医学界新聞

 

レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 12
親しき者にも礼儀あり(後編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


【前回からのつづき】

 研修医の研修生活を支えてくれる人,職種は数限りないが,やっぱり一番の支えはこれまた研修医である。研修生活ゆえの不安やつらさ,きつさの一番の共感者,研修医。研修医同士のつながりは孤立を防ぎ,磨きあい,将来を語りあい,実りある研修医生活の基盤となる。大学時代なら,「俺,友達いないんだよ」と言っても,なんとなくアウトローでかっこいいが,研修医が「俺,友達いないんだよ」といえば,悲惨そのものである。


引き継ぎは丁寧語で

 救命センター深夜。当院では0時30分で外来当直が交代になる。研修医の引き継ぎ場面。

研修医A「おーい,○○。この患者頼むよ。もう俺,腹へったよ」

研修医B「診察終わった?」

研修医A「右季肋部痛なんだけどね。エコーでは胆嚢炎ぽくないし,血液データもはっきりしない。ちょっと貧血あるんよね。直腸診しといてぇ」

研修医B「お前なあ,直腸診ぐらいしてけよ」

研修医A「ああ? もう疲れたよ。昨日も,全然眠れなかったし」

 患者はいったん帰宅後,翌日再来。右下葉の肺炎の診断で入院した。

コメント

 同僚の気さくさゆえに,つい友達言葉で話してしまいがちな関係。しかし,その言葉遣いとともに,自分の心の中に油断や甘えが出てきやすい。例えば,まったく面識のない医師に引き継ぐ時に,上記のような言葉が出るだろうか? 言葉も丁寧になり,評価も丁寧になるだろう。このようなことから思わぬ見逃しが生まれかねない。見ず知らずの医師に引き継ぐつもりで,丁寧に引き継ごう。友達同士とは言え,命を預かる仕事なのだ。

CAUTION

自分の言葉遣いは直せるが,他人の言葉遣いを矯正するのは難しい。自分がこのような引き継ぎを受けた時こそがもっとも要注意な場面だ。疲れから来る他人のいい加減さが,なぜか自分にも移ってしまう。患者理解の第一歩で話した内容に,「悪印象なら丁寧に」をあげたが,この場合にもあてはまる。別に患者自身に悪印象を持っているわけではないが,なんとなくnegativeな感情が,いつの間にか患者評価をいい加減にしてしまう自分につながりかねない。

同僚だから指摘できること

 病棟で噂が聞こえる。「A先生ってさ,なんか口が動いているよね。あれ,ガムじゃないの? なんで噛むの? 感じよくないよね」その一部始終をたまたま研修医Bは聞き留めた。後日,研修医室での会話。

研修医B「なあ,病棟の看護師さんが言ってたよ」

研修医A「え?」

研修医B「ガム噛んでるだろ。あれ,やめたほうがいいよ」

研修医A「あ,そうね。あんまり意識してなかったけど」

研修医B「けっこう評判よくないよ。すごく大事な理由がなければやめたほうがいいと思うよ」

研修医A「そうね。わかった,ありがとう。助かったよ」

コメント

 病棟で悪い噂がたった時,助け合えるのはやはり同僚である。指導医には噂が届いていなかったり,指導医の立場から言うほどのことではなかったり,逆に指導医から話すと角が立ちすぎたりすることがある。研修医の中には,「自分になにかよくないことがあって噂になってたら,絶対に教えてね」と話し合っている者もいる。同僚が少なくなってくる指導医にはうらやましい情報網。ぜひとも有効活用したい。ここで大事な心構えは,指摘を受けたら「ありがとう」と言える寛大さである。

 学会や講演会で受ける印象としては,演者が会場の質問に対し,「大変重要な指摘をしてくださりました」とか,「それは,とてもすばらしい質問です」と,相手を受け入れたうえでのディスカッションは建設的になり,むきになって答えるような応対だと,泥仕合のようになる。そんな将来の局面のためにも,友人の指摘に寛大であることを原則にしたい。

同僚だから指摘できること
 病棟で悪い噂が立った時,助け合えるのはやはり同僚。貴重な情報網を有効活用しよう。指摘を受けたら「ありがとう」と言える心構えが大事。

きつくても挨拶をしよう

 ある冬の朝。循環器内科研修中のAは立て続けの心筋梗塞入院で,呼吸器内科研修中のBはICU管理中の重症肺炎で寝る暇がない。2人が廊下で出くわした。

研修医B「お,おはよう! 最近きついねえ」

研修医A「(軽く相手をみて)……。」

研修医B(なんだあいつ!! きついのはお前だけじゃないんだよ!)

コメント

 自分がきつくない時に人に優しくするのは簡単である。きつい時にこそ笑顔や優しい言葉を大切にしたい。仏教には顔施(がんせ)という言葉があり,和やかな表情も大切なお布施のひとつらしい。この場面,相手の目を見て,「おはよう」と言うには1秒もあれば十分である。情けは人のためならず。「一生を変える,一瞬の気遣い」と言っても過言ではないだろう。

CAUTION

笑顔が大事といっても,自分がうつ状態であれば無理してはいけない。休むべきである。筆者は,仕事が遅れがちで,同じことを繰り返し忘れ始めた頃に「それ,うつ状態の初期よ。頑張るんじゃなくて,仕事減らしたほうがいいよ」と上司からアドバイスを受け,なんだか安心して仕事を減らした経験がある。

同僚は宝物,嫉妬は大敵

編集者A「先生,面白いスライドを作ってるそうですね。それをもとに連載してみませんか?」

医師H「えっ。ありがとうございます。やってみたいです。でも,誰から聞いたんですか?」

編集者A「実は,○○先生から推薦がありましてね。とても面白くて,ためになると紹介いただきました」

医師H「えっ!! 本当ですか? ○○さんが,そんなふうに評価してくれているなんて,ぜんぜん知りませんでした」

コメント

 優秀な人はわんさかいる。同期にも先輩にも後輩にもたくさんいるのである。自分のふがいなさが嫌になったりすることもある。しかし,嫉妬してはいけない。ある意味,優秀な同僚の存在こそが,知らず知らずに自分を伸ばしてくれるのである。また,その秀才が,どこで自分をどのように評価しているはわからない。予想外の時期に,予想外の人が,予想外の部分で自分を評価してくれる場合がある。

 「こいつは俺のことを,馬鹿だと思ってるんだろうな,評価してないだろうな」なんて決め付ければ,いつか赤面の思いをするか,損をするだろう。自らへの反省もこめて,本章の結びとしたい。

次回につづく