医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


看護研究はじめの一歩

岡本 和士 編集
岡本 和士,長谷部 佳子 著

《評 者》堀 容子(名大助教授・看護学)

読めば研究を はじめたくなる

 本書には,「看護研究って楽しそうだな,やってみようかな」と読者をその気にさせるパワーがある。ともかく,簡潔,明快,具体的であり,さらに親切である。編者の言葉を借りるならば,かゆいところに手が届き,肩がこらないような工夫が随所になされた本である。また,研究者にとっては常識であるが,常識すぎてテキストに掲載されないようなことがらも丁寧に拾い上げられている。まさに,看護研究初学者に読んでもらいたい一冊である。

 本書は,すべてQ&A方式でまとめられているため,自分の疑問や関心にあわせてどこからでも読みはじめることができるようになっている。編者は,数年にわたり愛知県立看護大学で学部生や院生,臨床看護師などの研究指導に携わってきた。Q&Aの内容は,この豊富な経験で培ってきた初学者の疑問を凝縮したものである。また回答は,本文以外に2-3行で簡潔に述べられており,瞬時にポイントを理解できるようになっている。このポイントを頭に入れて本文を読むことで,回答に対する理解がより深まるという心憎い配慮がなされている。とりあえず,質問と回答のポイントを読むだけでも研究に対する自身の知識がクリアに整理されるので,看護研究の勉強の必要性を感じながらも,日々の業務に追われ,なかなか第一歩を踏み出せない臨床看護師に読んでもらいたい。もちろん,看護学生,大学院生にとってもきわめて有用なのは言うまでもない。

 本書は,8Step 60項目のQ&Aで構成されており,主な内容は,「研究とは何か」「研究テーマについて」「文献や研究の原則について」「研究計画について」「倫理的配慮について」「データ収集について」「データ解析について」「論文の書き方について」である。上記から,本書が研究の基本をきちんと押さえたものであることが確認できる。

 また,本書の特徴のひとつとして,説明内容のきめ細かさがあげられる。例えば,テーマの絞り込みの手順,自分のオリジナリティの見つけ方,質の高い論文を選ぶためのチェックリスト,文献の役割と読み方のコツなどである。これらは図表あるいはコラムとして提示されており,実践的な工夫がなされている。読み終えた人は,きっと研究をはじめたくなるに違いない。第2の特徴は,口語文による日常用語を使っての文章である。例えば,「研究とは自分の設定した研究目的に対し解答を与える作業です」「研究の原則は,研究のあらすじが首尾一貫していること」「目的と結論が対応しなくなる最も大きな理由は,研究目的が明確でないことです」。このように本文は,平易な口語体で書かれているため,そのまま研究指導で利用することができ,初学者を教える看護教員の指導書としても活用できる優れものでもある。

 本書は,看護研究の実用書でもあるが,編者の研究哲学が伝わってくる一冊となっている。ここに,類書と異なる点があると思われる。本書を読んで,研究にも人柄が出ることに気づいていただければ幸いである。

A5・頁168 定価1,890円(税5%込)医学書院


医療安全ワークブック

川村 治子 著

《評 者》久常 節子(慶大教授・看護学)

この春,看護師として スタートするあなたに

 ヒヤリ・ハット体験者5万人のうち17%近くが新人だったという話を聞いた。国家試験も無事合格し,いざ,プロとしてスタートという時に,こんな話を聞くと急に不安が押し寄せてくる。患者の安全と自分自身の看護師としての職業生命を守るために,あなたは何か手を打っているだろうか? 神に祈るだけという人に是非お薦めしたいのが,この川村治子著『医療安全ワークブック』である。

