやすい本になっているのである。あえて“読む”ではなく“使う”という言葉を使ったのは,言ってみれば辞書を引くように自分の知りたいこと,疑問に思っていることを調べるというスタイルでインフルエンザについての知識を吸収できるためである。普通の教科書形式の成書を頭から順に読んでいくのは実際面倒なものだが,そういうことを感じさせない,使いやすさが本書の最大の魅力である。

 そして各項目の内容を見れば,科学的な根拠に基づいたきわめて信頼度の高い記載がされており,かなり丁寧に書かれている。インフルエンザの定義・概念に始まり,ウイルスの基礎知識,そして臨床的な事柄へと進み,予防法や種々の合併症を有する患者への対応まで丁寧に書かれている。最近問題となっている鳥インフルエンザについても,もちろん取り上げられている。詳しく説明するために字数もある程度費やしている。そのため医師以外のコメディカルの方々には一見やや取っ付きにくく感じられるかもしれない。しかし実際に読んでみれば平易な言葉で書かれていること,丁寧語(ですます調)で統一されていることもあって読みやすくわかりやすい。また,ところどころに掲載されたコラムがなかなかおもしろい。なかには直接インフルエンザと関係ない項目にも興味深い内容があって,「へえ」と感心させられた。医療の現場で働く方々だけでなく,福祉・介護の領域や教育関係者の方々にもぜひ読んでほしい一冊でもある。

 本書がより多くの人々に読まれることが,日本のインフルエンザ対策のレベルアップにつながることは間違いないといえるだろう。

B5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院


今日の疫学
第2版

青山 英康 監修 川上 憲人,甲田 茂樹 編集

《評 者》坪野 吉孝(東北大大学院法学研究科)

進化する疫学の今の姿が よくわかる本

 本書は1996年に出版された同書の初版を,23名の執筆者を迎えて大幅に改訂したものである。427ページからなる本文の約半分を占める「総論」では,疫学の概要から,因果論,研究デザイン,測定とバイアス,研究の実施,データ解析,倫理にいたる事項が取り上げられている。残りの半分を占める「各論」では,スクリーニング,感染症,がん,循環器,環境,産業疫学,社会疫学,精神保健,健康政策,さらに臨床疫学や臨床判断学にいたる多彩な分野が解説されている。

 私自身は,特に各論が面白かった。とりわけ,「循環器疾患の疫学」と「精神保健疫学」の部分は,世界と日本の研究状況が手際良く整理され,これまでの到達点と課題がみごとにまとめられている。「感染症の疫学」は,具体的なアウトブレイクの事例を用いた臨場感あふれる解説が興味深かった。「社会疫学」と「健康政策への応用」は,新しい分野として世界的に発展する姿がよく理解できた。

 本書の編者は,今回の第2版の編集にあたり,各論を再構成し拡充することを通して疫学の新しい動向をとらえ,「疫学の楽しさ」を前面に出すように心がけたと,序文で述べている。1人の読者として本書を通読して,編者のこのねらいは十分実現されていると感じた。

 その一方,「読者」ではなく「教師」としては,気になる点もあった。例えば,基本的な概念の位置づけや説明が,執筆者の間で不揃いな場合がある。本書を教科書にして1章から順に講義していくと,「交絡(攪乱)は,バイアスの一種ですか,それともバイアスとは別の概念ですか?」「外的妥当性と外部妥当性と外部有効性の意味は同じですか?」といった質問が,学生から出てくるかもしれない。

 また,有意差検定や信頼区間による推定に関して,計算の手順についての説明はくわしいが,信頼区間自体の意味と解釈や,有意差検定の限界と問題点については,まとまった解説がない。総論の一部には,やや古びた記述や,言葉足らずの説明も散見される。本書を教科書として利用する際には,こうした点に留意して,理解を補うことも必要だろう。

 私は今,法学部と医学部の学生や,現場の栄養士に疫学を教えている。その経験から,疫学の教育に対するニーズが,いろいろな分野で高まっているのを肌で感じている。「今日の疫学」というタイトルが示すとおり,本書からは,分化・発展する現代の疫学のダイナミズムがよく伝わってくる。本書を通して,たくさんの人が「疫学の楽しさ」に目を開かれることを期待したい。

A5・頁472 定価3,990円(税5%込)医学書院


WM臨床研修サバイバルガイド 外科

田辺政裕 監訳

《評 者》竜 崇正(千葉県がんセンター・センター長)

本当に必要な知識を網羅したすべての外科医師に役立つ本

 本書は,圧倒される速さで増加する新しい医学知識や情報の中から,多くの医師が本当に必要なものを,必要な場面で手に入れることができるように企画された。したがって,医師のサバイバルのためのガイドブックとして,このようなタイトルになったと思われる。内容はワシントン大学の全科の幅広い分野から,現役のインターンやレジデントが自分の経験を教官の助言を得て執筆したものである。

 監訳の千葉大学医学部田辺教授も,序文で「外科研修を単なる義務とするのではなく,その意義を自覚して,将来の糧としてほしい」と,本書活用の意義を述べている。

 その内容であるが,基本としてサバイバルのための心得が1ページに記載されている。1.決して嘘をつかない。わからないことを認めることで,答えがわかることがある,2.1日のすべきこと(to do)のリストをつくり,確認していく,3.時間がある時いつでも読める書物をポケットに,4.自信がなければ助けを呼べ,5.帰宅したら楽しいことをやれ,6.家族のために時間をつくる,7.病院のロッカーには着替えと洗面を,8.外科領域以外の人と仲よく,9.看護師は頼りになる情報源。敬意をはらい,多くを学べ,10.これからの外科医人生には多くの可能性がある,などである。本書のエッセンスが,すべてここに心得として込められており,まったく同感である。

 本文は,基本9項目と専門項目に分かれ,それぞれに,その要点,救急,問題点とその対応,よくある呼び出しなどの細項目で,要領よく説明されている。編集者が意図したように,臨床の場面に遭遇した時にそのページを開けば,適切な処置ができるよう配慮されており,臨床研修を行っている外科医師だけでなく,すべての外科医師にとっても,非常に役に立つ内容となっている。

 私が特に注目したのは,1日の業務を計画する,という項目の中の「朝の回診の前に予備回診をして患者の状態を把握し必要な検査をチェックしておくこと」。特に家族との関係をも重視し,「患者家族と毎日話し合うこと,臨床研修医は主治医と家族とのかけはしである」などの点である。また「激務の病院勤務が終わったらなるべく早く病院を離れ,楽しいことをすること」と気分転換の重要性も強調している点にも注目したい。

 本書を読んでいるうちに,外科医としての心が徹底的にインプットされていくのを感じ,ただの「how to」を重視したマニュアル本ではない魅力に引き込まれた。外科医師は終生にわたって研鑚を積んでいくのは当然であるが,患者から信頼される,魅力溢れる人間に成長しなくてはならないと私は考えてきた。まさにその考えに合致する本であり,ぜひ多くの外科医師に推奨したい。