医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


《シリーズ ケアをひらく》
ALS 不動の身体と息する機械

立岩 真也 著

《評 者》大久保 功子(信州大教授・看護学)

当たり前とされてきた「死」から よく生きるための「社会」へ

 解釈学的手法を用いた本であると同時に,医療倫理に社会学から待ったをかけた本。

 「価値に中立であることなんてできないでしょう(そうですよね……)」「医療ではできないって白状したら良いでしょう。何も抱え込まなくたって(そうですよね……)」「いいんですか。家族と本人の利害が対立しているのに,家族が決めちゃって(そうですよね……)」。誰もが(医療倫理でも)口を噤み,見てみぬふりをしてきたことが,ALSといきる(た)人たちの膨大な声なき声を紡ぐことで容赦なく暴かれていく。

 ALSは意識は清明なまま次第に動けなくなるが,呼吸器をつけさえすれば10年ぐらいは生きられるし,もっと生きられるかもしれない病気である。生きている人が呼吸器をつけないと息が苦しいのだから,「しない」ことは自然な死などではなく,すでに呼吸器をつけている人の呼吸器を外すことと変わりはない。それなのになぜか70%くらいの人が呼吸器をつけないこと(つまり死)を選ぶ。消極的な安楽死とも言えるような「呼吸器をつけないことがなぜ認められるのか?」。認められてきたのか。それも男よりも女のほうが多く……。

 いまのところ「なおらないから」が1つの答えだ。呼吸器を外すことよりも,呼吸器をつけないほうが「しなくて済む」から。自分が生きたいと思うことと周囲が生きるために負う負担を天秤にかけるから。本人の自己決定だから……。なおすこと/なおらないこと,外すこと/つけないこと,知らせること/知らせないことなど,著者は対置された言葉で読者を両極に揺さぶりながら,当たり前とされてきた「よくない生活」に対するこれらの答えに何が入り込んでいるのかを炙り出していく。

 医療はなおらないことを否定し,なおすことに価値をおき,「補う」ことは二の次におき,動けないまま生きていくことは周囲の人に迷惑をかけるし,本人のQOLも低下してくると,人はいう。知らされるべきことが知らされるべき人に知らされないことがある。そういった生存を困難にしている条件と,生存を否定する価値が,社会の中にある。そういう社会の価値を内面化してしまっている私たちのまわりにある自己決定や告知,「自然な死」ということも疑いたくなってくる。

 利得権益を守ろうとする医療と利害が対立しようと,不治の病であろうと,死を選択せずによく生きることはできるし,誰がどこまで責任をもち,負担するのかさえはっきりすれば,よく生きることを支えられるはず。「自分の存在を否定することに,現実に生きることの困難(をもたらしているこの社会の仕組み)と動かない自分が生きること(の価値がないというこの社会)の価値が大きくかかわっているなら,それよりも強い肯定が必要となる。より積極的に,ともかく生きることを支持するといい,勧めることである。そして,同じく,生きるのが実際に可能な状態を作ることである」と著者はいう。

 結論は,意外に明るい。それでも,看護は少なくとも「補う」寄りだと思っていたのに,「治すこと」寄りにずいぶん偏っているんではないかと,なんだか淋しい思いがするのは私だけだろうか。

(『助産雑誌』Vol. 59, No. 4より)

A5・頁456 定価2,940円(税5%込)医学書院


医療者のための
インフルエンザの知識

泉 孝英,長井 苑子 編

《評 者》横田 正子(京大病院・看護師)

インフルエンザに対する 疑問解消の1冊

 この本との出会いのきっかけは,鳥インフルエンザの流行からでした。現在私は,呼吸器科を含む外来での勤務をしており,その縁からある日,本書の編者である長井苑子助教授に鳥インフルエンザについて尋ねたことが始まりでした。助教授は,今思えば恥ずかしくなるような質問に丁寧に答えてくださいました。

 その後,外来において,B型インフルエンザ感染患者が増加,日に1人は迅速判定キットで陽性を見るようになり,それらの患者が「どうして予防接種を受けたのにインフルエンザにかかるのか」「A型とB型はどう違うのか」など,質問される機会が増え,明快な回答ができない自分に知識不足を痛感しました。この時期に,長井助教授より,この本を手渡されたのです。

 読み進めていくうちに,この本の特徴とも言うべきQ&A方式に引き込まれていきました。質問に対し,専門的に書かれているにもかかわらず解りやすく,事細かに説明されて迅速,的確に自分の知りたい事柄を知ることができました。さらに目次より自分が知りたい質問を探し熟読するところから,新しい疑問が出現し,また目次から探すという読み方もでき,夢中になって読み続けることのできる本でした。また,基礎知識から臨床に至るまでの専門的な知識まで順序良く進められており,患者別注意点の項目においては,臨床においてすぐ使える知識を得ることができました。コラムでは,本文とは違った観点からの知識が盛りだくさんで,この本の素晴らしさを感じさせる要因だと思います。

 唯ひとつ,私には読みづらく感じたのは,質問ごとの解説者が違うせいか,同じような解説文が繰り返されている箇所と,別の質問参照で表記されている箇所があったことで,私としては,参照で表記されているほうが理解しやすかったと思います。

 私のインフルエンザに対する疑問は解決され,専門職としての知識を得ることができました。また,専門職に従事している者だけでなく質問内容をピックアップするだけで子どもや高齢者を持つ家族にぜひとも読んでほしい一冊となると思います。

B5・頁176 定価2,940円(税5%込)医学書院