 川村治子氏は,看護のヒヤリ・ハット1万事例の分析であまりにも有名な研究者である。私が先生から直接話を聞かせていただいたのは,ほんの1-2年前。先生に授業にきていただいた時である。この時,感銘を受けたのは先生の研究方法であった。事例の事実整理から学んだこととおっしゃっていたが,1万事例を表象レベルで整理し,抽象化し過ぎず,現場で生かせる研究のまとめ方に感動した。口で言うのはやさしいが,1万事例を統計処理でなく,事例として活かしつつ,まとめていくことは並大抵のことではない。研究が現場の人間に役立つこと。このことに価値をおいていなければ,こんなしんどいまとめはできないだろうと,研究方法を通して先生の医療安全を願う心情に触れた気がする。

 その先生が,多くの現場の看護には判断がなく,直ぐ行為に走ってしまう傾向を見抜かれ,新人のために書かれたのが本書である。本書の“はじめに”には,「医療事故防止のためには,リスク感性を向上させなければならないと,よくいわれます。この感性は,自然に育つわけではありません。少なくとも“危険”と判断できるための知識が,実際に使える形で身についていることが,リスク感性向上の必須条件です。使える形の“危険”の知識とは,看護業務や行為の視点から『してはならないこと』や『するべきこと』を知っているにとどまらず,それがなぜかを理解していることです」とあり,読者が問題意識をもって理解できることをめざしていることがわかる。

看護業務を知り抜いた実践訓練の書
 本の構成も実践的で,クエスチョン・アンサー・コメントの演習形式をとっている。全体は3部からなり,ユニット1は,危険な診療の補助業務について,ユニット2は,臨床で遭遇する計算場面(注射準備・実施,酸素ボンベ使用時)が取り上げられ,計算に至る考え方を理解することを支援している。ユニット3は,療養上の世話に関する事故発生場面をイラスト化して潜む危険を判断する訓練ができるよう工夫されている。看護業務を熟知しつつ潜む危険について紙上で訓練を施す。いったい,こうした本が,今まであったろうか。こうした本の構成とユニット3でとられた問題提起のあり方をみると,改めて川村先生の教育者としての優れた資質とセンスを感じないわけにはいかない。新人看護師のみならず,いかに教育しようか悩んでいる教師にも是非すすめたい。

B5・頁224 定価2,940円(税5%込)医学書院


論文が読める!早わかり統計学
臨床研究データを理解するためのエッセンス 第2版
PDQ Statistics 3rd Edition

Geoffrey R. Norman, PhD;David L. Streiner, PhD 著
中野 正孝,本多 正幸,宮崎 有紀子,野尻 雅美 訳

《評 者》柳井 晴夫(大学入試センター研究開発部教授・統計学)

医学・看護学領域における 統計的手法のすべてを一冊に

 本書は1986年に初版,1997年に2版,2003年に3版が出版された『PDQ(Pretty Darned Quick)Statistics』の3版の翻訳書である。同一の訳者によって第2版の訳書(翻訳1版)が1999年に出版されている。

 本書の特徴を述べてみよう。第1は,本書は「いわゆる統計学の入門書ではない」点である。そのため多くの統計学書に記載されてある数式の記述は最小限にとどめられ,読者が統計学を使用した数多くの論文を批判的に読めるように豊富な数値例が随所に取り上げられている。

 第2の特徴は本書で取り扱われている統計的手法の多様さにある。全体は4つのPart,すなわち,「変数と記述統計学」,「パラメトリック統計学」,「ノンパラメトリック統計学」,「多変量統計学」に分かれ,さらにそれぞれのPartが細分化され,全21章となっている。Part4において,因子分析を含む多変量統計学(多変量解析)の諸理論が,1変数および2変数の統計理論と併記されている点にも本書のユニークさがある。

 本書(翻訳2版)においては,3つの章が新たに加えられた。まず第1に,17章で,わが国においては1990年代以降心理学の分野で,やや遅れて医学,看護学の分野においても注目されるようになった共分散構造分析を含む構造方程式モデルが取り上げられている。構造方程式モデルは「探索的因子分析」の発展としての「確認的因子分析」の手法として位置づけられており,その意味で優れた解説となっている。さらに8章では通常使われている直線的回帰の拡張としての「ロジスティック回帰,一般化線形モデル,階層型線形モデル」,20章では,「グラフ化と欠損値の処理」に関する話題が解説され,そのほか,いくつかの章の表題が変更されるなど,第2版(翻訳1版)の内容をより読みごたえのあるものにしている。

