医学界新聞

 

看護師が知っておきたい薬の知識

北里大病院新人看護師研修・荒井有美氏講義より


 もっと受けたかった教育は「薬の知識」・65.3%――今年2月に日本看護協会が発表した04年度新卒採用看護師約1000人へのアンケート結果は,薬への知識不足に不安を覚える1年目看護師の実態を明らかにした。北里大学医学部附属病院では毎年4月,新任の看護師への充実した教育プログラムを提供しているという。薬剤師から看護師への転身という経歴を持つ,同院看護師・荒井有美氏が4月8日に行った講義のもようを取材した。


事故の約3割が注射・点滴

 荒井氏ははじめに,川村治子氏(杏林大)が行った厚生科学研究「医療のリスクマネジメントシステムに関する研究」の結果から,看護師が関係したインシデント事例のうち,実に31.4%が注射・点滴に関わるものであったというデータを紹介。直接体内に薬物が入る注射・点滴は患者の身体に影響が出るまでの時間が短く,大きな障害や死亡につながる可能性が高いことを強調。薬剤への認識と,知識を高める必要性があると述べた。

 しかし,医療用薬剤は2005年現在で実に1万7000点以上にも及んでおり,そのすべてを把握することは,経験を積んだ医師・看護師でも容易なことではない。荒井氏は「誤ると生命に関わる危険な薬剤について,投与量,投与速度,投与方法などのポイントを押さえて学ぶことを心がけてください」と,新人看護師に必要な薬剤知識学習の方向性を示した。

口頭指示は事故のもと

 続いて荒井氏は注射・点滴業務のプロセスごとに薬剤事故防止のポイントを解説。点滴・注射業務には,(1)医師の指示,(2)指示受け,(3)準備,(4)実施の4つの段階があるが,このすべての段階で,注意すべきポイントがあるという。

 まず指示受け場面では「口頭指示」の危険性を指摘。「ミリグラム」と「ミリリットル」,「半筒」と「3筒」など,口頭では言い間違い,聞き間違いの危険性が非常に大きいと述べ,やむをえず口頭指示のみで準備に入らざるを得ない場合も,必ず復唱し,周囲のスタッフとダブルチェックをかけ,事後でも必ずオーダー入力をしてもらう,といった対処法を紹介した。

現場で求められる薬剤知識とは

 指示受けから準備の段階では,看護師自身の薬に関する知識が事故防止に貢献する。荒井氏は個々の薬剤を覚えるというよりも,「目的にあった投与指示か」「薬剤の種類と単位の対応関係」「複数の単位が用いられる(=投与量を間違えやすい)薬剤」などといった,事故防止に役立つ薬剤知識を学ぶ必要性を強調。1つひとつ事例を引きながら丁寧に解説した。

 続いて,実際に投与する段階になると,指示通りの薬剤を,正しい方法で投与できるか否かが,事故防止のポイントとなる。荒井氏はここでも同様に,薬剤の種類とそれに対応する投与方法が存在することや,間違えやすい薬剤名などのポイントを押さえることで,効果的な事故防止につながると解説した。特に,複数の商品名を持つ薬剤や,「アスパラK」「アスパラKC」のような,接尾語の種類によってまったく異なる薬剤が存在することも,注意すべきポイントとして具体的に示された。荒井氏は「薬品名,剤型,規格単位が薬品名の3要素,この3要素の対応関係を知っておくことで,ヒヤリ・ハットが生じた際に,『何か変だ』という気づきにつながる」と述べた。

 一方,重大事故防止という観点からは,誤投与された際に重篤な結果をもたらす薬剤を押さえておくことも重要だ。荒井氏は「白地に赤枠,赤文字→劇薬」「黒地に白文字,白枠→毒薬」など,ラベルの見分け方を中心に,危険な薬剤の取り扱いについて注意をうながした。

企業も含めたコラボレーションで事故防止をめざす

 最後に荒井氏は,これらの薬剤にまつわる事故防止すべてに通じる考え方として,「医師や看護師,薬剤師などの現場はもちろんのこと,薬を作る製薬企業も含めて,経験を蓄積していくのが事故防止の大切な考え方。そのためにも,ヒヤリ・ハット報告をはじめとする現場からの声をあげていくことが一番大切なことです」と述べ,講義をまとめた。