医学界新聞

 

「心はひとつ!」社会への貢献をテーマに

第69回日本循環器学会開催


 第69回日本循環器学会が,さる3月19-21日の3日間にわたり,山口徹会長(虎の門病院院長)のもと,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。テーマは“Joining Hearts: Collaborating with Medical Professionals to Serve Our Communities”(心はひとつ!プロフェッショナルが手を携えて社会へ貢献)。同学会69回の歴史の中で会長が大学以外から選出されるのは初めてで,学術のみならず医療に軸足を移した,さまざまな新しい試みが行われた。


 会期中,学会認定専門医のボランティアによる市民向け心臓病相談会が行われたが,200人の医師に対して380人の一般市民がセカンドオピニオンを求めるなど相談に訪れた。また,テーマに合わせてコメディカルセッションが今までになく充実。各5題のシンポジウムと教育講演,250題のポスター発表が行われ,1000人あまりのコメディカルが参加した。

 同学会はアジアでのキーミーティングをめざし,新知見などを論じるセッションを英語で行うようになって5回目となる。今回もプログラムの約47%が英語で行われた。海外からの参加者を支援するためにトラベルグラント制度が新たに導入され,およそ60人に支給された。海外からの参加者は約250人,応募演題は昨年の2倍以上の150題であった。

 今回の総演題数は約2200題,参加者は約1万3000人で,学生・研修医も150人ほど参加し,学会は盛会裡に閉幕した。

■循環器領域における性差医学を議論

 学会に先立つ3月15日に市民公開講座「女性における心疾患」が天野恵子氏(千葉県立東金病院)の司会で行われたが,会期中にもラウンドテーブルディスカッション「循環器領域における性差医学」(座長=天野氏,鹿児島大 鄭忠和氏)が行われた。

 はじめに友池仁暢氏(国循)は,吹田市の住民に対して行った調査をもとに口演した。脳血管疾患と虚血性心疾患は加齢とともに増加するが,いずれも男性の方が高頻度であった。両疾患の男女比は虚血性心疾患の方が大きく,高血圧,脂質異常,糖尿病の併存率は虚血性心疾患で高かった。高血圧,脂質異常,糖尿病の有病率は性と年齢で異なるが,特に女性の脂質異常が50歳以降に顕著であった。友池氏は生活習慣の疾病への影響が性によって異なるとしたうえで,年齢と性を考慮した生活習慣改善の指導,疾病対策が循環器病の予防に必要であると述べた。

 「女性はより高齢で心筋梗塞に罹患する」「女性の心筋梗塞患者では高血圧や糖尿病を合併していることが多い」など,海外での臨床研究では性差が指摘されている。佐久間一郎氏(北大)は,それらが日本にもあてはまるか,心筋梗塞の性差について口演した。約1400例に対する検討の結果,(1)女性は男性より高齢で心筋梗塞に罹患,(2)女性は男性より高血圧の合併が多く,糖尿病はやや重症,(3)女性では総コレステロールとLDLコレステロール,HDLコレステロールが男性より高い,(4)女性は男性と比べBNPが高く,より心不全傾向が強い,ことなどがわかった。

 また,心筋梗塞の発症に関与する冠危険因子に男女差があるか否か検討した結果,男性では低HDLコレステロール血症,高血圧,耐糖能異常が重要な危険因子であった。女性では,まず高血圧,次いで低HDLコレステロール血症,耐糖能異常が重要な危険因子であった。比較的若年で心筋梗塞を発症した女性では,それら3つの危険因子が非常に高いオッズ比を呈した。

 河野宏明氏(熊本大)は,女性の労作性狭心症発症のピークが男性に比して10年遅れることを明らかにした。冠動脈疾患の危険因子については性差が認められ,女性では喫煙が特に重要である,と述べた。また,女性に対するホルモン補充療法は子宮体がん予防目的で使用されるプロゲステロン製剤が冠動脈に悪影響を与えている可能性がある一方で,男性に対するDHEA補充療法は血管内皮機能,インスリン感受性を改善させることから,抗老化ホルモンとしての可能性がある,と述べた。

 中川幹子氏(大分大)は,性と不整脈の関係について口演。不整脈には明らかな性差が存在し,その機序として,性ホルモン,イオンチャネルの分布や密度,自律神経活性等における性差が関与していると考えられる,と述べた。不整脈の予防・診断・治療に際しては,それぞれの性における特性を理解したうえでの対応が必要である,と強調した。

 最後に登壇した岡島敦子氏(厚労省)は性差医療に対する厚労省のこれまでの取り組みと今後の課題について解説。今回のセッションではさまざまなデータが示されたが,今後もエビデンスの蓄積が求められる,と述べた。また,生活習慣病の観点からの対策の重要性を強調した。

 その後の討論では,エビデンスに基づいて現時点で予防・治療をどう考えるかが議論されたが,演者からは基準値,ガイドラインの見直しを求める声が多く聞かれた。最後に,座長の天野氏は微小血管狭心症を例に,医師による患者への啓蒙の必要性を強調した。

■PCIに関するセッションが充実

 今学会ではPCI(経皮的冠動脈インターベンション)に関するセッションが多く設けられた。

 開会前日の18日には同学会として初となるライブデモンストレーションが「虚血性心疾患を診る治す」と題して行われた。東邦大大橋病院,昭和大横浜市北部病院と会場をハイビジョンでつなぎ,方向性冠動脈粥腫切除術(DCA),ロータブレータ,薬剤溶出性ステント(DES)を用いた治療手技が供覧された。

 美甘レクチャー(海外招聘特別講演)ではPatrick W. Serruys氏(オランダThoraxcenter, Erasmus Medical Center)が「PCI: From Mechanics to Gene Therapy」と題して講演。現在開発中の携帯式キットにより医師が患者に応じて薬剤を選んで作れるDES,生体吸収性ステント,血管内皮前駆細胞をコーティングしたステント,VEGF遺伝子やc-mycのアンチセンス遺伝子を溶出するステント,化合物からNOを放出するステントなどが紹介された。

 会長講演「Contribution of PCI to Clinical Cardiology」では,山口会長が(1)PCIとそのデバイスの歴史,(2)冠動脈疾患治療へのPCIの貢献,(3)冠動脈疾患解明へのPCIの貢献,(4)将来展望,について述べた。

 その他にもシンポジウム「New Technologies in the Drug-Eluting Stent Era」,トピックセッション「次世代のDES」などが行われた。