医学界新聞

 

学生セッションに多数の演題集まる

――第110回日本解剖学会の話題より


解剖学会初の学生セッション

 さる3月29-31日,第110回日本解剖学会が大谷修会頭(富山医薬大教授・解剖学)のもと,富山医薬大にて開催された。今学会では初の試みとして学生セッションが設けられた。

 これは会頭の大谷氏自らの「次世代の学会を担う今の学生たちに,自分の研究を学会で発表するというサイエンティフィックな楽しさを早いうちから体験してもらいたい」との発案によるもので,オーラルセッションに17題,パネルディスカッションに34題,あわせて51題もの演題が集まった。

 演題の内容は,「右前腕屈側にみられた2か所の破格筋束」や「個人識別の決め手となった第8頚椎に伴う左頚助」といったものから,「ジャイアントパンダ(Ailuropoda memanoleuca, Carnivora, Mammalia)臼歯の組織構造について」「マウス筋紡錘にみられるGAD陽性細胞について」,さらには「映像メディアを通して解剖生理学を学ぶ-消化の仕組みに関するコンテンツの作成-」など多岐にわたった。

 オーラルセッションの会場はほぼ満員。演者はパワーポイントを使って発表し,質疑にも落ち着いた様子で答えていた。なかでも植村健司さん(富山医薬大3年[発表当時])は“Quantitative analysis of arterial branches of the left ventricular free wall”(左心室自由壁における動脈枝の量的解析)という演題で,抄録を英語で執筆。発表でも堂々とした発音で注目を浴びた。以下に植村さんの感想を紹介する。

学生時代に知る研究の醍醐味

 「今回の発表のために,通常のカリキュラムの間をぬって多くの時間とエネルギーを費やしたが,それだけに得たものも多かったように思う。そしてその中から特に一つだけあげるとすれば,それは何かを創り出すことの難しさと喜びとを知ることができたことであろう。今まで私が受けてきた教育はよく言われるように,『答え』があることが前提の教育であった。それだけに今回の研究で一番苦労したのは,目の前の膨大なデータがいったい何を意味しているのか,その『答え』を見出す作業であった。もしかしたらこれらのデータには何の『答え』も隠されていないかもしれない。常に暗闇の中をさまよっているような不安にさいなまれた。そして,長い暗闇の果てにある『答え』が見出された時,何とも言えない,今まで感じたこともないような喜びに包まれた。このように学生のうちに研究の醍醐味を知ることができたことは大変意味があることだと思うし,今後ともこの企画が続いていくことを期待したい」

 学生セッションに参加した松村譲兒氏(杏林大教授)の話では,「研究方法や発表・質疑応答のシミュレーションなど準備の過程で,学生がふだんの実習や講義では予想できないほど成長し,周りの学生にもよい刺激になった」とのこと。

 学会では,さらに優秀課題5題を表彰した。今後,学会誌への論文掲載などを行うことにしており,このような試みをさらに推し進めていく計画である。