医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第7回]「わからないこと」を言葉にする
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 4,5月の間,新人にはプリセプター,もしくはそれ以外のスタッフが担当看護師として指導にあたります。しかし,6月からは独り立ちです。夜勤も1人で,25人の患者様を受け持ちます。新人が独り立ちした時,スタッフが一番心配することは「わからないことがわからない」ことです。独り立ちには疑問を持ち,その疑問を解決しようとする姿勢が求められるのです。


今回の登場人物
大久保千智,川崎久恵(7年目),寺田千幸(2年目)。

5/24 ●川崎
 3回目の夜勤でしたね。お疲れ様でした。これで,この先1人でBチームの患者さんを看ていくことになります。情報はとれているのでOK!!です。では何が足りないか……というと,疑問に思う力だったり,それを疑問として解決する糸口のバリエーションの少なさ……でしょうか。

 自分の意見をはっきり言えることはいいことです。でも,実際には言えないでモジモジしていること,あるでしょう? そこが,ネックです! 「わからない」「自信がない」と言葉にすることは「自分ができない」ということを表面化してしまうようで怖いのでしょうか? でも,それを言葉にしてください。

 自分の意見を言えるのは,ある程度自信があること(確信が持てていること)に関してだと思うのよね。でも,まったく自信のないことや,疑問も関心もないことって,大久保さんの思考にはあがっても言葉に出てきにくいのでは? まして,この時期,自分の不甲斐なさに参っている(と思うし)。

 情けなく思っている時って,モジモジ度が急上昇↑して,悪循環が生じます。まぁ,ある時,あるきっかけでこの悪循環が絶たれて,大久保さんは育っていくんだけどね。

 ・・・と,勝手に,大久保さんがモジモジしているだろうという仮説のまま話をすすめてしまったのですが,いかがでしょうか? 自分に(ピッタリ)あてはまるなぁーって思っても,「川崎さん,わかってる!!」って思わないでね,これって大久保さんを通して自分(つまり,私)を見ての意見なので。あてはまらなかったら,この部分はなかったことにしてください。

5/24 ●大久保
 3回目の準夜後の日勤でした。昨夜は外泊も多く,コールもほとんどなかったので自分のペースで回ることができたし,川崎さん・内田副師長さんのフォローもあり心強かったです。でも次の夜勤から本当に1人でできるのか不安はいっぱいです。

 川崎さんが書いてくれたように,“疑問に思う力”にやはり欠けていると思います。4月末に,末松さんと反省会をした時にも同じことでアドバイスをいただきました。自分ではなかなか気付きにくいところでもあり,すぐに解決できることではないので,まだ克服するのに時間がかかりそうですが,自分で心がけていきたいと思います。

 まず,先輩の手技を見学させていただく時,自分も実施しているような気持ちで臨むことを忘れずにいたいです。夜勤明けでボーッとしている時もありますが,“積極的に見学する”ということを心がけたいと思います。言葉にするととても単純なことだけれど,自分に特に欠けていること,と意識して克服していきたいです。

 いつもBチーム・Aチームの先輩から声をかけてもらったり,このノートに記入していただけて本当に嬉しいです。先日,出身の看護学校へ行く機会があったので先生方に先輩のこと・ノートのこと,自慢してきました。これからもよろしくお願いします。

6/2 ●寺田
 6月に入りましたね。本当におつかれ様です。私も夜勤が始まってからは,時間の流れがはやくなったなぁと去年感じていました。今までもつらいことたくさんあったと思います。私もたくさんありました。つらいことがたくさんあるけど,たまにあるいいことがうれしくて,その時に励まされて,ここまできました。

 「疑問を持つこと」ですが,患者様のことで「あれ?」と気づくことはとても大切なことだと思います。でも,去年私もカンファレンスなどで「わからないことはない? と聞かれても何がわからないかわからないというか,イメージがつかなくて質問できなかったことを覚えています。

 最近になってようやく,「あれはどういうことなんだろう」と思えるようになってきました。実際に経験したり,イメージができて初めてでてくる疑問はたくさんあると思うので,これから少しずつがんばっていきましょうね。

川崎 これは準夜勤を終えて,大久保さんが記録を書いている間に書き込んだものです。今後独り立ちなので,送り出しの言葉を書きたかったのだと思います。

 看護師は自分の気づきや感情とも向かい合う仕事だから,忙しさに誤魔化されずに,それに「気づく力」を鍛えていくことが必要です。1年生は“中途半端な質問は怒られるのではないか”と思いながら仕事をしていると思っています。でも気づいた自分を大切にしてほしいので,それをメッセージにしました。

大久保 夜勤のトレーニング期間も終了し,就職して2か月が過ぎようとしていました。とは言っても,まだまだ初めてのことも多く,変わらず慣れない日々が続いていました。目の前で起こっていることを追いかけるだけで精一杯。「わからない」と口にすることは自分の負担が増えるようで大きな勇気がいりました。しかしこの日の川崎さんのメッセージでふと我に返ったのを思い出します。生命と隣り合わせの現場で現実から目をそらさない勇気と責任を教えていただきました。

寺田 疑問点を解決しながら,考えて行動することができなければ今後大きなミスにつながっていきます。わからないことを言葉にすると言うことはとても大切なことです。つきっきりの4月から,5月,6月となると1人で行う処置が増えてきているところですが,考えて行動するというよりは無我夢中で行っているため,他のこととの関連性が見えてこないのでイメージがつかないことが多いと思います。5/24の大久保さんのコメントで「疑問を持つ力が足りない」と言っていたので疑問を持つということを意識しながらも,経験を重ねつつ少しずつ伸ばしていってほしいという気持ちをこめて書きました。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。

関連書籍紹介
『はじめてのプリセプター 新人とともに学ぶ12か月』(川島みどり,陣田泰子編集)
 本連載に登場するプリセプター,末松あずささんの新人時代のがんばれノートを収録。がんセンター東病院の新人教育が学べる,プリセプター,プリセプティ,看護管理者必携の一冊。