 なお,評者の意見としては12章で取り上げられているマンテルヘンツエルカイ二乗は複数個の2×2分割表を総合化する手法であり,EBM(Evidence Based Medicine)に不可欠なメタ分析の手法で1つの章として独立させることが望ましいと考える。さらに,Part4で,テスト理論の発展として最近注目されている「項目反応理論」を加えれば,21世紀において医学,看護学,心理学等領域において必要とされる重要な統計的分析手法が網羅されることになるであろう。

 第3の特徴は,各節の最後の部分に具体的な例題をあげて,それに対する質問と回答(Q&A)が与えられており,それぞれの章がどの程度理解できたかを読者自身が自ら判定できる点である。また,翻訳は翻訳1版と同様,たいへん読みやすいものとなっている。

 以上まとめると,本書は医学・看護学・心理学などの分野における研究論文に現れる統計学的手法が豊富な数値例によって,きわめて平易に解説されたもので,評者があえて命名すれば「21世紀用統計的諸理論の解説書」と言えよう。この意味で医学・看護学における研究者自身の副読本として,さらには,「統計学講義」および「研究法」の講義における学生の参考書としてもきわめて有用な書として推薦できる。

A5・頁312 定価4,095円(税5%込)MEDSi


ベナー 看護ケアの臨床知
行動しつつ考えること

井上 智子 監訳

《評 者》舟島 なをみ(千葉大教授・看護学)

すべての看護師にとっての「宝物」

 本書は,『ベナー看護論』(井部俊子ほか訳,医学書院,1992)で知られるパトリシア・ベナーを中心としたグループによる研究の報告書『Clinical Wisdom and Interventions in Critical Care』の翻訳書である。全12章,792頁からなる壮大な書であるが,全編にわたり,研究対象となった看護師が語る豊富なデータを織り込んでいる。いったん読みはじめると,読みやすく臨場感あふれる翻訳がその内容へと引き込み,あっという間に「読まされ」,読み終えていた。また,看護師が人々の健康と幸福に貢献する価値ある仕事であることを再確認するとともに,自分自身がその看護師であることを改めて誇らしく思った。

 第1章は,研究方法とその理論的基盤を概説している。その表題「行動しつつ考えることと推移を見通すこと」は,患者自身や患者を取り巻く人的・物的環境が常に変化し,不測の事態が多発する中,看護師が,決まり切ったことを決まり切ったようにするのでも,計画を計画通りするのでもなく,「常に行動しつつ考え」判断していること,その背景には「推移を見通す力」が存在すること,さらには,それが看護の質を支えているという前提を象徴している。

 第2章以降は,研究結果として創出された臨床知をテーマ毎に概説している。そこには,検査の数値には表れない患者の微妙な変化を察知し,様々な情報の統合からその重要性を読み解き看護に結びつけていく看護師,他の看護師や医師を巧みに巻き込みながら患者や家族の希望を叶えていく看護師,患者の意欲や家族の協力をさりげなく引き出し両者の悔いのない闘病や臨終を支えていく看護師等,様々な看護師の姿が描かれている。のべ285名から収集した膨大な面接データ,観察データの分析からこのような看護師の思考や行動を臨床知として言語化することに成功した著者等に敬意を表さずにはいられない。

 本書の邦題は,原題の「Critical Care(クリティカルケア)」という用語を用いておらず,監訳者は,その理由を,「本書の内容がクリティカルケア領域にとどまることなく看護全般に通じる財産であり,領域を越えて1人でも多くの看護職にこれを伝えたいと感じたから」と述べている。同感である。本書は,私たち看護師自身が学ぶべき,また,学生や後輩に伝えたい宝物に満ちている。様々な場,領域で活動するすべての看護師の皆様に本書をお勧めしたい。

A5・頁816 定価5,670円(税5%込)医学書院