医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


医療倫理学の方法
原則・手順・ナラティヴ

宮坂 道夫 著

《評 者》白浜 雅司(三瀬村国民健康保険診療所長)

今日の医療倫理を網羅した 画期的なテキスト

 宮坂道夫先生が書かれた『医療倫理学の方法 原則・手順・ナラティヴ』が出版された。日本の医療倫理学の本は,個々の問題についてどのように考え対応するのかという方法論について書かれたものが少なく,画期的なテキストの誕生である。

 最初に,医療倫理の考えが出てきた歴史的背景が概説されているのがいい。歴史の反省の中から,今日の医療倫理の考え方は生まれている。そのことを,多くの写真や資料をもとに退屈させないようにまとめられている。医療の負の部分が強調されている気がしないでもないが,人体実験,ハンセン病,エイズなど,日本の医療従事者になる者が知るべき問題は網羅されており,医療倫理を学ぶ心備えになっている。

 次に,この本の根幹である「原則論」「手順論」「物語論」という3つの視点から,問題を検討する方法論が提示される。最初に手順論によって問題点を網羅・整理し,次に原則論と物語論の視点から倫理的問題の焦点について掘り下げて検討する,という構成である。初めての学習者にも医療倫理の諸問題を検討する筋道がわかるように,難しい言葉の解説や,ガイドライン,法律などの資料も豊富である。

 ただ私は,問題を考えるための原則が,ていねいに提示されすぎているため,学習者がそれらの原則の知識があれば,倫理的な問題が解決できるように錯覚してしまうのではないかという懸念を抱いた。また,原則論を補うための物語論も,一般的に関係者の思いを類推するまでで,その個々の事例の背景をくみとるまでにはいたっていない気がした。しかし,それは臨床家と倫理専門家の立場の違いかもしれない。臨床家は,患者・家族の表情を実際に見ながら,彼らの思いを聞く(すべての本音は聞けないにしても)手段を持っているからである。

 後半は,死と喪失,性と生殖,患者の権利と公共の福祉,医学研究と医療資源という大項目のもとに,告知,尊厳死などの大切なケースが提示されていて,今日の医療倫理の問題が大体わかるようになっている。

 限られた時間と人的資源のなかで,医療倫理教育にかかわる者の1人として,このようなしっかりしたテキストが出たことを喜びたい。この本を読んだうえで,学習者が実際に直面して対応に困ったような事例を,倫理専門家と臨床家が協力して検討し,学習者が広い視野で考えたうえで,自分なりの対応を見出したときに,宮坂先生がこの本を書かれた目的が達成されるような気がする。

B5・頁276 定価2,940円(税5%込)医学書院


画像診断ポケットガイドシリーズ
頭頸部Top100診断

H. Ric Harnsberger 編著
尾尻博也 訳

《評 者》黒崎 喜久(順大教授・放射線医学)

subspecialtyを扱った 初めてのアウトライン教科書

 画像診断を学ぶための教科書が数多く刊行されている。それらを分類すると,百科事典に近いような数巻からなるもの,通読しやすい一巻もの,ケースレビュー本などがある。今回尾尻博也先生が翻訳された『頭頸部Top100診断』はアウトライン教科書と呼べる範疇に属する。放射線診断の領域では,Weissleder Rらによる『Primer of Diagnostic Imaging(第3版)』,Dahnert Wによる『Radiology Review Manual(第5版)』が好評を得ている。

 これらのアウトライン教科書と異なり,かつ本書の長所となっている点は以下の通りである。

 画像診断全体ではなく,subspecialtyを取り扱った初めてのアウトライン教科書である。ちなみに『脳Top100診断』『腹部Top100診断』も同時に刊行された。日常診療でよく出会う疾患が基本事項,画像所見,鑑別診断,病理,臨床の順序で解説されている。画像所見が病理や臨床より先に解説されているが,慣れてくると違和感はなくなりむしろ便利に感じる。どの疾患にも必ず画像が上段に示されている。

 さらに,すべての疾患ではないが,きれいな肉眼像を模したカラーイラストも載っている。いつもながら,米国のmedical illustrationの質の高さには感服する。日本の実情に合わせた一部の用語に関する訳注はありがたい工夫である。

 敢えて本書の短所をあげるとすると,いくつかの疾患が割愛されている。例えば,舌根甲状腺,顎関節疾患,上皮小体疾患,側頭骨骨折,耳小骨奇形などである。タイトルからわかるように,代表的な100疾患を厳選せざるを得なかったという事情は十分に理解できる。追加してほしい疾患は,読者が本書の形式にならって作成して補足してはいかがか。インターネットで学術論文に容易にアクセスできる時代ではあるが,質の高い論文を熟読してその要旨をアウトラインにまとめておくことは後日役立つ。その際本書のスタイルが参考になるはずである。

 専門医試験の受験を予定している放射線科医のみならず,第一線で活躍している放射線科医,耳鼻咽喉科医,そして放射線科や耳鼻咽喉科を選択研修している臨床研修医にも薦めたい一冊である。