英語で発信! 臨床症例提示 -今こそ世界の潮流に乗ろう-
Oral Case Presentation
[第12回] No pain, no gain!
齋藤中哉(ハワイ大学医学部医学教育部客員教諭)4月に最終回
4月,新しい教育年度の始まりです。本紙を新しく手にする読者も多いと存じます。本欄では,「英語による口頭症例提示」を題材とし,「医師として,世界に向けて情報を発信できる」ことを目標にして,2004年1月から連載を続けてきました。今回が最終回です。学びの環
4月に最終回とは幸運な巡り合わせです。連載の全容を最初から把握できるからです。Begin with the end in mind! 初めに目標ありき。明確な目標がなければ,どこにも到達することができません。今回の記事は全体の要約なので,最良の出発点でもあります。読み終えたら,直ちに第1回にお進みください。英語による症例提示に限らず,プレゼンテーションは,世界に飛翔していこうとする医師にとって必須の技術です。End with the beginning! 終わりは新たな始まり。学びの環には,始まりもなく,終わりもありません。本稿では,随所に過去記事への参照を挿入しました。全12回の内容を「批判的に吟味」していただければ幸いです。では,始めましょう。
■Contents Index
Contentsのまとめ
(1)内容と順序Contents Indexを左から右にご一読ください。この12項目はbasic sequenceと呼ばれ,口頭症例提示の最も標準的な構成内容です。今一度,しっかり覚えてください。第1回において,各項目の意義を俯瞰しました。第2回から9回まで,各項目について解説を行いました。入院診療(一般病棟)の場で,時間をかけて症例を検討する場合に,最も好まれる形式で,Traditional(またはconventional)formatとも呼ばれます。
(2)変法
施設や診療科が異なれば,症例提示のスタイルも異なります。所属施設の習慣を絶対視することなく,出会ったスタイルを柔軟に習得していきましょう。代表的な変法として,AO formatとICU formatがあります。救急診療や外来診療の場で威力を発揮するAO(assessment-oriented)formatは,最初に診断と治療方針を述べ,その後,必要事項を補足していく方法です(第10回)。ICU formatは,重症患者について検討する際に有用で,臓器系統別に(by system)所見を述べていく点が特長です(第11回)。
日本人のための特記事項
日本の医学生,研修医を指導していて痛感することは,症例提示の基本12項目が「身について」いないということです。「えーと,えーと」と考えながらであれば,順番を思い出すことができるのですが,「反射的に出てくる」水準までは,鍛錬されていません。原因は2つです。第一に,口頭症例提示の経験数が絶対的に少ないのみならず,患者の問診と身体診察の経験数が不足しています。症例提示の流れは,実は,診療の手順そのものでもあるので,診療に主体的に従事していれば,症例提示の構成内容にも迷いはないはずです。第二に,指導医自身が,診療においても,症例検討においても,一定のformatに従うことの威力と能率改善に無自覚なため,後輩に対して有効なお手本を示すことができていません。
今一度,症例提示の12項目をreviewし,下記のtext boxでその具体例を確認してみましょう。臨床医にとって,症例提示の基本形は,空気のように自明でなければなりません。
Text BoxTraditional FormatによるPresentationの一例[Based on the PBC (HCP5/Unit1.15), UH MD Program.][ID/CC] [History of Present Illness] [Past Medical History] [Family History] [Social History] [Review of Systems] [Physical Examination] [Laboratory Test Results] [Summary] [Problem List] [Assessment & Plan] [Conclusion] |
■Delivery Index
Deliveryのまとめ
Delivery Indexを左から右にご一読ください。第1回において,各項目の重要性を俯瞰しました。第2回から11回までにおいて,各項目について解説を行いました。Deliveryにおいて最も重要な構勢は,大きな声で話す(第5回),相手の目を見て話す(第7回),姿勢を正して話す(第8回)の3点です。「自分らしさ」を失うことなく,この3点が達成できれば,全体的な印象は大幅に改善します。
日本人のための特記事項
(1)「I'm sorry」を繰り返さない私たち日本人は,目上の者に対して,相槌のように「すみません」を繰り返す習慣があります。このノリで,英語圏で「I'm sorry」を繰り返すと,とても奇異に響きます。途中で思考が途絶しても,言葉がつかえても,「あやまる」必要はありません。
(2)「Ah」や「Eh」を連発しない。
日本語の「えーと,えーと」に相当するverbal pause「ah」や「eh」は,一度や二度であれば,問題ありませんが,一文ごとに繰り返されたりすると,とても耳障りです。自分では意識していない場合がありますので,他者に評価してもらうことが大切です(第6回)。
(3)必ず結論を述べる。
ContentsとDeliveryの双方にまたがる注意事項ですが,日本人のプレゼンテーションは,終盤が消え入るようで,いつ終わったのかわからない傾向にあります。自分の話には,自分で「落ち」をつけましょう。自分の結論を提示しないまま,相手が結論を出してくれることを期待する姿勢は,英語圏では「卑怯者」または「臆病者」と映り,信頼を得られません。常に,結論と要約を準備してから,話を始めましょう。
♪終楽章(finale)
本連載に対して,日本国内のみならず,世界中でご活躍中の読者から,電子メールをいただきました。また,医学生,医師の皆様に限らず,科学者や英語教諭からも,ご意見とご批判を賜り,多くを学ばせていただきました。この場をお借りして,厚く御礼申し上げます。No pain, no gain! 努力なくして,得るものはありません。にわか雨が多くrainbow stateのニックネームを持つ米国ハワイ州では,No rain, no rainbow!とも言います。雨が降らなければ,虹も見えません。各自の虹をめざして,ともに学び続けましょう。
●「新」しい声を是非「聞」かせてください。
E-mail:nakaya@deardoctor.ac
※本連載をまとめた単行本は,今秋刊行予定です。ご期待ください。(本紙編集室)
【筆者略歴】
京大工学部修士課程終了。阪大医学部卒。東京医大八王子医療センター腎臓内科助手を経て現職。全米で唯一ハワイ大学医学部だけが持つFaculty Development Program「医学教育フェロー」を修了した最初の日本人として,同大学のカリキュラム開発(次世代Triple Jump & Clinical Reasoning)に従事。日本国内の医学部からも客員教授/教育顧問として招聘を受け活躍中。 |