医学界新聞

 

視点

卒業生が教えるPBL
東海大学の試み

中澤博江(東海大学教授)


 東海大学では,低学年から症例を用いたPBLチュートリアル教育を取り入れるため,1997年からJohns Hopkins大学などの視察を始めた。その視察でチューターの役割を学ぶとともに,彼らの多くが専属の大学教員でなく開業医であることを知った。

 1999年に2年生の生理学授業の一部として解剖,生理,薬理の基礎教員がチューターとなって開始したが,学生側からの要望もあり,2001年度から学外の臨床医にチューターをお願いすることを考えた。

 授業時間を休診日が多い木曜日の午後の3時間とし,参加をお願いする手紙を卒業生に送付したところ「学生に接するのは新鮮な経験」「教えることは自らも学ぶこと」「PBLに興味がある」など,多くの方から好意的な返事を得た。授業形態が未知で不安を示す方もいたので,われわれが学生となってPBL授業のシミュレーションを行い,進め方を経験してもらうことから始めた。

 授業は1症例に2週間をかけ,4症例を学ぶ形態とした。1週目は提示された症例からその問題点を抜き出し,学生同士が議論しながら仮説を立て,知らない用語や調べるべき項目を抜き出す。その間チューターは議論が逸脱した時にのみ方向修正をする程度で,それ以外は学生に任せるのが基本である。終了後,学生はそれぞれが選んだ学習項目を文献検索や教科書で自学し,次の週までにその症例に関連づけたまとめを,自分のグループのホームページの掲示板に記入する。チューターは,それに対して遂次コメントを入れる。掲示板はグループ内では自由に読め,書き込めるため,次週までに全員の知識が深まっていく。

 2週目は新たに得た知識を加えて1週目で立てた仮説を再検討し,確定診断を知り,それに至る過程,その後の処置と経過を学ぶ。

 症例は大学内の専門医が実際の症例を用いて低学年用に作成,生理学の教員が加わった数回の練り直し作業を経て完成させ,授業の前の週にチューターに対して症例を説明し,検査所見の意義,CT,MRI,エコーなどの解説をする。また学生にどのタイミングでどの検査データを出すかというような実際に即した検討を行う。

 現在のチューターは卒後15-24年の先生方で,耳鼻咽喉科,内科,外科,形成外科,産婦人科,精神科と専門は多岐にわたり,全員がボランティアでの参加である。PBLに参加している理由は「母校に何かしら貢献したい」「厳選されたいろいろな症例を通じて,専門馬鹿に陥らぬよう学生とともに学べる」などで,「この4年間にPBLで遭遇した症例が実際の診療に役立った」というコメントももらった。

 もちろん学生のアンケートでは先生方の評判はきわめて高く,特に「現実の医療という視点からのアドバイスが学習意欲と問題解決能力の向上に役立つ」と感謝していた。症例作成についても実地医家ならではの経験に基づいた貴重な助言がありがたく,多忙な診療や研究日をさいて参加してくださる卒業生から,われわれ教員は新たな勇気を得ている。

 学ぶべき知識が年々増加し,さらに医療面接法,OSCE,共用試験など医学教育の負荷と責任が増している。大学外の人材の協力がこの責務を乗り切る一法と考え,東海大学の試みを紹介した。


略歴/東海大学医学部基礎医学系教授。内科専門医,循環器専門医。専門は心筋虚血,活性酸素,一酸化窒素。著書に『シリーズ看護の基礎科学(病態生理学)』(日本看護協会出版会),『ベーシックマスターQ-生理学』(医学教育出版)。