医学界新聞

 

消化器病学の新しい可能性

第91回日本消化器病学会開催


 さる4月14-16日にわたり,第91回日本消化器病学会が,荒川泰行会長(日大教授)のもと,東京都千代田区の東京国際フォーラムにおいて開催された。

 「消化器病学の共創未来-新しい可能性の扉を拓く」をテーマとする今回は,各領域における最新の知見が発表され,盛況なものとなった。


■進化するインターフェロン治療

 会長講演「肝癌を視野に入れたC型慢性肝炎のハイリスク病態とそのブレイクスルー」の冒頭で,荒川会長は「慢性肝炎の早期にウイルス駆除を図ることが最も効果的な生命予後の改善法であり,ウイルス駆除が難しい症例ではALT値の低下を次善の策とする」と治療の方向性を位置付けた。

 また,肝細胞の不規則再生の程度が強い症例では肝細胞癌発生の危険度が高いことから,IR(Irregular Regeneration)スコアを肝細胞癌発生の指標とし,インターフェロン(以下,IFN)治療によってIRスコアが改善されることを示した。このことから荒川会長は「肝内線維化のさほど進展していない症例でも,IRスコアが中程度以上であれば積極的にIFN治療を行うべきである」と強調した。

副作用による減量・中止が問題

 C型慢性肝炎の治療戦略としてIFNとリバビリンの併用療法に加え,週1回の皮下注射で効果があるペグIFNが登場,治療成績の向上が期待されている。シンポジウム「PEG-IFNとRibavirinによるC型慢性肝炎治療の展開と難治要因の検討」(司会=東大・小俣政男氏,日大・森山光彦氏)では各施設での取り組みが紹介された。

 最初に登壇した司会の森山氏はC型慢性肝炎402例に対してIFNα-2bとリバビリンの併用療法を実施。その結果,中止・減量例ではSVR(Sustained Virological Response:持続性ウイルス学的著効)率が明らかに低下したことから,減量・中止を避けるためにも個々の症例に合ったIFN,リバビリンの投与量をあらかじめ設定することが重要であると指摘した。

 リバビリン併用療法において副作用による減量・中止が多いことは,黒崎雅之氏(武蔵野赤十字病院)も指摘。一方で,難治性のgenotype1b症例でも効果が期待できることから,氏の施設ではまずペグIFNα-2a単独療法での早期抗ウイルス効果を判定,治療効果に限界が見られた場合などにリバビリン併用療法へ変更しているという。

 片野義明氏(名大)はペグIFNα-2aとペグIFNα-2bをリバビリンと併用した場合の,血液検査値を比較。血小板数においてペグIFNα-2a群で有意な減少が見られたことから,患者の背景要因によっては血液学的変動に差が生じるため,こうした点に留意して薬剤選択を行う必要があるとした。

 芥田憲夫氏(虎の門病院)は,ペグIFNα-2bとリバビリン併用療法における治療効果予測因子について報告。従来のIFN単独療法での治療効果予測因子以外にも,性別・体重あたりのリバビリン投与量がSVR率に寄与する独立因子であることを発表した。

ペグIFNを検証

 久保木真氏(川崎医大)はペグIFNα-2a単独療法における抗ウイルス効果について発表。投与開始後12週でのHCV-RNA陰性化率はgenotype2a/2bで94.9%,genotype1bでも57.8%と高率であったことから,今後リバビリンとの併用療法でより効果が得られるのではないかと期待を述べた。

 一方,ペグIFNの副作用については,進藤道子氏(明石市立市民病院)が血小板や好中球の減少が従来型のIFNに比べ多いのではないかと指摘。特に高齢者では減量や投与間隔を延長せざるをえないことがあり,投与量や投与間隔の変化による抗ウイルス効果への影響を発表した。その結果,一定期間適正に投与できれば,減量あるいは投与間隔を2週に1回にしても,抗ウイルス効果は持続したという。氏は「副作用が出た症例では減量や投与間隔を変えて処方することも有効なのではないか」と述べた。

 最後に登壇した堂野恵三氏(阪大)は,「ウイルス性肝炎に対する生体部分肝移植が保険適応となり移植症例が増加しているものの,移植後のC型肝炎の再発は大きな問題である」と強調。氏の施設では,生体部分肝移植後にペグIFNとリバビリンの併用療法による肝炎再発予防を行っている。

 その結果,C型肝炎の再発頻度を低下させることが可能であったが,SVRにはいたらなかったため,SVRを達成できるプロトコールの開発を今後の課題とした。

■臨床に近づく幹細胞研究

 ワークショップ「消化器領域における幹細胞研究の進歩と今後の動向」(司会=奈良医大・福井博氏,旭川医大後裕氏)では,さまざまな細胞を肝細胞や膵β細胞などに分化させる再生医療への試みが発表された。

骨髄細胞移植の可能性

 寺井崇仁氏(山口大)は,自己骨髄細胞を用いた肝臓の再生医療について口演。氏の施設ではすでにヒトでの臨床研究を行っており,アルブミン値の上昇や血清中の肝線維化マーカーの改善が認められている。

 しかし,1回の骨髄細胞移植では長期的には効果が減弱することがわかっており,今回マウスの持続肝障害モデルにおいて最初の投与から70日後に2回目を移植した結果,1回のみの群に比べ有意に生存性が高かっただけでなく,骨髄細胞の定着も安定していた。

 氏は,「将来的には患者から採取した骨髄細胞を保存しておき,分割して移植することも有効なのではないか」と今後の方向性について述べた。

 浅田全範氏(京大)は炎症性腸疾患に対する骨髄細胞移植について発表。腸炎自然発症モデル動物としてIL-10欠損マウスを用い,正常マウスの骨髄細胞を移植したところ,組織学的炎症スコアの有意な低下,IL-10産生量の増加が認められたという。このことから,薬物治療に抵抗性の患者に対する治療法としての可能性が示唆された。

修復細胞としての幹細胞

 守屋圭氏(奈良医大)はマウス持続肝障害モデルに未分化状態のES細胞を脾臓内に移植した結果,肝門脈周辺において肝細胞様細胞への分化・定着が確認されたと報告。これまでにも骨髄細胞やES細胞は障害組織に遊走し,修復細胞としてその組織へ分化することが知られているが,氏の研究においても非肝障害マウスではES細胞の分化・定着がみられなかった。

 また,柿沼晴氏(東医歯大)はヒト臍帯血由来細胞をマウスの持続肝障害モデルへ移植した結果,マウスの障害肝臓内でヒトアルブミンを産生する肝細胞として定着・機能していたと発表。特に造血幹細胞のマーカーであるCD34陽性細胞が効率よく機能的肝細胞に誘導されることを示した。