医学界新聞

 

《シリーズ全4回》
地域医療を守れ!医師確保に向けた取り組み
第 4 回( 寄稿 )
島根県における専門医養成プログラム
中川正久 氏
島根県立中央病院長


2626号よりつづく

 「症例も指導者も少ない地方に赴くと,同年代の医師から遅れを取ってしまうのでは?」「重責の中で学会活動や研究が不可能になるのでは?」……。医師確保に取り組む際には,若手医師のこうした不安を取り除き,医師が地域に定着するための体制づくりも不可欠となる。

 島根県では,地域医療を志す県外の医師を呼び込む「赤ひげバンク」を設置したほか,大規模病院と中小病院の勤務を組み合わせた「専門医養成プログラム」により医師の技術力向上や勤務環境を保証する試みをはじめた。本シリーズの最終回では,これらの事業で主導的役割を果たした島根県立中央病院の中川正久氏にご寄稿いただいた。


 島根県は隠岐諸島を有し,山地が日本海まで迫っているため平地が少なく林野が県土の約80%を占めているなどの地理的条件もあり,離島,中山間地域においては長期間にわたって医師の確保に困難を極め,医療過疎の状態が続いていた。

 1980年,自治医科大学第1期生を島根県職員として初めて島後町村組合立隠岐病院(現隠岐広域連合立隠岐病院)に派遣した。それ以来,毎年2名程度の自治医科大学卒業医師を地域医療機関に派遣するようになった。

 1992年に島根県へき地勤務医師確保協議会(現島根県地域医療支援会議医師確保部会)を設置して以来,さまざまな地域医療支援制度を創設し,実施してきた。しかしながら,2004年度,国立大学が法人化されたこと,新たな初期臨床研修が開始されたことなどから大学医学部から地域医療機関への医師派遣が減少し,総合医のみならず産婦人科,精神科などの専門診療科の医師不足といった新たな事態も生じている。

 このような状況に対して,島根県では専門医養成プログラムを準備し,「しまね地域医療支援センター」を設置した。

医師確保・育成に取り組む しまね地域医療支援センター

 「しまね地域医療支援センター」は,従来からの地域医療支援制度に新たに専門医養成プログラムを加え,島根で働く医師を《呼ぶ》《育てる》《助ける》の各事業を総合的に推進するため設置された(図1)。

専門医養成プログラム
 専門医養成プログラム(図2)は,2004年度からはじめた全国に例のない試みで,専門診療科(産婦人科,精神科など)の医師と総合医を全国から募集し,大規模病院と地域の中小病院との勤務を本人の希望に沿って組み合わせたプログラムであり,医師にとって魅力ある比較的長期の勤務ローテーションである。

 このプログラムでは,勤務する医師は原則免許取得後6年目以降とするが,このプログラムによる勤務を前提として,島根県立中央病院等において専攻科研修(卒業後3-5年目,嘱託医)が可能である。本人の希望を考慮するが,1か所の勤務は2-3年とし,大規模病院と中小病院をセットで勤務することが基本である。また,勤務する医師のバックアップ体制も確保し,学会出張等の研究費も用意している。さらに,プログラム期間中において,勤務上の問題や生活上の問題など,気楽に相談できるようプログラム・サポーター(専任の医師)を配置している。このプログラムの参加医師や地域医療に携わる医師の意見交換などの場として「しまね地域医療の会」を立ち上げ,年2回の開催を予定している。

 このプログラムにより,1名の外科医師が2004年10月から地域医療機関での勤務を,また1名の医師が今月から島根県立中央病院において専攻科研修を開始した。

赤ひげバンク
 2002年に開始した事業で,県内外の医療従事者とネットワークを作り,島根県で地域医療を志す医師を迎え入れるのが目的である。現在173名の医師の登録があり,2002年度に5名,03年度に1名,04年度に5名(専門医養成プログラムの2名含む)の医師が島根県に赴任した。間もなく,さらに2名の医師がこの事業を介して島根県の医療機関に勤務する見込みである。

臨床研修病院連絡会議
 学生のうちから地域医療を学ばせるとともに,初期臨床研修医にとって魅力ある研修プログラムを提供することにより,県内研修病院での研修を促し県内定着につなげ,さらにこの中から専門医養成プログラム参加医師を獲得することを目的に,2004年12月に「臨床研修病院連絡会議」を立ち上げた。

 この連絡会議は県・島根大学・県内臨床研修病院で構成されており,島根県が一体となって医師確保に取り組むスタイルを定着させることも大きな目的のひとつである。自治医科大学,他県との連携を図りながら,2005年度より本格的に具体的な事業に取り組む予定である。

おわりに

 島根県が現在実施している医師確保対策について,その一部を紹介した。今後さらに,県・大学・県内医療機関・各自治体が一体となり,連携を深めながら地域医療の確保・充実を図るとともに,今後の地域医療のあり方等についても協議を継続していく所存である。


中川正久氏
1970年京大卒。同大学病院,彦根市立病院,島根医大病院,大王町国民健康保健病院院長などを経て,2000年4月より島根県立中央病院院長。全国自治体病院協議会「医師確保対策検討委員会」委員。